北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『ドラえもん のび太の新恐竜』の感想

「映画ドラえもん のび太の新恐竜」 オリジナル・サウンドトラック
「映画ドラえもん のび太の新恐竜」 オリジナル・サウンドトラック


 『宝島』アンチなので非常に心配だったんですが、面白かったです。川村元気と歴史的和解……とまではいかないが、全然良かった。ネタバレ案件があるのでブログに書きたくなりました。

 まぁ、ピー助ですよ。冒頭は『恐竜』からパラレル的に歴史が分岐するような話でそこが非常に面白かった。知らなかったら何の問題もなく観れるし、知ってるオッサンたちは「ほぅ そう来ますか……」としたり顔で悦に浸れる。恐竜の名前がPじゃなくてQなのが気が利いてる。てか、そもそもピー助は恐竜ではない……という身も蓋もない『恐竜』へのツッコミをアップデートする意味でも面白いアプローチだと思いました。

 そう思ってたので、まさかのご本人登場でビックリですよ。あそこ、細かい説明はないし、のび太も気づかないまま終わったのは良いバランスだと思いました。細かい整合性を気にし出すと無理ある展開ですし、「ピー助とよく似た恐竜に思えたけど何だったんでしょうね」くらいの扱いがちょうどいい。なんだけど、エンドクレジットだと堂々と「ピー助」と出てくるのでちょっと引いたw 「謎の首長竜:神木隆之介」くらいでよかったのに。

 懐古趣味としてはやっぱピー助に夢中になってしまうのでラストの恐竜を助けようのくだりも「えっ ピー助は??」「ピー助は無視なの?」と無駄にハラハラしてました。ドラえもんだちの説明を考えればピー助たちは絶滅と見るのが自然だと思うんですが、どうやらラストの場面にピー助が映ってたらしいです(ツイッターでそんなこと言ってる人がいた)。探したつもりだったんですが、見逃してました。生きてて良かったけど、理屈がないのは少し気になる。まぁ、ここはファンサービスか。

 それより本作で一番気になったのはタイムパトロールの判断。悪役かと思ったらタイムパトロールでしたー、というツイストは面白かったし、悪人が1人もいない、というバランスも意外で楽しかった(『南極カチコチ』もそうかな)。
 なんですが、のび太は正史だから放任、というくだりが意味不明すぎてちょっと飲み込めない。そもそもジオラマ落として島を作っちゃった時点で重大な犯罪なのでタイムパトロールならその時点に戻って阻止しろよ。キムタクが猿になって研究してたのに、その島がジオラマだったことに気づかないのもあまりにバカっぽくて泣ける。まぁ、進化がキーなので猿に変身ってのは面白かった。
 恐竜は助けちゃいけない存在だから涙の別れって話なのに「やっぱ助けていいよー」と手のひら返しなので萎える。恐竜は鳥に進化して生き延びたって話なのに恐竜を助けたら鳥に進化しなくていい気がするので、そこらへんも気になる。
 もちろん、ドラえもんの時間犯罪を考えたら『日本誕生』もアウトだし、そもそもドラえもんの存在(目的)がアウトだから「こまけーこたーいいんだよ」案件なのかもしれないけど、今回は明確にタイムパトロールが物語的に重要な存在だし、ジオラマという物的証拠もあるので「これはさすがに……」と気になりました。
 あとは単純にタイムパトロールが「見てるだけです」と現場から離れたのもあまりにつまらない。キムタクが何かまとめっぽいことをくどくどと語り出すのも「お前何なんだよ」としか思えないというか。

 他にネガティブポイントとしては、モブ恐竜のリアルライクなデザイン。気持ち悪すぎでしょ。キューとミューが殺人的に可愛くてそれが本作の大きな武器になってるのに、突然リアルな恐竜が出てくるので「この子たちはデフォルメされてるんだ……」と夢から覚める。ちょっと何がしたいのか分かりませんでした。アニメ版と超実写版の『ライオンキング』が同居してるような不気味さ。

 もう1つ、好きになれない点としては、キューの飛行訓練。のび太とキューと重ね合わせるのも良いし、滑空の才能はないけどそれが進化(羽ばたき)の足がかりだったという多様性の強みを物語に落とし込んだものうまいんだけど、のび太の特訓がただの根性論によるスパルタなのが悲しい。のび太はそういうのから最も遠い人じゃないですか。ラストの飛行成功のくだりに何か1つアイディア、成功のロジックがあればよかったんですが、ただ大きな声で叫ぶだけなので非常に萎えた。それを黙って見てる翼竜よ……
 あと、逆上がり。最後に逆上がり成功するので今後のテレビシリーズに支障が出ないか心配になってしまった。てか、キューが飛べない(滑空)のは既存の価値観でははかれない才能を持っていたという話なので、のび太が逆上がりを出来るようになるのはよく考えると関係がない。逆上がりは出来ないけど、その失敗から別の可能性が広がる、みたいにしないとキューとのび太が重ならない。
 あと、スパルタ特訓。せっかくチョコがあるんだし、せっかくしずかちゃんに「のび太の良いとこは寄り添う優しさを持ってるとこやで」と父親譲りのこと言わせるんだったら、のび太も一緒に飛行訓練やればよかったのにね。一緒に失敗することでキューが滑空ではなく羽ばたきのヒントを得る、みたいなロジックに繋がればよかったのに。
 てか、チョコの変身要素がほとんど意味ないのも謎い。ジャイアンスネ夫の脱獄くらいじゃない? 変身が役立ったのって。もっと獣人要素を押し出せばよかったのに。意味のない道具という意味ではたまご探検隊もそうですね。出さなくてよくね?
 『宝島』のミニドラと同じで、とりあえずマスコットキャラ出したかっただけなのかな。そういうとこやぞ。

 ただ、本作はトータルで言えば結構好きで。序盤の恐竜博士が妙にキャラ立ってて好きだし(キムタク二役にすればよかったのに)、現代パートの鳥や、警察が野比家に聞き込みに来るのがタイムパトロールの伏線ってのもうまかったと思います。
 そして何より、大好きなのはラストの「恐竜は絶滅せず鳥になったんやで」の件。まぁ、最初にドラえもんが教えてくれてもいいと思うんですが、それは置いといてw
 映画シリーズってゲストキャラと感動の別れをするのが定番じゃないですか。「またねー」とか言うけど、会うことは絶対にないというツッコミ込みで定番なんですが、本作は明確に再会を果たす。ここが本当に良かった。それを示すエンドクレジットも最高でしたね。
 この伝説の存在が現実と地続きに存在すると明かされるラストは『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』を連想しました。秘密の島のくだりもちょっと似てたかな。とにかく、この現実世界に当たり前に存在する鳥こそが!! というのが本当に感動的で。劇場からの帰り道で鳥を見かけて感傷に浸ってしまったレベル。子供の頃にこの体験をしてたらどうなっちゃってたんだろうかw 映画の中の思い出(ウソ)が現実世界に浸食してくる感覚が本当に素晴らしかったと思います。


 終わり。いろいろ引っかかるところはあるけど、特大ホームランがあるので全然オッケー、という感じ。あとディープインパクトの世界の終わり感、本作では珍しいのび太のガチ出血とかトラウマ的な衝撃度もあって良かったんじゃないですかね。これからの子は『ドラえもん』の恐竜と言ったらピーじゃなくてキューと言い出すんでしょうね。泣ける。まぁたしかにピー助は恐竜じゃないんだけどw

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