北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』の感想


いつになくネタバレが多いです


 『SRサイタマノラッパー』から始まる北関東三部作の最終作。
 渋谷のシネクイントでの鑑賞。パルコの入り口のところでチラシ配ってる人がいまして。単館上映の映画の広報をがんばってる姿を見たら、なんかもうそれだけでグッときてしまいました。ただ、ワタクシは前売り持って来てる身なんで、「オレはほっといても観るから他の人にかまってあげて!」とか申し訳ない気持ちになってました(まぁ 半分は人見知り)。

 スタンスとしては、『SR1』と『SR2』をDVDで観た程度のファンです。入江悠の他の監督作品は知りません。先々週に始まったテレ東のドラマ『クローバー』は観てます。ヒロインが超かわいい、アクションがおもしろい、極悪鳥が出てくる、といった具合におもしろいドラマです。毎週楽しみにしてます。

 あらすじ
『SR1』でIKKUたちを捨てて上京したMIGHTYが主人公
東京で暴力沙汰になり、栃木に逃亡
栃木の黒い人たちの世話になりつつ、黒い人主催の音楽フェスの運営を手伝う

 過去作を観てる身としては、映画冒頭でいきなり東京が舞台なことに度肝抜かれる。ぶっちゃけ知ってたけど、観てて「これ『SR3』じゃないんじゃね?」とか少し思ってしまう。
 直後にライブシーンとか入りますからね。華やかにMCバトルとかしちゃってる。しかも、これがどれもカッコイイっていうね。もうこれ『8マイル』じゃん。
 マイティーが下っ端として参加してる右翼系恋愛ラップグループ「極悪鳥」の面々とかのキャラの立たせ方がサイコーですね。パッと見のインパクトとかは「SR」っぽいんだけど、明らかに今までに出てきたラッパーと違う雰囲気っていう。「こっ これが東京か・・・・」とか思ってしまう(違う)。
 ここらへんが今までのシリーズとまったく違う話で、『SR2」とは違った続編感ですね。

 「ライブハウスがないから今まであんなに苦労したんじゃねぇのかよぉ!」とか思いながら観るも、惨めにパシられるマイティーの姿とか、マイティー宅の様子が「SR」っぽいんですよね。特にマイティー宅にはブロ(=ブロッコリー)があったり、「どっちかっつーとカリフラワー派」って言うカノジョに怒ったりしてマイティーの中のブロ愛を感じさせるようになってる。

 そして、そんなラップのある環境にいるマイティーが東京を去る原因というのが暴力沙汰。これまた今までにはないキッカケですね。『SR1』のイック、『SR2』のアユムではああはならないですね。そんで、栃木に逃げた後も結局犯罪にまみれた黒社会なんですよ。マイティーがうまいこと立ち回ってるように見えても、先輩と呼ばれて出てくる大人がみんなことごとく怖い。個人的にガンビーノ小林と美保純がサイコーでしたね。直接暴力を振るうワケではないんだけど、慎重に触れないとヤバイことになる・・・っていう怖さがある。マイティーがキレるキッカケになる美保純の「お前は女の股の汁すすって生きてんだよ」とか、怖カッコよすぎて濡れた。

 栃木行った頃にはマイティーはラップ止めてるんで、完全にラップシーンもないんですよ。そんで、こんな黒い展開が続くので「あれっ なんの映画観てるんだっけ?」みたいな気持ちが高まってきたところで、満を持してイックとトムが登場。『SR2』の段階でそうだったんだけど、この2人は浮き世離れした存在なんですよね。天使や妖精の部類。ひょっこり顔を出してケンカ(ラップ)すると、いつの間にか相手の中のヒップホップ愛が高まってきて、イックたちと仲良くなってるっていう。
 黒いシーンが続いた後に出てくるイックとトムは本当に癒し系。観てて「和むわぁ・・・」とリラックスしてしまう。去年のセス ローゲンとかもそうだけど、デブのダメ人間って癒し系でイイわぁ(偏見)。

 そんなリラックスパートに出てくる新キャラのラップグループ「征夷大将軍」がまたキャラ立ちまくりでサイコー。三猿をもじったMC3人と、ずっと寝てるDJ眠り猫。オーディションのシーンでの、「目暗なの?」 「ノーボイスなのに歌うんだ」とか、シリーズでお馴染みの気まずさが満載で爆笑してしまいました。
 イックたちと違ってドラマが語られることはないので、征夷大将軍の4人はビジュアル重視というか、見た目が癒し系だよね。「キッカケがあれば絶対人気出るよコイツら〜」っていう感じ。もはやポップとすら感じられる。
 無理矢理だけど、『アーティスト』に三猿の置物が象徴的に使われてましたね。アカデミー賞映画と征夷大将軍はほとんど親戚と言っても過言ではないよ。

 そんなリラックスパートを終わらせるのが、マイティー周辺の黒いシーンであり、やはりマイティーの暴力。マイティーがもう戻ってこれない一線を越えるキッカケというのが、やっぱり暴力。
 東京を去るキッカケになる暴力シーンも何度も何度も繰り返してて引いたんだけど、栃木での暴力シーンの迫力がまたスゴイ。突如訪れる「あっ やっちゃった・・・」感からの血の気が引いてく感じ。そっからさらに蟻地獄のように堕落している感じはすごかったですね。劇場内でも、2人目を殴る時に「えっ・・・」って悲鳴あげてる人いましたよ。観客のどなたか1人が確実にドン引きしてました。スゴイ迫力です。

