北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『ONE PIECE FILM Z』の感想

「どん!」のない『ONE PIECE

 公開から異常なスピードで観客を集めてる本作。ワタクシも約1週遅れで行ってきました。
 『ワンピース』(めんどいからカタカナ表記します)に関しては、原作&連載を読んでますので、ファンの鑑賞ということになります。まぁ、テレビアニメシリーズは全然追ってないんですが。
 映画のシリーズは、原作者が本格的に絡んだ前作『ストロングワールド』くらいですね。一部観たのもあるんですが、半分にも満たないです。

 「作者は前回映画はこれっきりだみたいなこと言ってなかったっけ?」 「脚本の鈴木おさむって『ハンサムスーツ』の人か‥‥(未見)」、「0巻の次は千巻かよ‥‥がめついのぅ‥‥(ケドホシイワー)」、などなどマイナスなイメージが強かったです。

 結果、ちょーおもしろかったです。


 ↑『ワンピース』映画の本気作の定番。左が前回、右が今回。
 今回は千巻の他にも特典はあるらしいのですが、ワタクシの時には千巻しかもらえませんでした。
 0巻と違ってマンガは載ってないけど、細かい設定画が盛り沢山で、映画のおまけとしては贅沢すぎる代物。
 折り返しの作者コメントでは、アホロートル(ウーパールーパー)について語られてるので、原作ファンだと「あいつか!」とピンと来ますね。
 カバーめくると別バージョンの表紙が見れますよ。

 あらすじ
魚人島とパンクハザードの間

 作者が本格的に絡んだ作品ということで、原作本編とも関係のある正史です。
 けど、劇中の海軍会議にスモやんとたしぎちゃんがいたのは、少し無理あるかな。あの頃のスモやん、ルフィをストーキングしてなかったっけ?

 原作の話になってしまうんですが、新世界編になってから、ジャンプで連載してる近況まで(パンクハザードのクライマックス)ってバトルはあるんだけど、どれも一撃必殺なんですよね。大体どのマッチアップも実力の差が大きい対決しかなく、拮抗した2人の長々としたバトルというものが少ないと思うのです。これは意図的なのかもしれませんが、個人的には少し不満で、やっぱ本気vs本気の対決がじっくりと見たいなぁ‥‥と思っておりました。
 今回の映画で期待してたのも、そこです。

 映画のイントロ。いきなり本作の悪役Z先生が大暴れしてます。相手は海軍の雑兵。重々しい音に包まれながら一撃を放つと雑兵が吹っ飛ぶ。完全に『三國無双』の世界です。Z先生が大技を決める瞬間に鳴る機械音みたいな効果音にしびれました。ラストに使ってくれてありがとう!
 そんなZ先生の無双アクションがカッコイイので満足してると、黄猿登場。Z先生vs黄猿は、パワーのZ先生(銃火器)と、スピードの黄猿(ビーム)、という対比も利いてて充分おもしろいんですが、重要なのは映画オリジナルキャラを黄猿と戦わせることでその強さを示されるんですよね。『ストロングワールド』では悪役が閉鎖世界にいたため、ファンの知ってるキャラたちと比べてどのくらい強いのかがわかりにくかったんですが、本作は丁寧。「黄猿と互角かよ やべー」という盛り上がりがファンなら味わえるはずです。

 その後、オープニングクレジット。かかるのがインスト曲なので必然的に絵に釘付けになり画面に引き込まれます。Z先生が掲げてるネオ海軍のマークの由来までわかるようになっていて非常にありがたい仕様です。
 一方、エンドクレジットではなぜか海外からのお客様の歌。まぁ、意図がよくわからないんですが、画面に出てくる主要キャラの幼少期というのが楽しいです(歌どころではない)。まぁ、映画に出てないキャラが多いので、非ファンの方は置いてけぼりになってしまうのが少し問題かも。ほとんど(全部?)は単行本の読者投稿コーナーで出てきてる絵なんですが、映画館で見ると感動が増します。ワタクシはチョッパーの幼少期で笑いました。

