北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ!美しく』の感想


公開前ですが、ネタバレ&悪口です


 めずらしく試写会に行ってきました。母親が試写会の招待状(招待券?)をもらってきました。いきなり、「『ブッダ』って観る? ほら、手塚治虫の。明日の試写会なんだけど」と言われたので、前情報一切ナシ。予告すら観たことなかったです(・・・実際は1日あれば予告なんて簡単に観れるけど、めんどいので観なかった)。

 手塚治虫の作品に関しても『ブラックジャック』は大好きだけど、それ以外は読んだことないです。もちろん『ブッダ』も未読。あらすじも知らない。
 あと、史実、宗教史としてのブッダに関してもほぼ無知です。これは常識レベルの知識もないです。

 なので多分、的外れなこと言うと思いますけど、勘弁して下さいね。



   あらすじ
インドには主に2つの王国
世の中はカースト制で4つの身分が生まれながらに決まっていた
コーサラ国はインド中の国を武力で制圧中
シャカ国には世界の王となる者が生まれるとの予言が
奴隷生まれのチャプラはコーサラの将軍の命を救ったことから、身分を隠し兵士としての成り上がりを計画する
シッダールタ(後のブッダ)は命が粗末にされるのが大嫌いで、生まれてからずっとそのことで悩み通す



 ちなみにこの作品、三部作なんですよね。すなわち、本作だけ観てもなにも完結しない。
 驚くことに、本作だけ観てもシッダールタはブッダにならないし、悟りも開かない。じゃあ、主人公はなにをしていたかというと、終始悩む。世界の身分制に悩み、身勝手な戦争で死んでいく人々を見て悩む、恋をして悩み、失恋して悩む、政略結婚して悩み、お稽古に行っても悩み、飲み込みが早くても悩む。世界のために自分にはなにができるのだろうかと悩み、なにもしない。頭を丸めて、修行を始めようとすると、映画が終わる。
 なんていうのかね。映画を観ていてね、「いい気なもんだな」感がスゴイ。これが本作の最大のダメポイント。最終的に、「いい気なもんだな」で終わる。悩んで嘆いて悲しむけど、イイ暮らししてるからね。結局は王子様だし。

 シッダールタくんの悪いところはね、良くも悪くも神々しいんだよね。まだ悟り開いてないけど、悟ってるかのような表情してるし。なんとなーくな偉そうオーラがあって、感情移入もできないし応援もする気がしない。まっ、どうせなんとかなるんじゃない?って感じ。
 そのくせ、困ったことに、本作にはシッダールタよりも神々しいキャラクターが少なくとも2人いる。山の上に暮らしてる僧のおじいちゃんね。シッダールタを「世界の王になる者」と予言した人ね。そんな人さ、城に常住させて随一アドバイスもらえばいいじゃん。けど、山奥にいるからたまにしか出ないんだよね。アドバイスもらいに行くか「バカモノがぁぁぁっ!!!」って呪いかけられちゃう。
 そして、もう1人。チョッパーボイスのタッタくん。動物に乗り移って操れるという超能力者。リアリティー重視の作品だと思ったら超能力者が出てきて驚いた。さらに驚くことに、コイツ年を取らないんだよね。十年くらいは年月が流れるんだけど、ずっと子供。しかも説明なし。混乱しますよー。なんの説明もないんだから。説明もないし、それに驚く人もいない。人間離れした神々しさだったらタッタくんの右に出る者はいない。シッダールタなんて悩むだけだからね。シッダールタとかどうでもいいからタッタの説明をくれ!!

 ということで、タイトルロールのブッダくんに期待するのはやめましょう。しかし、安心して下さい。本作はダブル主役システムです。もう1人、主人公がいます。それがチャプラくん。
 社会の底辺、奴隷生まれ。母親と再会するため、兵士として成り上がることを誓う。応援したくなりますね。兵士として地位を高めていくチャプラが、殺生を嫌うシッダールタと対比になっていておもしろいです。

 問題としては、シッダールタの武術の先生として登場するバンダカ。こいつは兵士で、殺戮の大天才。バンダカが武術の授業のため、楽しそうに動物たちをブッ殺すのを見てシッダールタは悩む。あれっ、シッダールタと殺しの天才って対比になってるじゃない。チャプラはどうした。こっちの方が、シッダールタに直接武術教えて、直接悩みの種を植え付けてるからキャラが濃いぞ。チャプラは主役じゃなかったのか。