 そこから怒濤の展開へ続いていく。エキストラ募集とかで話題になった野外フェスシーン。「SR」シリーズで野外フェスなんてやるの!?って感じですが、このフェスシーンの見せ方がまた心憎い。まともな舞台でラップしたことないイックとトムがついに初舞台に立つことになり、もうそれだけで泣きそうなくらい感動しちゃうんだけど。
 映画の中にフェスが映った時に驚いた。「えっ もう始まってんの!?」っていう。マイティーはフェスどころじゃなかったから、フェス開幕なんて描かないんですよね。マイティーが会場にやってきたら、既にフェスは盛り上がって、音楽も鳴り続けてる状況。こっからマイティーの怒濤の長回しが始まり、観ながらフェスどころじゃない臨場感を味わう。
 そして、マイティーが逃げ回った先で絶望していると、聞こえてくるのがイックたちの曲。まさに救済の音楽なんだけど、個人的には「イックたちのライブは背景かよ!!」と戦慄しました。憎いことしてくれますね。まさかまさかこんな見せ方をしてくるとは。

 そんなマイティーのフェス入りの直前、泣きじゃくるカノジョのために子守歌的なノリでラップするシーンがあるんだけど。ここが号泣でしたね。恋愛関係のシーンでもちゃんとエモい部分があるのがスゴイです。東京の頃、カノジョは「いつになったらまーくんのラップ見せてくれんのー?」って言ってたんですがこれが伏線。初舞台の時に見せると言って拒否していたマイティーなんだけど、フェス入りの直前、狭い車の中でカノジョのためにラップする。「ついにカノジョのためにラップするのか!」という感動はあるんですが、それ以上に「ステージでラップすることはもう出来ない」という諦めの現れなんですよね。もう泣く寸前です。

 フェスでの長回しの終盤、ついについにマイティーとイックが顔を合わせる。「SR」シリーズのお決まりとして、ラストにイックが気まずい状況でフリースタイルをして相手をもう一度立ち上がらせる、というのがありまして、これが最大の感動ポイントなんですが。
 フェスの舞台の上のイック、舞台の下で警察に取り押さえられるマイティー。ここで、イックはマイティーにラップを投げ掛けるんですが、届かない。マイティーは立ち上がらない。ラップを返さない。シリーズの定石が崩れる瞬間。ある意味で究極の絶望だと思います。
 本作の全般において主演のマイティーの演技は素晴らしいんですが、この警察に取り押さえられた時のマイティーの顔はすごすぎました。迫力ありありすぎて鳥肌。

 そして、場所は変わって塀の中。マイティーの面会に訪れたのはイックとトム。「SR」シリーズで最も気まずい究極の場違い空間として面会室が用意されるワケですね。前作では三回忌という気まずい空間が出てきて「これ以上気まずい場所はないだろう」なんて思ってたらあったよ! 面会室!!(笑)
 ここで、イックとトムのリベンジ。フリースタイルでの呼び掛け。フェス時の呼び掛け失敗というのがあるので感動もひとしおですよ。シリーズで画面に映る人数が少なく、狭き空間というのが虚しくてイイんですね。もう泣きそうです。
 まぁ、前作のラストにもあった、「こんなところでラップしたらさすがに止めれるだろう」問題は今回もあるんですけどね。ただ、イックはもはや天使だからいいんだよ、と思えるくらいにイックが好きです。

 そして再びラップに目覚めたマイティーが面会室の扉を閉めて劇終。エンドクレジットが始まると同時に鳴り始めるラップにまたまた感動ですよ。トラックが止まっても尚、「言えよ SHO-GUNG」と続けるのは『SR1』のラストシーンそのものじゃないですか。
 なんて感動してたら、画面が切り替わり『SR1』の思い出の地巡りが始まるんですよね。見覚えのある光景が次々に映される。ワタクシね、『SR1』の中でみひろとの別れのシーンが一番好きなんですよ。だから、エンドクレジットであの駅が映っただけで涙腺がもうゆるゆる。
 エンドクレジットで泣かしにかかるとかずっるいわ〜。

 本編の話じゃないんですが、ワタクシは観た回では上映終了後に緊急で決まったトークショーがありました。極悪鳥の中の2人を演じた北村昭博と板橋駿谷が登場。狙って行ったワケじゃないからお得感が異常でした。
 板橋駿谷は某ソープ映画のコスプレ(=半裸)で登場し、場内をロック。映画撮影時の裏話や映画関係ない小話など充実した内容でした。
 ただ、フェスシーン、ラストシーン、エンドクレジットで積もり積もっていた映画の余韻は台無しでしたけどね(笑) おかげで推しメンは極悪鳥になってしまいました。

 劇場では中央のブロックの左側、通路から3席目という位置だったんですが。左端、通路際の席に女性の独り客が座ってたんですね。関係ないけど超美人。「女性が独りで『SR3』とは・・・・日本の未来は明るいな」と勝手にオッサン目線になっていたんですが。
 本編が終了し、直後のトークショーも終了し、席を立ち通路に出ようとした時、例の女性が座り込んでいる。膝にティッシュの山を作り、号泣なう。「そうかそうか号泣しちゃったのか・・・気持ちはわかるよ」なんて思ってたんですが・・・・・・えっ、泣きながらあのトークショー見てたってこと!!? 半裸の極悪鳥を見ながら泣いてたの!!?


 まぁ、そんなこんなで映画本編のみならず、トークショー、おもしろ号泣ネーチャンというサイコー映画館体験を味わわせてもらいました。いやーイイもん見たなぁ。
 90点。

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

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SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者 O.S.T.

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SR サイタマノラッパー [DVD]

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