 その後、麦わらの一味がのんきに宴会してるトコから始まる。宴会をしてると、どんぶらこと何かが流れてきて‥‥げえっ Z! と、いきなりZ先生がサニー号にライドオン。えっ、いきなりラスボスですか‥‥?とマジで驚きました。しかも、ちゃんとした戦闘があるので驚きです。一味は敗北。
 一味はリベンジを誓い、情報収集へ。すると、調べてた島にZ先生がいると発覚。早速カチコミ。えっ‥‥もうリベンジマッチですか? まだ中盤くらいだよね? ルフィvsZ先生のタイマン。ここでルフィはギア2、ギア3解禁。『ストロングワールド』ではリベンジマッチでギア2を解禁して勝利してたので、それと呼応してるんだと思います。要するにルフィもかなりの本気。ルフィの大技がバンバン飛び出ます。Z先生もいろんな技や武器を使って、「これ‥‥クライマックスだよね?」という様相の戦いです。が、ルフィ敗北。
 急ペースすぎて、見せ場多すぎて戸惑います。
 Z先生、新世界を滅ぼす計画を着々と進行させ、いよいよ最終段階。あとは爆弾のスイッチを入れるだけ。そこに一味登場。ゾロ、サンジは中ボス戦。その他の一味はザコ相手の無双アクション。そして、ルフィは三度Z先生と対戦。三度目の正直ということもあって、ルフィは善戦します。なんとか、Z先生の武器を取り除くことに成功。裸一貫の最終決戦!!‥‥と思ったら、ここのバトル描写がスゴイ、というか異常。とびっきりのイレギュラー。ただ殴り合うだけなんですよ。「ゴムゴムのぉー」とかないし、Z先生も筋肉で押すだけ。
 『ワンピース』のバトルというのは、基本的に「溜め」と「どん!」で成立してると思います。それはルフィがゴム人間なことに由来していて、ルフィの技は基本的に後ろに腕を伸ばして、その戻る力を利用して敵にぶつける。その際、技名をシャウトして、決めコマでヒットの瞬間を描き、「どん!」。ほとんどがこの応用です。それが重要な戦闘であればあるほど顕著です。
 が、Z先生との最終決戦。「溜め」も「どん!」がない。「ゴムゴムの○○」のない異常なバトル。Z先生が悪魔の実嫌いとかそういう理由はあるのかもしれないけど、『ワンピース』のバトル文法を完全に無視している。ファンであればファンであるほどに驚くようなラストバトルだったのではないでしょうか。決着の付き方も「えっ 終わったの‥‥?」っていう終わり方で、予想していた種類のカタルシスが排除されています。ひょっとしたら賛否の分かれ所かもしれませんね。

 それと、本作の特筆すべきところとして、「海賊は正義でない」というのを強調してた点ではないでしょうか。
 そのものずばりなセリフも出てきますし、冒頭にウソップが言った「害虫」発言もそうですよね。
 海賊とは自由を追い求めた者のことであり、自由に動いた結果たまたま誰かの役に立って感謝される、っていうのが本作の根底にあります。
 そこで白眉だったのが、ルフィの麦わら帽子の因縁を持ってきたトコですかね。今回、ルフィがZ先生に挑み続けるのは麦わら帽子を取り戻すため、というこの上なくシンプル。もはや「仲間のため」でもない。
 帽子のため、すなわち自分のため、というミニマムな理由であるが故にZ先生の心にも響いたワケで。「気が済んだから殺さない」という主義が説明されたのも非常に腑に落ちます。

 そんな主義とかテーマとかはさておいて、本作の好きなところは単純にバトルが多い点だったりもします。さっきも言いましたが、冒頭からZ先生vs黄猿、そしてZ先生と一味が戦って、その後もことあるごとにバトルシーンがあって、見てるだけで幸せです。
 バトルシーンで、ちょっとどうかと思うくらいにカメラが動くんですよね。終盤のゾロやサンジのバトルでもそうなんですが、カメラがぐいんぐいんとあり得ない動き方をします。正直言うと、対戦してる2人がどうなっているのか把握できなくなったりもするんですが、そこはライド感ですよね。実写では不可能なほどに長いカットとかもあってマジ眼福ですよ。

 ファンとしては気になるのが麦わらの一味の活躍バランス。
 現在、一味は9人もいるんですよね(ジンベエはとりあえず除く)。そして、映画は2時間。まぁ、フツーに考えれば全員に見せ場を用意して魅力的に描くのなんて無理ですよ。9人といえば、『009 RE:CYBORG』がありますが、あの映画では008が犠牲になってました。ピュンマ‥‥涙拭けよ。
 そんな一味が全員超魅力的。もうこれだけで『ワンピース』の映画としては及第点です。
 原作でも見せ場がいまいちになりがちなのが、フランキーとブルックではないでしょうか。入ってから日が浅いことに加え、仲間になった直後に一味がバラバラになったことも影響してると思います。

