北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『それでも夜は明ける』の感想

俺の奴隷がこんなに可愛いわけがない

 アカデミー賞の覇者であります。受賞しなかったら観てなかったかな。どう考えても好みのタイプではないのが明らかでしたので。
 キャストは魅力的だけど、監督の前作『SHAME』がいまいちハマらなかったんですよねぇ。ワタクシの読解力の問題なんでしょうけど、よくわからなかったんですよ。時間軸がさりげなくグチャグチャで。いや、マイケル ファスベンダーとキャリー マリガンの全裸はサイコーだったから観てよかったんですけど。

  • あらすじ
    • 自由黒人「奴隷になってしまった‥‥」
    • ブラピ「助けてあげるよ」イケメンスマイル

 観る前からわかってたんですが、奴隷虐待描写がなかなかにショッキングでした。直接的に「痛そう」という描写もそうですが、主人公の精神が削れていくようなシーンが結構キツかったです。
 主人公が首吊られるシーンで、背景で子供たちが遊んでたのが一番「うわぁ‥‥」となりました。奴隷が虐待されてるのが当たり前な風景なんですよね。子供なので差別意識があるワケじゃないので、制度の深刻さが如実に出てたんじゃないですかね。

 これも制度の問題って話と繋がるんですけど、白人の扱いもおもしろかったです。本作を観終わっても「黒人は生きろ 白人は死ね!」みたいな安易な感じにはならないんですよね。白人の中にもいろんな人はいるし、そもそも主人公を助けてくれたは白人ですし。
 んで、特におもしろかった白人がマイケル ファスベンダーでして。奴隷虐待の権化みたいな人間なんだけど、驚くことにとある奴隷に恋愛感情のようなものを抱いてるんですよね。彼女のことを「女王」と呼んでいて、最初この呼び方はただの嫌みだと思ったんですが、途中からはそれだけでもないのかな、と思うようになりました。彼女を含め奴隷のことは徹底的に虐待するけど、それだけじゃない感情が芽生えていて、それが自分の中でも整理が付かず精神が分裂しているような印象。困ったことに、コイツの嫁が奴隷に対して嫉妬し出すからさらにこじれるんですね。奴隷にホレてることを嫁に指摘されて、さらに追いつめられていって整理の付かない感情が暴走していく感じ。
 こう書いてると、「白人もまた被害者なのよ‥‥」みたいな感じになりますけど、実際は全然違うんですよね。「アイツに復讐しないまま映画終わっちゃうのかよ!!」って思ったくらいですので。90%は心底憎たらしいのです。ここらへんの一言では済ませられない複雑なキャラクターはおもしろかったですね。

 ファスベンダーに復讐しないってのもそうですけど、本作ってあんまり夜が明けてないんですよ。そんなに救いがある話には思えなくて。安易なハッピーエンドでは全然ない。
 主人公はたまたま助かっただけだし、本作のラストで奴隷制が廃止になるワケでもない。主人公を虐待してきたヤツが痛い目を見るシーンもなし。完全勝利とはまったく言えないんですよね。そこらへんが奴隷問題の根深さを表しているんでしょうけど、映画を観てスッキリしない感じにもなっていて。まぁ、タランティーノの『ジャンゴ』でも観ろよ、って話なんですが。


 ということで、「大好き!」と言いたくなるようなタイプの映画ではないんですが、観てよかったです。オスカーがなくても観るべきだったかもしれん。
 ブラピパートが強引すぎるとか、主人公が何でも出来る超人っぽかったのが気になったりはしたんですが、「そうでもしないと夜は明けないよ」ということなのかな。そう言われると腑に落ちる気も。
 70点。

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