北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『イップ・マン 序章』の感想


 先週の話ですが、『イップマン 序章』観ました。新宿武蔵野館です。観たのが1日のサービスデイ、そしてアカデミー賞の発表の翌日ということで、『英国王のスピーチ』を公開している武蔵野館の込み具合は殺人的でした。

 『イップマン 序章』というタイトルだと、後から作られたエピソード1モノみたいな感じですけど、違いますからね。ちゃんとした1作目です。これがヒットしたから続編が作られただけです。
 日本ではなぜかわからないですけど、続編が先に公開されたんですよね。『イップマン 葉問』が。
 ややこしいんで、今回は『イップマン 序章』を『イップマン1』、続編である『イップマン 葉問』を『イップマン2』と表記します。

 『2』の方はもう既に観てるんで、感想書いてあります。興味あったら感想読んでくんちぇー。

 『2』を先に観て、今回『1』を観たので当然不都合はありまして。「『2』のあのシーンはこのシーンと呼応していたのかー」なんてことを幾度となく感じました。
 『2』であった、弟子「師匠、十人と同時に戦うことになったらどうします?」 イップマン「逃げる」 ってシーンは『1』を踏まえたシーンなんですよね。
 それに、「対決よりも家族の食事の方が大事でしょう」ってシーンも『1』のイントロとまったく同じですからね。
 そういう意味で、『2』は続編としてよく出来てるんですよ。ただ単におもしろいだけじゃなく、『1』のファン向けのサービスが詰まってたんだね。


木人は俺の嫁

 『1』を観ないとワケがわからないシーンの極めつけが木人椿。
 『2』でのラストバトルの直前、イップマンは特別な訓練をするワケでもなく木人椿を使った基礎的な訓練を繰り返す。出産を控えた妻と離ればなれになりながら。
 『1』で木人になんて書いてありましたか? あの文字があることを知ってると知らないじゃ、まったく意味が違うでしょ。
 『1』のラストバトルの時に「そばにいたいの」と泣きながら訴える嫁のことを踏まえると号泣度が全然違いますよ。
 さらに、『1』のラストバトルではラスボスを連打するシーンと木人での訓練のシーンがフラッシュバックして重なるんですよね。そして、『2』のラストバトル直前には木人の訓練。つまり、『2』での決戦は『1』の決戦を凌駕していることがわかる。そんなことを考えると、『2』のラストバトルでなにがフラッシュバックして、イップマンの戦いがなにと重なるのか、ということを考えると号泣ですね。自分で書いてて泣けるよ。



   あらすじ
佛山は武術の町
イップマンはその街で最強の男
街の人からの信頼も厚い
日中戦争が起き、佛山は日本軍の統治下になる
空手の実力者である三浦大佐に目をつけられ、対決することに



 『1』を観ると、『2』を観た限りでは信じられないほどイップマンは金持ちなんですよね。
 金、屋敷、美人の嫁さん、最強の腕っぷしを兼ね備えたイップマンが日本軍の占領により財産を奪われ、貧乏暮らしを強いられる。画面のトーンが、最初は明るかったのに日中戦争が始まると、暗くなってしまうのが印象的。
 そこで、イップマンと嫁の夫婦愛が描かれる。『2』ではあまり描かれなかった夫婦愛。裕福な時には小言ばかり言って、武術に理解がなかった嫁さんの心境の変化が描かれる。
 『2』観た時にはさ、「この夫婦、仲いいのか悪いのかよくわかんねぇな」とか思ってたけどさ。全然違った。『1』でしっかりと描いてあるから『2』ではそれを前提として作られてただけなんですね。


イップマン最強伝説

 成長するのは嫁さんだけじゃなくて、イップマン本人も成長する。『2』では寡黙で、穏和な人格だったけど、『1』ではそこまで大人じゃない。ブチギレて十人相手に組み手をするシーンのイップマンは鬼ですからね。寸止めなどせずに相手の人体を破壊するための最短距離を攻め続け、十人を圧倒する。『2』にはなかった狂気のシーンで素晴らしかったです。
 そんなイップマンが日本軍の前で自らの無力さを思い知る。道を通る日本兵に黙って道を譲ることしかできない。
 そんな中、とある工場の人に武術を護身用に教えることに。武術を通じて工場の人は中国人としての誇りを取り戻していくんですよね。同時にイップマンも中国人としての誇り、中国人のためにできることを見出す。
 そんな時に、日本軍の大佐から「日本兵中国武術を教えろ」なんて言われちゃうんだよね。

 そんな日本軍。日本の描写が問題視されてると思うんですが、全然気にならなかったです。まぁ、ワタクシがそういう意識が弱すぎる、というのはあるんですが。
 そうじゃなくても、本作のラスボスである三浦大佐は普通にカッコイイ武術家だからね。魅力的な悪役ですよ。池内博之が演じてて。『スペースバトルシップ』なんて出てる場合じゃねぇよ!!!