 そんなフランキーとブルックの扱いがうまかった。
 まず、フランキー。単純に出演時間でいえば、最短です(体感)。中盤の温泉島には行かず独り船の修理という損な役回りです。が、冒頭の宴会では主役の「桜前線」役。一味に馴染んでるのが感じられます。さらには、ラスト、ルフィ、ゾロ、サンジという戦闘員がタイマン戦の最中、その他のメンバーの前にパシフィスタが現れる。パシフィスタの恐ろしさ描写というのは全然足りないんですが、原作ファンならパシフィスタに嫌な印象がこびり付いてるからオッケー。そんなパシフィスタをフランキー(将軍)のビームが一掃。その救世主的活躍には、思わずウソップ、チョッパー、ブルックと共に「イカス〜!」ですよ。ここでナミとロビンが死んだ目をしてたのがまたファン心をくすぐってくれるじゃないですか。
 そして、ブルック。戦闘力もいまいち、音楽家というポジションもありがたみが感じられず、印象が薄くなりがちなんですがー。本作におけるブルック、わかりやすくギャグ要員です。定番の骨だけジョークもおもしろいんですよ。風呂シーンでは裸体も披露してて「どうなってんだよww」という笑いもあったと思うんですが。重要なのは、シリアスなシーンに挟まれるブルックのしょーもないギャグ。Z先生との初戦、一味は敗戦し、ナミたち一部のメンバーが若返るという呪いを受ける。皆さんかなり真剣に悩んでて観てるこっちもシリアスな思いになっていると、全然変化がわからないブルックの若返りギャグ。シリアスとギャグの配分が見事ですよね。若返りネタでいうと、ラスト、若返りの呪いが解け、体が元に戻るシーン。ナミとロビンが元の体に戻るシーン、事前にサンジが言ってた通り、かなりエロく仕上がってるんですよ。「あえぎ声上げてますやんww」という次第なんですが、ラストに戻るのが、ブルック。ナミやロビンに負けじとあえぎ声を上げるんだけど、身体の変化がまったく見受けられない。ワタクシ、ここで思わず爆笑してしまいました。事前のナミ、ロビンとのギャップが見事すぎます。

 逆に、活躍の場を用意しなくても充分イケてたのがゾロとチョッパー。ぶっちゃけ、この2人の活躍はショボいです。けど、ナンバー2とマスコットだから充分輝いて見えるんですよね。
 ゾロに関しては、ラストの対戦相手が悪い。決戦前に、「あなたには敵わないけど 足止めすることはできる」 って相手が言うんですよね。正直萎えます。原作シリーズでの直近の対戦相手モネも「あなたには敵わないけど」っていう感じでしたけど、ファンとしてはそろそろゾロの本気が見たいです。いつも楽勝なんですよね。
 チョッパー。マスコットとして画面に出てくる率は非常に高いんですが、肝心のバトルにおける見せ場が希薄。ランブルボール喰わないというのには驚きましたよ。新世界編のチョッパーの最大火力はモンスターポイントなはずなんですが、本作で使う最大火力はカンフーポイントなんですよ。ちょっとショボいよ。マスコットとして人気なのはわかるけど、チョッパーだって結構戦えるんだよ?
 ただ、武器の使い方に関してはチョッパーが一番でしたね。武器を使うこと自体にドラマ的な感動があるワケで、その点ではチョッパーはかなりおいしい役回りでしたよ。銃を大量に用意して、それをガードポイントで撃ちまくる、というのは「そんな使い方あったのか!」という感動もあって楽しかったですね。‥‥あの大量の銃に囲まれた図って『魔法少女まどか☆マギカ』の巴マミを連想したりもしました。


 『ワンピース』は原作が非常に長いので敷居の高いシリーズではあると思うんですが、原作を知っていて、「新世界編」というのが理解できる程度のファンだったら観て間違いない出来だったのではないでしょうか。
 クザン(青キジ)やZ先生、といったキャラの「昨日の敵は今日の友」という『ドラゴンボール』的な興奮もできるのがイイよね。
 お腹いっぱいでございます。ごちそうさまでした。
 90点。

ONE PIECE 68 (ジャンプコミックス)

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