 なにはともあれ、そんな3人が一堂に会するシーンがある。当然、盛り上がりますよ。そもそもシッダールタとチャプラの2人の主人公はそれまで一切顔を合わせなかったからね。
 とある戦場で、ついに2人の主人公が顔を合わせる。どうなってしまうのか、って思うとすかされる。なにもない。チャプラが「うわっ、なんかこの人神々しい!」って思うだけで、撃たれちゃう。言葉も交わさない。多分、シッダールタはチャプラのことを微塵にも思ってない。自分の命を奪おうとしたばかりに命を落としていく者を見て悩んだり・・・・・・・・・・もしない。
 これだけ盛り上がったシーンがこれですよ。これじゃあ、この後はなにもないに等しいです。

 一応ね、シッダールタくんには身分違いの恋という映画映えしそうな困難も用意されている。王子と女盗賊の恋。ただ、「おもしろくなりそう!」ってトコで終わっちゃうんだよね。仲良くしてるのはわかるんだけど、友達なのか恋人かわからない段階で、2人が引き離されそうになって、この恋愛パートは終わりに向かう。キスとかって描いちゃダメなのかなぁ。なかったと思うけど。
 またこの盗賊ちゃんが最後の最後まで優しすぎるんだよね。甘やかしの領域。シッダールタと仲良くした、ってだけで捕まって、目ん玉潰されちゃうんだよ。それでも「シッダールタ、あんたは悪くないよ!」なんて言えるかなぁ。恋愛パートがそんなにしっかり描かれないからいまいちピンと来ない。そもそも盗賊ちゃんはなぜシッダールタのことを好きになったのかがよくわかんない。

 物語的に一番キャラがしっかりしてて、画面に出てくるだけで楽しいキャラってのはバンダカだと思うなぁ。シッダールタの武術の先生で殺しの天才ね。見るからに悪そうな顔して、なにかにつけて悪そうに笑う。そんな悪そうな男がシッダールタの近くにいるってのは「イヤな予感」がビンビンしてイイ感じ。
 物語は終盤、シッダールタが修行の旅に出る。王子が国を捨てて旅に出ちゃう。「いい気なもんだな」感がハンパなくなってきたところで、バンダカが大活躍。シャカ国はコーサラ国に攻められて敗戦濃厚。そんなところにバンダカが登場。「俺様がいればこの戦争勝たせてやる。その代わり、俺を時期王にしろ」という無茶苦茶な要求。なぜか要求が通り、時期王の座が約束される。
 うれしくなったバンダカは戦場で一騎当千の大活躍。死体の山を築き、シャウト。「次の王は俺だぁぁーーーっ!!!」 と、大口を開けて叫んでいるとそこにヤリが飛んでくる。口の中をヤリが貫通し、見事な死に様。
 ここはさ、観ていて爆笑だったからよかったんだけど。物語的には国の最大の脅威ってのが勝手に死んじゃったから、「さっきまでのハラハラを返せ!!」って感じ。

 さらに悪口。というか、本作最大の汚点。声のキャスト問題ですよ。別に吉永小百合がどうとか言うつもりはないですよ。
 1人、たった1人、前代未聞の音読をしている人がいる。シャカ国の王、ジョーテカ役の観世清和という人。「・・・どなた?」と思ったら、能楽観世流二十六代家元だって。あぁぁ〜〜〜っ、なんだか大人の事情臭がプンプン。こーゆーキャスティングってホント誰も得しないよなぁ。作品の質も落ちるし、当の本人も本職以外のところで文句を言われる羽目になるし、そしてなによりも、観ている客が不快に思う。

 最後に1つ好きなシーンの紹介。あの有名なエピソード、「天上天下唯我独尊」のシーンね。今までは、生まれたてのくせに随分と偉そうな赤ちゃんだなぁ〜、とか思ってました。ブッダの好感度が下がるエピソードとして受け取ってたんです。
 それがどうでしょう。本作での描かれ方。赤ちゃんが変な格好して寝てる。それを見た偉い坊さんが驚愕。

坊さん「こっ これは・・・・・・・・・! ご覧なさい。右手は上を向き、左手は下を向いている。これは、「天上天下唯我独尊」と言っておられるのです!!」
パパ「なんと・・・・・!」
坊さん「この子は世界の王となる存在でありますっ!!!」

 気のせいだよっ!!!!
 見てて爆笑でした。ただの親バカじゃん(笑) 坊さんが国王に対してヨイショしただけ、とも取れるよね。ブッダに対して親近感が湧いたシーンであります。将来、子供が生まれたら、あのポーズさせて写真撮ってみようと思います。


 ということでした。串刺しと「天上天下唯我独尊」のシーンは大好きで、それ以外はみんな微妙でした。その上、三部作構成で、なにも終わらないまま映画が終わり、モヤモヤが大変残りました。
 40点。