北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『ハンナ』の感想


あなたのハート(心臓)を狙い撃ち(※外します)


 殺人の英才教育を受けた美少女がたくさん人を殺す映画。「・・・それなんて『キックアス』?」と言いたくなるようなステキな映画、『ハンナ』。
 監督がジョー ライトだというのも驚き。『プライドと偏見』『つぐない』と文芸作品撮ったり、感動実話作品の『路上のソリスト』を撮った次に選んだのが、本作。い、一体どんな心境の変化なんすか・・・・・・。謎であります。
 そんなおかげで、ジョー ライト作品初鑑賞。

 そんな監督が『つぐない』でオスカーノミネートに導いたシアーシャ ローナンを主演に抜擢。
 主演も驚き。シアーシャ ローナンって『ラブリーボーン』でロリコンの殺人鬼に殺されてたイメージがあるからねぇ。そんなシアーシャ ローナンが今度は殺す側とは・・・・・・・感慨深いもんがあります。

・あらすじ
父親から殺人マシンとして文明社会から隔離されて育てられたハンナ
目的は母親を殺した「魔女」を殺すこと
作戦としては、無邪気な顔して近づいて、殺す
父親は遠くから応援するだけ、娘に丸投げ

 ヒットガール映画という一点を楽しみに劇場に足を運んだ身としては、映画のイントロに心奪われる。
 雪に包まれた森の中、弓を構えシカを狙う少女。シカに気づかれないよう息を殺し、矢を放つ。矢を受けたシカは弱りながらも、歩き続ける。ハンナが近づき、獲物を確認。見下ろすハンナのアップ。
 「心臓外しちゃった」→拳銃でバン→タイトルがドン!!「HANNA」

 ピリついた緊張の後に「心臓外ちゃった」と物騒なことをかわいらしく言われたので、すっかりノックアウト。殺人ドジっ娘!!
 このアヴァンタイトルだけでゴハン3杯イケる。今年の中でも屈指のアヴァンタイトルだったと思います。
 しかも、このイントロが後とあるシーンで再び行われるっていうんだから文句ナシですよ。

 ヒットガール映画ということで、当然のようにお父さんは基地の外にいらっしゃいます。『キックアス』ではニコラス ケイジという説得力だったのに対し、本作ではエリック バナ。「マジメすぎて頭おかしい人」感がとてもよく出てました。
 本作でも、我が子を背後から襲い、ガチンコファイト。『キックアス』でいうところの、「背中を見せていいのは?」「・・・・・・壁だけ。ごめんなさい」 の再現と捉えてよろしいですね。

 『キックアス』っぽさでいうと他に、劇中描かれる最初の殺人。標的の「魔女」(実は偽物)を殺す時の手段。虫も殺さないような顔をして近づき、相手が油断したところを瞬殺。
 『キックアス』にも『モールス』にもありましたね。素晴らしいです。そーです、こういうのが見たかったんです。
 この時に、油断させるために泣きマネをするのもよかったですね。そして相手に抱きついて・・・・・・首をグリン。この殺すまでの緊張感がたまらなかったです。

 本作では、「音楽」というのが大変重要なポイントでして。
 パパの徹底管理教育で育ったハンナは「音楽」を知らない。パパに「音楽ってなに?」と聞いても、辞書の「音楽」の欄を読み上げるだけ。「音楽とは音の集合体で、感情を表現するもの」 という簡素な説明。そんなハンナが初めて外の世界を1人で旅をする。旅先で様々な音楽と触れ合う。
 「箱入り娘の初めての旅」というのは『ラプンツェル』とも通じるものがありますね。

 そんな箱入り娘のハンナがとある宿に泊まる。そこで初めて見る家電。蛍光灯、テレビ、エアコン、電子ケトル。家電たちが奏でるノイズが音楽となってハンナを襲う。不協和音はハンナの危機感を煽り、恐怖を与える。
 焦ったハンナがテレビのリモコンですべて消そうとするトコは萌えポイントですね。

 『キックアス』になかった描写でおもしろかったのが、キスシーン。箱入り娘の初めての外出、という話なのでキスシーンがあるのは自然なんですね。
 キスをする雰囲気になった時に「キスという行為をするために必要な顔面の筋肉は・・・・・・・」と無駄な知識が露呈しちゃうあたり、この手の映画としては大満足。その後にあるもう1ネタというのも見ていて非常に楽しい。実際、すげぇロマンチックな雰囲気で、男の方もイイ人っぽいので「まぁ、ここはキスするかな」とか思ったんだけど、しっかりとネタが用意してある。
 ここでも、音楽というのが絡んできて。異性と一緒にロマンチックな雰囲気になる、という過程でフラメンコを見るんですね。そこで、フラメンコの音楽に触れる。そして自然とロマンチックな気持ちになる、というのもよく出来てる。音の集合が感情を表現しているんですね。それにハンナは感化されてしまった、と。

 さらに、音楽ネタとしては、悪役。2人いる悪役の1人がことあるごとに口笛を吹いている。単一の音が不気味さを表現している。
 口笛というのは、悪役描写のケレン味という意味でもすげぇ好きです。

 そんな「音楽」がテーマになってる本作。主人公ハンナが耳にする音楽というのは、日常生活が奏でる音だったり、原始的な楽器が主なんだけど、本作のサントラはゴリゴリの電子音というのがおもしろい。
 ケミカルブラザーズが担当してるサントラは、少々前に出すぎてる嫌いはあるものの、よかったです。好きです。危機的状況が始まると、徐々にビートが鳴り出し、アクションが始まると同時にグワッと盛り上がる感じ、嫌いじゃないです。
 エンドクレジットで流れる音楽で、劇中のセリフや悪役の口笛をサンプリングしてあったりしてエンドクレジット中も楽しいです。

 本作の魅力の多くはハンナの魅力なんだけど、悪役も魅力的。
 メインの悪役はケイト ブランシェット演じる「魔女」と呼ばれる女。ケイト ブランシェットが顔力がスゴイです。突っ立ってるだけで超怖いです。
 また、登場シーンが強烈。寝起きで目覚ましを消して、歯磨きをする、というよくある作業をするだけなんだけど、不穏な空気がビンビンに伝わり、その人が悪役だと伝わるのだからスゴイ。
 常に冷静沈着でいる彼女が、ハンナのママを殺すシーンではやけにオロオロとしているのがおもしろくて、キャラの魅力が増してたと思う。

 もう1人の悪役もイイ。
 例の口笛の悪役なんだけど。殺し屋かなんかで普段はストリップ小屋を経営してるんだけど、そこで働いてる女性がふたなりというのもケレン味たっぷり。
 肥満体のオッサンで、追跡する時にジャージ着てる。またそれが短パンで、見た目がものすごく悪い。見た目からして、悪役の魅力がスゴイ。

 2人の悪役に共通することなんだけど、それほど極悪非道なことはしてない。
 もちろん、人殺したり、拷問はしてるんだけど。いかんせん見た目のインパクトが両者共に強すぎるので、見た目ほどの悪さはしてない、と感じる。逆に言うと、そんなに悪いことをしてないのに、極悪人と認識させられている、ということなんですけどね。
 ここらへんは、本作がPG-12にもR-15にもなっていない所以かもしれないですね。


 考えると、物語に結構粗はあるんですよ。「ハンナ、ネット使えんかよ!!」と見てて笑いそうになりましたし。
 それでも、そんなのを忘れてしまう程の魅力に詰まった作品だと思います。
 90点。