 そんな池内博之演じる三浦大佐。ワタクシ、すっかり魅了されてしまいまして。正直、本作でイップマンよりも好きです。
 三浦は日本兵でありながら武術が好きな空手家で、中国武術にもリスペクトを持ってるんだよね。自分の道場に武術家を集めては、配下の空手家と組み手をさせて、見物。勝敗に関係なく米袋をあげる。まぁ、この行為が中国サイドから見たら、侮辱行為とも思えるかもしれないんだけど。三浦にそんな悪意はない(と、個人的には感じた)。
 イップマンの組み手を見て、三浦は魅了されちゃうんだよね。それまでは2階から高みの見物を決め込んでいたのに、組み手を見たら1階に降りてくる。腐った見方をすれば、この瞬間、三浦はイップマンに恋に落ちる。
 しかし、悲しいかな、イップマンは日本兵に対して憎しみしかない。というのも、その先日、三浦はとある中国人を組み手で殺してるんですよね。殺してるっていっても、背中を襲ってきたのを返り討ちにしただけ。不意打ちをしたのは中国人の方なんだけど。
 とはいえ、殺したのは事実。その事実のため、イップマンは三浦に対して、日本兵に対して決して好意を示さない。
 三浦のイップマンに対する叶うことのない片想い。泣けるのぉ。

 そして、悲劇に通訳が拍車をかける。
三浦「お前、名はなんという?」
通訳「大佐は名前を聞いておられる」
イップマン「ただの中国人だ」
通訳「葉問です、と言っています」
(三浦、十人分の米袋を渡す)
三浦「また、来てくれるか?」
通訳「大佐はまた来いとおっしゃっている」
イップマン「米が目的でやったんじゃない。もう来ることはない」
通訳「また来る、と言っています」

 ・・・・・・すれ違い!!! 通訳(中国人)がイップマンのことを思って嘘ついちゃった。三浦はまたイップマンに会えると勘違いしちゃってる。ホントは嫌われてるとも知らずに。
 その後も、三浦はイップマンに会えると思って手下にイップマンを探させるんだよね。しかし、イップマンにフラれ続ける。悲しいのぉ。
 その後、イップマンは日本兵と争っちゃって、日本軍に殺される理由を作っちゃう。
 三浦はイップマンを殺さないために、中国武術日本兵に指南させるように提案する。そうすれば命は助けると。
 が、その頃イップマンには「中国武術=中国人としての誇り」という考えができているんだよね。だから三浦の申し出は侮辱に他ならない。・・・・またもすれ違い!! 三浦かわいそう!

 日本軍の描き方の件。そんなにヒドイ描かれ方ではないとは思うんですが。イップマンに対して誠意しかない三浦が、いくらなんでも報われなさすぎな気がした。もう少しイップマンと認め合う関係性になると思った。

 それと気になるのが、三浦がイップマンに食事を差し出すシーン。
 日本兵に捕らえられたイップマンは三浦と戦うことになる。牢屋にいるイップマンに三浦が食事を差し出す。礼節に乗っ取って。三浦のイップマンへのリスペクトや想いが伝わるシーンなんだけど。
 ここで、イップマンはそれを断るんだよね。
 このシーンが映画観てて少し不自然に思えた。物語上、そこでイップマンと三浦が認め合うもんだと思ったから。それほどまでに三浦は下手に出てたから。
 このシーンには若干の日本嫌悪が前提としてあるのかなぁ、とは思いました。まぁ、個人的に三浦に感情移入しすぎ、ってだけかもしれませんが。



 今、気づいたんだけど。アクションについてほとんど書いてないや。まぁ、当然素晴らしいよ。ドニー イェン冴えまくりですよ。『2』とは違った魅力の詰まったアクションの連続。
 んで、『2』と本作とどっちが好きかって話になると難しい。やはり最初に観たのが『2』だからその衝撃は忘れがたいんだよね。それに、『2』は『1』を踏まえて作られてるから『1』をスケールアップさせた作りになってると思うし。ただ、『1』で夫婦愛をちゃんと描いてあるから『2』にはそこらへんはあまりないんだよね。
 まぁ、どっちも違ってどっちもいいよ。もっかい『2』観たいね。
 90点。


イップ・マン 序章&葉問 Blu-rayツインパック

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