北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『おとなのけんか』の感想


「顔で笑って、心に殺意」ってのも見事


 観たのは随分と昔なのですが、映画『おとなのけんか』。
 サイコーにおもしろかったです。今年の暫定ベスト。

 ワンシチュエーションコメディーで、舞台の映画化だそうです。2組の夫婦による不毛な議論を79分の上映時間丸々かけて描く作品。
 その夫婦にジョディー フォスター&ジョン C ライリー、ケイト ウィンスレット&クリストフ ヴァルツという豪華絢爛なキャスティング。特に後者、『レボリューショナリー ロード』の悪夢的な嫁さんに、『イングロリアス バスターズ』で悪役やってオスカー取った人ですからね。史上最凶の夫婦がここに誕生したと言っても過言じゃないですよ。

 あらすじ
とある2人の子供がけんか
互いの両親が話し合いをしに会合
和解は成立せず、おとなのけんかスタート

 なかなか気の利いた邦題ですよね。ひらがな表記なのが憎い。原題は『Carnage』、惨劇とか修羅場って意味らしいです。
 アメコミのヴィランでそんな名前の人いましたね。そんくらい物騒な言葉ってことなのでしょう。

 前述の通り、キャストが素晴らしいんですよ。全員満点。4人それぞれが違った大人のイヤァ〜な部分を象徴してるんですよね。映画を観てる分には笑えるんだけど、ものすごいイヤなものを見せられる。最悪に最悪をかけた状況が延々と続く。次第に偽善というオブラートで包まれてたキャラクターの邪悪な部分が露見されてきて、悪意が剥き出しになっていく。
 この課程が見事でしたね。ジョン C ライリーなんかは最初毒のない小市民って感じだったのに突然、「ハムスター捨てた」とか言い出して。「えっ・・・・この人なにかおかしい」って戦慄します。
 一番知性的で話し合いの中心にいたと思われたジョディー フォスターも実は偽善にまみれたキャラだったのが段々見えてくるし、悪意の塊となった4人が罵りあってる最中でも、「どうやらまともなのは私だけのようね・・・」とか言っちゃって。個人的には一番嫌いなキャラでした。超ムカツク(ホメ言葉)。
 一方、ケイト ウィンスレットは無茶苦茶な夫に振り回され続けるかわいそうな嫁さん・・・・・・・かと思ったら、最も物理的な破壊行動に出たりしちゃって。キレたら怖い。『レボリューショナリー ロード』の恐怖再び、ですよ。ちなみにね、個人的な趣味なんですけど、ケイト ウィンスレット好きなんですよ(見た目が)。本作の妙な胡散臭さとかもサイコーでしたね。なんといってもゲロですからね。美人のゲロ。丁寧なゲロが描かれる映画は名作ですよ。

 そして、クリストフ ヴァルツ。映画冒頭から不穏な雰囲気を醸ち出してるのがこの人。やはり悪役のイメージが強いからなのかな。そんなこんなで、4人の話し合いをひたすらに滅茶苦茶にする破壊神。おとなのけんかのキッカケになったと言っていいレベル。4人の悪意を引き出すジョーカー的な役目。コメディー的に言うなら超積極的なボケ。終始1発ギャグで笑いを取ろうとする感じ。
 ひたっすらに非常識なんですよね。失礼の塊。ストレス製造機。そんなキャラなんだけど、偽善を突き通すジョディー フォスターに説教をかますシーンがあって、とても意味深。「子供が暴力を使う代わりに大人は法律を使う」みたいなことを言うんですが、偶然だけど邦題の『おとなのけんか』とリンクしてるセリフですよね。また、原題の『Carnage』という単語に劇中で言及するのは唯一この人ですからね。実はこの人が一番世界を理解しているっていうのが現れてると思います。『ウォッチメン』のコメディアン的な存在ですかね。

 そんな4人の不毛な議論がとんでもない速度で繰り広げられる。次々と本性が露見していって、互いに悪意をぶつけ合っていく。当初は夫婦vs夫婦という単純な構造だったのに、いつのまにか悪意の矛先や勢力図がコロコロと変わるから目が離せなかったです。男同士で意気投合したかと思えば、ヴァルツとフォスターという一番馬が合わなそうな2人が手を組んだりして。1つの部屋の中だけで79分突っ走るんだけど、部屋の中ではグルグルと展開し続けるのでだれることもないし、ひたすらに没入させられました。


 まぁ、そんなこんなで2012年の暫定ベストでございました。好き嫌いとかなく万人が爆笑できる作品なんじゃないでしょうかね。また映画の締め方がキレイすぎて憎らしいくらいです。4人以外に被害者なんていなかったっていうオチでほっこりすらします。
 90点。