北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『プリンセス トヨトミ』の感想


原作とかとの比較ばっかりですいません


 『プリンセストヨトミ』の映画。今回は、めずらしく原作を読んだことがあります。原作者の万城目学の作品はそこそこ読んでいて、『プリンセストヨトミ』までの作品は全部読んでます。
 なので、今回の映画の感想は、原作との比較が多めになっちゃいます。すいませんね。『プリンセストヨトミ』を含め、どれもおもしろいですよ。

 そして、もう1つ。本作を観る上で原作以上に重要と思われるのが、テレビドラマ版『鹿男あをによし』。2008年の作品ですね。原作が万城目学で本作と同じで、フジテレビということで、制作スタッフも共通してるので、本作の兄弟みたな感じ。原作同様、本作と世界観が共通しております。
 このドラマ版『鹿男あをによし』がワタクシは大好きなんですね。おそらく近年観た連ドラの中でも随一の出来だと思っております(といっても連ドラに精通してるというワケではなく、極稀にしか観ないのだが)。
 玉木宏が主演で、コメディーの振り回され系の主人公を魅力的に演じている。本作の影響で『のだめカンタービレ』にキャスティングされたに違いない!(誇大妄想)

 もう1人、特筆すべきはヒロイン役の綾瀬はるか。主人公に想いを寄せる天然ちゃんなのだが、綾瀬はるかのコメディー作品の代表作であると個人的には思うほどに素晴らしい。ちなみにこの役、原作では男で超脇役。それがドラマ化の際に男女逆転され、ヒロインにまで昇格し、綾瀬はるかがキャスティングされた。
 本作『プリンセストヨトミ』でも綾瀬はるかはメインの役なのだが、この役も原作では男。つまり、本作は『鹿男あをによし』の土台の上に成り立っているワケです。

 そして、『鹿男あをによし』が大好きなワタクシとしては、本作のことを首を長くして待ちこがれていたし、大いに期待を寄せていました。
 まぁ、その期待は悉く裏切られたワケですが・・・・・。



   あらすじ
会計検査院の調査官である主人公一行
補助金として支給された国の税金が無駄なく使われているかチェックしに大阪に向かう
そこで謎の団体、社団法人OJOと出会う
OJOは大阪の大いなる秘密を抱えた存在であり、その秘密に主人公たちは立ち向かっていく



 うーんと、予告でやってるからネタバレではないんで、言いますけど、本作には大阪国なるものが存在するんですね。そして、中井貴一が大阪国総理大臣であると。
 そして、大阪国の目的というのがなになにで・・・・・・・・・・・・って話。

 まず、結論からいきますけど、つまんなかったですよ。原作ファンだから話は理解できるはずなんですけど、理解できない。最後、なんであんな風に丸く収まったのか、謎。いくらなんでも雑だと思います。大阪国も目的のために取る手段が無茶苦茶だし、そもそもクライマックスの段階で大阪国は根本的な勘違いをしてるから危機感が感じられない。

 まずね、本作はオープニングからしてつまんない。映画が始まると、画面に「そのことは誰も知らない」みたいな文字が大写しになって、無人の大阪の街の中綾瀬はるかが呆然としてるシーンに。
 「えっ、なにこれ予告?」って思った。映画の冒頭も冒頭から、「これは期待できない・・・・・」感がビンビン。今年随一のダメオープニングだと思いました。

 中井貴一について。
 普段はお好み焼き屋の主人、いざとなったら大阪国総理大臣。予告で「私は大阪国総理大臣です」って言ってるから、引っ張ってもしょうがないとは思うんだけど、正体が明らかになる前のお好み焼き屋の段階からただ者でない感じがスゴイ。お好み焼きを焼くしか能がない、ってキャラなのに曲者としか思えない存在感。
 原作だと、大阪国総理大臣というのはただの便宜上設置してある肩書きなだけで、特別な人がなるものではなく、大阪の中から適当に選んでるだけ、って設定があるんですよ。その時はたまたまお好み焼き屋の主人だった、ってだけで。だけど、映画版ではそれを意図的にカットしてあるから、中井貴一によるカリスマ性溢れる総理大臣というキャラクターにしたかったのだと思う。
 しかし、そうなると、本作の中の肝である「父子」の物語がぶれる。普段は情けないと思ってる父親でもいざとなったら頼もしいし、父親というのはカッコイイ存在なのである、というメインの部分がぶれる。本作だと、カッコイイのは父親だからではなく、中井貴一だから、総理大臣だから、って感じになっちゃってる。
 ぶっちゃけね、本編の物語は相当なクソだった本作の中で唯一グッと来るのはこの「父子」のパートですよ。それが、中井貴一のおかげで中途半端なことになってしまってる。あぁー、残念。

