北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『スーパー!』の感想


ひらがな表記「すーぱー!」にすると萌えアニメっぽくなります


 映画『キックアス』との比較されているのが、本作『スーパー!』。たしかに似てるんですよね。スーパーパワーを持たない一般市民がヨレヨレのコスチュームを着て(小)悪党退治をする、って話だから。
 本作がどれほど『キックアス』の影響を受けて作られたのかは知らないけど、比較は仕方ない作品だと思う。良くも悪くも。
 「『キックアス』よりもイイ!」っていう人の意見はものすごく納得できます。おもしろかったので、どちらも傑作、というので間違いないと思います。好き嫌いは個人のさじ加減なのであまり意味がないんだけど、ワタクシは『キックアス』のが好きかな。
 とはいえ、両作の魅力って実は全然ベクトルが違うからあまり優劣関係にはならないと思うんですけどね。

・あらすじ
取り柄のないオッサン
美人な嫁さんを取られる
神の啓示で、コスチュームヒーローになる
ひょんなことから相棒ができる
嫁さん取り戻そうとする

 やはりおもしろいのは「『キックアス』以降のヒーロー映画」という点。意図されたかはわからないが、やっぱそう観ちゃう。
 『キックアス』の主人公はアメコミオタクがこうじてヒーローになるけど、本作の主人公はコミックなんてほとんど知らない。知っているのは、キリスト教の布教目的で作られたと思われる安いヒーロードラマ「ホーリーアベンジャー」だけ。
 本作の主人公で特徴的なのは、宗教の点。結構な信者なのである。だから自殺は考えないし、不倫なんてありえない。だから、人の罪が許せない。
 そんな彼が、絶望の中、神の啓示を受ける。まぁ、多分、頭がおかしいだけな気がするんだけど。こうして、風変わりなヒーロー「クリムゾンボルト」が誕生する。

 『キックアス』でも描かれたことだけど、ただの一般人(・・・の中でも惨めな方)が正義感だけを頼りにヒーロー活動をしても、フルボッコになるのが関の山。
 そこで、主人公が手に取るのが、スパナ。「それ、人殴る用だろ!」と言いたくなるような巨大スパナ。夜な夜な、街を徘徊し、悪人を見つけては、近づき、スパナでガツン。これがおもしろかったですね。画的にもすげぇ好きだし、人にいきなりスパナでブン殴る、という外道っぷりがたまらない。
 『キックアス』ではビッグダディーとヒットガールというフィクショナルな強さを持つヒーローを出すことで、主人公のショボさを描いてたけど、本作では誰も超人は出てこない。主人公が悪人を倒す術は、狂気。そら、突然スパナでブン殴られたら、誰だって血ぃ流して倒れますよ。もはや正義のヒーローとはかけ離れているけども、一応勝てる。

 主人公は、もはやただの「危ない人」だけど、悪人を懲らしめる。主人公の行動はエスカレート。映画のチケット行列に割り込むヤツを見つけては、車で着替えを済ませ、スパナを振り落とす。割り込みを容認しようとした女にもスパナの制裁。地面は血に染まり、悲鳴が起き、パニックに。
 完全に過剰な制裁なのだけど、主人公の言い分は「悪いことは悪いんだっ!」。この主人公の単純で揺るぎない動機というのがグッとくるんですよ。誰だって考えたことくらいはあるでしょ? 人に迷惑かけてる人を見かけてブン殴ってやりたくなることって。個人的にも身に覚えありまくりだったので、他人とは思えなかったです。
 この正義感が理性を超越してしまった狂気っていうのは『キックアス』でもありましたよね。ただ、『キックアス』ではアメコミヒーローに対するアコガレというのがあった。アメコミに興味がない分、本作の方が純粋。純粋な正義であり、より狂気に近い。
 『キックアス』は自らの無力さを知り、ヒーロー行為がバカらしくなるが、「クリムゾンボルト」の姿勢は一切ブレない。主人公は生まれてからずっと苦悩にまみれた人生を送ってきているので、物語で苦悩パートが挟まれることもない。

