北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『イリュージョニスト』の感想


この立ち姿がクセになる


 特別映画好きってワケじゃない友人との会話。

オレ「映画とか観てる?」
友人「観てない。けど、アレ観たいんだよね。あの・・・アニメのヤツ」
「『ラプンツェル』?」
「違う」
「うーん・・・・・・・・(今やってるおもしろそうなアニメとなると)『イリュージョニスト』?」
「そう、それだ!!」
「チョイスしぶっ!」

 ということで観に行きました。『イリュージョニスト』。
 そんなにたくさん映画観るような人じゃなかったので驚きました。そもそも知ってること自体も驚き。テレビでCMやってたそうです。

 ワタクシとしても、アカデミー賞でノミネートされていたことくらいしか知りませんでした。
 『トイストーリー3』『ヒックとドラゴン』があまりに強大すぎてノミネートされても望み薄と言われていたアカデミー長編アニメ賞の最後の1枠。『ラプンツェル』が入るとばっかり思っていたら、フランスのアニメが入っててビックリしました。

 そんくらいしか知らなかった。
 ノミネートされるくらいだから、まぁおもしろいんだろう、程度の気持ちで観た。

 ここでいきなり脱線なんですが。
 映画を観る時は前知識ゼロで観たいって人がいますが、ワタクシは真逆なんですね。もちろんネタバレは嫌ですが、できる限り知識は持っておきたい、という考えなんです。普段は。
 余程好きな映画じゃないと、映画を2度観ることなんてないんで、初見で理解したい。が、知識なしで映画を理解できる自信がない。なので、知れるものなら映画のことは知っておきたい。

 けど、たまたま『イリュージョニスト』観たんですよ。特になにも知らないまま。
 観た後に、いろいろと知りました。
 ジャック タチというコメディアンのことも。その人が書いた脚本だということも。主人公の名前ががジャック タチの本名ということも。その脚本はジャック タチが娘に対して書いたものであるということも。
 あぁ〜〜〜、知っときたかったなぁ〜〜。

 映画のイントロ。
 映画が始まると、映画の中の映画館で映画が始まる
「これからご覧いただく映画は、『イリュージョニスト』です!(ジャジャーン)」
 って前口上。メタ視点を用いるっていうのは、本作が少しメタ的な視点で作られてるということの現れなのかな、とか観た後に思いました。観てる時はただ不思議なだけでしたが。

 それと、劇中、かなり後半かな、主人公が映画館で映画を観るシーンがあるんですね。本作はアニメ映画なんだけど、その映画内映画は実写。モノクロの。
 これも、観てる時は「なんのこっちゃ」みたいな感じなんですよ。その映画内で上映されてる映画がなんて映画で、どんな映画もわからないんで。
 ただ、今思うと、多分、ジャック タチの映画なんじゃないですかね? きっとそうでしょ。調べてないけど。あのシーンはもの凄い意味深だったから。
 なので、あのシーンで置いてきぼりをくらったような疎外感を覚えました。メタ視点を1人理解できない、って寂しいですね。

 うん、関係ない話が長い気がする。本題です。



   あらすじ
老手品師のタチシェフ
時代は手品をもとめていない
電気が通じたばかりのスコットランドの村にて出稼ぎ
そこでは久しぶりの大ウケ
そこで、少女アリスがタチシェフのことを本物の魔法使いと勘違いして、ついてきてしまう
言葉も通じないアリスとの生活が始まる



 アニメというのは絵が動くもの。絵であるキャラクターが生き生きと動き回ってるの観るだけで及第点なんですが。
 そういう意味では、本作は超魅力的。主人公のアニメ的魅力がヤバイ。主人公の立ち姿、振る舞い、ちょっとした動き、すべてが魅力的で、それが映画の魅力に直結してる。
 なんでも、本作のモデル、ジャック タチはパントマイムをなさる人だそうで。そう言われてみると、あの主人公の動きはパントマイムっぽかったです。

 本作のもう1人の主人公とも言えるアリス。物語の中心にいて、物語を動かす存在。
 純真そのものみたいなキャラクターで魅力的・・・・・と思えた。最初は。タチシェフが手品でプレゼントした赤い靴を魔法で出してもらった勘違いして喜ぶさまはかわいらしい。
 が、タチシェフについて都会に出てから、次第に不穏な感じに。都会らしいコートを欲しがる。タチシェフは手品でプレゼントする。元々金の余裕なんてないタチシェフはアリスのため、言葉のわからない街でこっそりをアルバイトを始める。
 魔法で出してると思ってるアリスは、遠慮を知らず欲しいものを連発。そして、街で見かけた白いヒールが欲しくなる。
 タチシェフは戸惑う。アリスには最初にあげた赤い靴があるから。それでも、プレゼントしてしまう。白いヒールを喜ぶアリスは赤い靴のことなんて忘れてしまう。
 なんとも悲しいシーンなんですよね。消費され、忘れ去られてしまう、というのは時代遅れの手品を続けているタチシェフそのものだから。

 次々と物を(買い)与えられ、都会の女性と変わっていくアリス。
 アリスは喜んでるんだけど、全然喜ばしくないないんだよね。タチシェフとしても、観てる側としても。
 いずれ、アリスがタチシェフのことを不要と感じるのがわかるから。その未来は不可避だから。

 都会の女性として変貌したアリスは、素敵な男に出会い、恋に落ちる。
 そして、タチシェフは手品師をやめ、アリスと別れることを決断する。
 街を離れる電車の中で、タチシェフはアリスとそっくりな少女に出会う。少女が落とした鉛筆をタチシェフが拾ってあげる。そして、なにもしない。それまでなら手品の1つでもしてあげていたが、なにもしない。

 これを、バッドエンドととれば、はいそれまでなんだけど。バッドエンドではないですよね。
 結果的にとはいえ、タチシェフはアリスを幸せにしたのだから。アリスにとっては魔法のような体験をしたのだから。
 そして、アリスの幸せはタチシェフの幸せなのだから。

 ついでにいうと、タチシェフはアリスに生き別れた娘の面影を重ねていたらしいです。さらについでに、本作のモデル、ジャック タチは本作の脚本を娘に捧げています。
 本編終了後、「○○ タチシェフに捧げる」って出ました。名前は覚えてないけど。
 ジャック タチの存在を知らなかったワタクシは「えっ、タチシェフ? あの主人公って実在すんの?」みたいな感じで驚くと同時に、置いてけぼりをくらいましたが。



 最終的に、おもしろかったのはたしかですね。
 同時に、ジャック タチを知らずに観たことを後悔したのもたしか。
 ジャック タチ要素を知らずに観たら、見せ場は特にないから、少しだれるところはあったかな。実際、少しだれたし。ただ、アニメとして魅力的なのはたしかで、それはジャック タチは関係のない。本作の魅力ですね。ジャック タチとか知らねぇよ、って人でも楽しめるのは間違いと思います。
 70点。

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