 中井貴一描写でいうと、大阪人なのに大阪弁で喋らないんだよね。関西人が関西弁を使わないってのは万城目学作品だと結構ある特徴なんだけど、本作だと大阪弁を喋る大阪人はたくさん出てくるので、中井貴一の喋りは目立つ。ここは、大阪人らしくなくてイイんですよ。喋り方だけでなく、大阪人らしさっていうものが弱い人物として描かれる。それが息子に対して大阪の男の生き方を教えるという展開になって胸熱なんですよ。そんで、最終的に仲良くなった父子に対して母親が「まったく・・・・大阪の男ってのは・・・・・」って言う。「父子」の物語としてこのラストはかなりイイ。本作における数少ないホームラン。

 次に、綾瀬はるか。『鹿男あをによし』でも原作との男女逆転キャラを演じているので、個人的に最も期待を寄せていたところ。「最悪綾瀬はるかのコメディーが楽しければいいや」くらいの心構えだった。
 ところが、それも期待外れ。『鹿男あをによし』と本作の綾瀬はるかの共通点として、①いつもなにかを食べている、②原作との男女逆転、③天然キャラで作品内におけるボケ的な役回り、というのがあるんですが。

 ①いつもなにかを食べてる。これはまぁ、原作だと小太りのオッサンなんで。個人的にフィクションにおける好みの女性のタイプとして、大食いというのがあるので、満足です。美人がおいしそうになにかを食べている映像が大好きなんですね。なので、綾瀬はるかが常にむしゃむしゃ食べてるシーンは眼福でした。

 問題は②と③。

 ②原作との男女逆転。『鹿男あをによし』だと原作にはないロマンス要素を加えるためにヒロインを1人足した、っていう明確な理由があるんですが、本作だとその必要性がわからない。綾瀬はるかが男女逆転した影響で、岡田将生も男女逆転してるんですが、そのおかげで妙な事態も発生している(後で触れます)。

 ③ボケ的な役回り。天然ちゃん役の綾瀬はるかですから、そらハマりますわ。魅力的ではあるんだけど。問題は、主人公である堤真一のキャラクター。鬼の検査官で、綾瀬はるかのことは信頼していて放任主義。つまり、ツッコミじゃないんですよね。ツッコミ、いじられキャラ、振り回されキャラでない。天然ではあるものの、綾瀬はるかのことは信頼しているのでちょっとのことじゃ動じない。これじゃあ、綾瀬はるかが活きねぇぜ。つまらんよ。
 『鹿男あをによし』の玉木宏は違うんですよ。綾瀬はるかに振り回されまくりで、ツッコミとして機能してるから、作品も盛り上がるし、当然綾瀬はるかの魅力も倍増する。

 というワケで、綾瀬はるかは大変ガッカリだったんです。クライマックスに至っては、綾瀬はるかが物語の中心から離脱し、なんのために存在するのかわからなくなってしまっている。
 しかし、本作で、綾瀬はるかは少し特殊な存在感を放っている。

 本作の見所として、無人の大阪の街並みというのがあって、無人の大阪にて綾瀬はるかが戸惑い街中を走り回る、というシーンがあるんですが・・・・・・無人の街並みは見ていて楽しいんですが・・・・・・・・・・・・それよりも気になるのが・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・胸がスゴイ揺れるんですよ。いやね、ワタクシがそんなヘンな目で見てるからとかじゃないです。ちょっとあり得ないレベルで揺れてる。タイトめなスーツを着ているからというのが原因なのかわかりませんけど、マジで驚きます。「えっ コレ綾瀬はるかのイメージビデオですか!?」って感じ。映画館で1人照れてました。あぁ、綾瀬はるかってそういやグラビア出身だったなぁ、なんて思いました。
 ちなみに、天然キャラのコメディーリリーフなんだから、そういう物理的な女らしさを強調するのはどうなのかな・・・・・とは思います。眼福か眼福じゃないかって言ったら当然、眼福ですけど。