 まったくブレない主人公なので、物語に起伏を付けるため、サイドキック(相棒)が登場する。
 これが、エレン ペイジ演じるリビー。主人公と違って、ゴリゴリのアメコミオタク。正義感などなく、アメコミヒーローになりたいがため、暴力に身を委ねたいがために主人公のサイドキックになる。
 サイドキックになる時に彼女は、「私、22歳だからサイドキックやるには年取りすぎてるでしょ。けど、あんたオッサンだからちょうどいいじゃん」と言う。
 個人的にはここでも『キックアス』のことを考えちゃって。「あぁ、この子はヒットガールになれなかった子なんだなぁ」と。これは解釈を越えて脳内補完の領域なんだけど。
 ヒットガールのように魅力的で無敵のヒーローに憧れるも自堕落な生活を送っていたリビーは主人公の狂気を見て、自らの狂気の発散方法を知ってしまう。なので、彼女がサイドキック「ボルティー」となってからは、主人公が引く程の無茶苦茶ぶり。最初の仕事で、早くも人を殺しそうになる。

 このボルティーをエレン ペイジが見事に演じてるんですよね。『ジュノ』以来の当たり役だと思われます。
 もはや『ダークナイト』のジョーカーに近いような狂気の人間を魅力たっぷりに見せてくれます。
 そして、年齢上、ヒットガールでは絶対に考えられない深いテーマ(というか禁じ手)にまで触れ、最終的に「ヒットガールが存在したら所詮こーなるんだよ!」というシビアすぎる現実を見せてくれる。この最後のシーンで、観客はギョッとし、同時に主人公は目覚める。

 主人公はゴリゴリのカトリックなので、人殺しは御法度。だから殺そうとするボルティーにドン引きするんですね。しかし、ドン引きすると同時に、ボルティーにかつての自分を見出す。
 しかし、ラストシーンのボルティーのある姿を見て、タガが外れる。
 ここから、コメディーのノリだった本作は暴力と血に染まる。壮絶な暴力描写が続く。今までたまっていたものが爆発するのでカタルシスはかなりのもの。

 なのだけど、正直、ラストの大暴れシーンは、個人的に少し疑問な点でもあって。
 主人公がいきなり強くなりすぎな気がするんですね。一応、射撃練習をマジメに行う描写はあるのだけど、それだけであの多勢を一掃する実力が付くとは思えない。それまでは、スパナで奇襲をかける、という実力の関係ない行為だったため冴えないオッサンヒーローというリアリティーが生まれてたのに、最後の最後にフツーに強いヒーローになってしまった、というガッカリがあった。

 それと、ガッカリと言えば、主人公の美人の嫁さんのセックスがなかった点。
 リヴ タイラーの、主人公と不釣り合いな美人ぶり、それでいて危うい雰囲気とかはピッタリだったんだけど、本作の場合はセックスがあってよかったんじゃないかなぁ。もちろん、主人公とじゃなくて悪役との。寝取られ、という主人公の地獄は見せてもよかったんじゃないかなぁ。それに、ラストのシーンで、嫁さんが別の悪役に犯されそうになるけど、助かる、っていうのもよくわかんないし。主人公からしたら、自分以外とセックスするのが地獄なのだから、誰とセックスしようが知ったことじゃないんですよ。
 そういやさ、リヴ タイラーって『インクレディブル ハルク』でもセックスしそうになって、ギリギリでしない、っていうシーンあったね。あの映画は明確な理由があり、ギャグとして機能してておもしろかったんだけどね。


 今回は、『キックアス』という映画に振り回されまくった鑑賞だったなぁ、と思います。比較するのはいいけど、なんでもかんでも脊髄反射的に『キックアス』と比較しすぎた気がする。健全な見方じゃなかったかもしれないです。
 まぁ、しかし、「『キックアス』以降の映画」として観ておもしろいのは間違いないですから。『キックアス』が好きな人はとりあえず観たらいいんじゃないですかね。『キックアス』への考えを深める意味でもいいと思いますよ。
 次に『キックアス』を連想してしまうのは映画というと、『ハンナ』がありますね。。シアーシャ ローナンが殺しの英才教育を受けるヒットガール映画ですからね。楽しみでなりません。
 80点。

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