北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の感想

 観てから1月半くらい経つんですが、感想です。
 父親が仕事の都合で前売り券をもらった(買わされた?)とかなんとかで、譲ってくれました。試写会巡りとかしないので、ここまでガチのタダ映画は久しぶりです。ハードルは低かったんですが、足につまづいてしまった、という感じですね。おもしろくはなかったです。

 『南総里見八犬伝』は全然詳しくないです。

(鉄砲)ガールミーツボーイ(半獣)

 最初に言っておきたいんですが、本作のタイトル、大間違いですよ。「鉄砲娘」とか言っておきながら、肝心なところで全然鉄砲使わないでやんの。前半は重要アイテムと思わせるフリなどもあるんですが、終盤になるに連れて空気化。
 「鉄砲娘」って言葉はとても心躍るじゃないですか。一見不釣り合いなアイテムというのがとてもフェティシズムをくすぐられます。銃火器と少女って組み合わせは大好物です。
 が、なんですがー、全然なんですよねぇ。結構早めの段階で主人公は鉄砲使う気がなくなっちゃって。この鉄砲は作品世界内においても相当特殊なものらしく、それを使ったなにかしらの展開があると思ってたんですけどねぇ。男主人公と出会った時の会話から、「あーこれはラストに花火に改良して平和的なアイテムに変えるパターンだなー」 と予想してたんですが、半分当たり。クライマックスに花火は出てきますが、少女の鉄砲を用いたものではありません。あの鉄砲は一体なんだったんだよ‥‥。
 この鉄砲娘は狙撃の際、「繋がる」という特殊な感覚を持っています。殺す寸前に標的の心とリンクする、みたいな。男主人公のことを殺さなくちゃいけなくなって、銃口を向ける、すると「繋がって」本当の気持ちがわかる‥‥とか期待しちゃったよ。ねぇでやんのチクショー。最終的に文通始めちゃって、繋がってやがる。平和すぎる。鉄砲関係なくなっちゃった。

 あと、ダメだったのはキャラクターたちの行動原理、心情ってのがよくわからなかった点ですね。まぁ、ワタクシの読解力不足というのも少なからずあるのかもしれませんが、単純に演出、話がヘタっていうのも大きいんだと思います。
 例えば、主人公が手紙を読んでうれしくなって泣く、というシーン。この泣くという動作が突然すぎてついていけないんですよ。感極まった前兆というものがなさすぎて。突然泣かれると、情緒不安定のヤバイ奴って印象になっちゃいます。
 他にも各キャラの行動原理や腹の底、善人なのか悪人なのか、っていうのがいまいちわかりにくい。意図的に隠してるんならそれはいいんだけど、そうじゃないので、掴み所がなく他人事のように思ってしまいました。ダメ人間が改心する、っていう燃える展開もあるんですが、改心するキッカケが謎なので全然燃えませんでした。

 そのダメ人間というのが主人公の兄。まず、初登場の際に盗みを働いています。これはダメですねー。ただ、これはダメ人間演出なので間違ってないですが。『サザエさん』のカツオくんみたいな愛すべきダメさ加減です。
 が、その後、ワタクシがどうしても許せなかったのが吉原のシーン。妹連れて吉原行くってのがまずおかしいけど、仕事なので仕方ない。けど、そのまま風俗行くって頭おかしいでしょ。土地勘のない妹を置いて‥‥っていうか風俗行くなよ。これにはドン引きしてしまいまして、「お茶目な人ねww」では済ませることが出来ませんでした。クズすぎて主人公と仲良くしてるのが本当に気持ち悪く思かったです。
 そんなクズ兄が終盤、改心して、活躍するんですけど、その過程がサッパリわからなかったです。子供が出来たから、とかそういうことなんでしょうけど、その程度であのレベルのクズが直るとは到底思えなかったです。むしろ、その程度の出来事で善人ぶられて不快、っていう。
 
 まぁ、よかったところもいくつかありまして。
 まず、気持ち悪い血の表現はよかったですね。序盤に生首とか出てくるんで、過酷さが伝わりました。ただ、男主人公が強すぎて負ける気がしないのは問題なんですよね。敵サイドに強そうなのがいない、っていう次第だからすべては男主人公でどうにかなる、って気になってしまう。‥‥あれっ、結局悪口だ。

 よかったところはあるんですよ。特によかったのは、対立構造。まぁ、映画というか原作の手柄なのかもしれませんが。
 本作には2つの対立した要素というものが無数に出てきます。それが互いに近づき、交わり、交差していく。狩る者と狩られる者、人と犬、男と女、因と果、本家と贋作、『南総里見八犬伝』と『伏』。そんな対立構造の中、ベタなボーイミーツガールを演じる主人公2人、というのはなかなか見応えありました。
 ヒロインは男に間違われるような見た目、山で育ち都会は苦手、銃で殺す。一方男主人公はどこか色気すら漂う色男、華やかな都会に精通し文化的だけど伏(半分犬)、自らの肉体を使って殺す。特に男主人公の色気描写というのが見事でして。特別説明はないんだけど、見てると品を感じてしまう。そして、中盤に彼が舞台で女形をやっていると知り、思わずヒザポン。
 そして、クライマックス、すげぇ高いところで2人は対峙。ヒロインの感情が発露したところで火事の爆風で、髪留めが取れ髪の毛がファサァァ。相手への感情が高まった末に女になったワケですね。そして、男主人公との関係に決着が付く。対立構造の物語の結末として、なかなか感動的でございました。


 ということで、基本軸はおもしろかったんですよ。設定、対立構造、主人公2人の関係性とか。なんだけど、その他諸々がダメダメで全然ノレない。「ライド感」って揶揄する言葉としてよく使われるけど、本作にはライド感がなかったですねぇ。頭ん中で物語を整理してる方がおもしろかったです。原作はおもしろいのかもしれまんね‥‥評判もなにも知らないんですが。
 とはいえ、タダで観た身ですからね、不満はないですよ。見所がなかったワケじゃないですから。ただ、ヒロインの兄は本当に嫌い。
 40点。

伏 贋作・里見八犬伝 (文春文庫)

伏 贋作・里見八犬伝 (文春文庫)