 もしも、あなたの周りで、「『プリンセストヨトミ』観たんだけど、綾瀬はるかがサイコーだったね!」って言ってる男がいたらそういうことです。女優綾瀬はるかには興味がなく、グラビアアイドルとして見ているワケです。

 物語もダメ、綾瀬はるかもダメ、そんな本作でも少しながら救いはある。それは、小ネタ。原作ファン、『鹿男あをによし』ファンへのサービスがなかなか充実している。ワタクシはどっちもファンなんで、この点だけは大いに満足でした。

 まずは、キャスト。『鹿男あをによし』との共通点が多い。原作との男女逆転キャスティングによる綾瀬はるか。『鹿男あをによし』ではナレーションだった中井貴一が重要キャラとして登場。『鹿男あをによし』の主人公である玉木宏によるカメオ出演。『鹿男あをによし』では重要キャラの鹿の声を演じていた山寺宏一が本作の予告のナレーションを担当。
 まぁ、このキャスティングのおかげで、観る前に無駄に期待が高まってしまった、という弊害はあります。

 本作と『鹿男あをによし』の原作を読んだことある人だったらわかるんだけど、原作でこの2作品の世界観が共通していることを示すために、『鹿男あをによし』の脇役が『プリンセストヨトミ』にも出てくる。映画でもそれがちゃんと再現されていて、玉木宏カメオ出演と違ってハデな扱いではないものの、しっかり描いてるトコは好感が持てる。

 その他の小ネタとしては、劇中、岡田将生綾瀬はるかに「鳥居さんの下の名前ってなんでしったけ?」 って言うんだけど。これは綾瀬はるかの原作との男女逆転を意識したようなセリフですよね。気が利いててよかったです。
 小ネタは無駄に凝ってるんだよなぁ、この映画。

 ちなみに、万城目学原作のフジテレビ映画としては『鴨川ホルモー』があるんですが、予告を観る限りとてつもなくつまらなそうだったので未見です。ひょっとしたら『鴨川ホルモー』関連の小ネタもあったかもしれないですね。(キャストを見る限り、おそらくない)

(※追記 コメント欄にて映画『鴨川ホルモー』はフジテレビ映画でないとのご指摘をいただきました。本木監督と本広監督を勘違いしてました(てへぺろ) いやぁ〜、間違いを知らせてもらえるとはありがたいですね。半年以上やってますけど、コレ以外にもミスはあると思うんで、あまり信じないで下さいね。記憶を頼りに書くとこのザマです)


立ち位置を変えちゃうあたり、わかってない

 原作で、綾瀬はるかは天然、小太りのオッサン、岡田将生はハーフの超絶美女、ってキャラなんだけど。綾瀬はるかが男女逆転したせいで、当然岡田将生も男女逆転しているんですが。原作でも本作でも、この役ってのは主人公のやり手調査官に対して憧れを抱いている。原作だと、「ひょっとして好きなのかな?」って程度に臭わされる。それを天然の鳥居(綾瀬はるか)が台無しにするっていう笑いも生じていて楽しい。
 そんな美女が本作では岡田将生になってるんだけど、この「ひょっとして好きなのかな?」って描写が消し切れてない。
 つまり、岡田将生がホモっぽい!
 ホモセクシャルに限りなく近いホモソーシャル描写っていうのは好きだけど、コレは完全に無駄なホモ描写。岡田将生ファンが観たらどう思うんだろうか? 気になるところではあります。


 まぁ、イマイチですよ。フジテレビ映画なんて観たくもなかったんですが、いかんせん原作&『鹿男あをによし』ファンだったもので観たんですが、失敗でした。
 女優ではなくグラビアアイドルとしての綾瀬はるかをチェックするなら観たらいいんじゃない? 揺れてるよ。それ以外だったら、ツタヤで『鹿男あをによし』のDVD借りるか、原作読んだ方がいいと思います。どちらもおもしろいので、オススメです。その上で本作を観れば、ファンサービス描写もわかって楽しむ余地が(少しは)生まれます。
 40点。