北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『ONE PIECE FILM RED』の感想

 入場者特典もらえないなんて今時ないと油断してました。そんなにヒットしないとナメられてた?

事前に分かってはいたが

 歌に興味ない。『ONE PIECE』にそういうの求めてない。不安だなぁ、けど前作も万博とか言い出して不安だったけど実際は面白かったんだよなぁ……と思いながら映画館に向かったのですが、結局「こういうんじゃない」。
 ただ、勝手に想定してたずっとライブしてるような内容ではないので、そこは良かった。途中から歌の比重が小さくなる。ただ、それでも歌が始まると話が止まるのでシンプルにつまらない。てか、歌を扱う作品として単純に失敗してると思う。歌とバトルの融合を目指してるのは感じられるが、とても成功したとは思えない。どっちも中途半端。バトルが本当に虚しい内容で、ここさえ良ければどんだけ歌があっても好意的な印象に収まってたと思う。
 最初の1曲はまぁ良かったというか全然許容できるけど、途中から「何を観てるんだろうな……」と冷めた気持ちになってしまった。

魔王って何だよ

 いやマジで何だよ。歌というコンセプトもまずかったと思うが、バトルがつまらなくなった最大の戦犯は魔王だと思う。魔王との戦い、ただ叫ぶだけで、勢いとテンションのみで構成されててマジで悲しい。巨大な敵とのバトルを魅力的に描けないんだったら余計なことに挑戦しないでほしい。
 そもそも『ONE PIECE』の世界で魔王って何なの。ウタウタの実ありきの存在の魔王って何。
 魔王戦を面白くできないんだったらウタと最後まで戦うとか、「お前とは戦わない」とか言ってバトルを否定して終わるとかの方が全然良かった。話としてもつまらないし、単純にバトルとしてつまらないからマジで救いようがない。

ギア5はちょっと期待してました

 単行本が出たばっかのタイミングでの映画なので、ひょっとしたら神懸かり的なスケジュール管理で?? とか思ってました。実際はそんなことはなく、それ自体はいいんだけど、代わりに用意されたのが魔王戦なので困りましたね。スネイクマンだったら『STAMPEDE』のが全然かっこよかったよ。巨大な敵との戦闘、あっちはうまく行ってたじゃん。なんでショボくなってしまうんや。

 歌自体は別にいい。興味はないけど、「全然知らんかったけどすごいねー」くらいの感動はある。ただ、映像がすぐにMVみたいになってしまうのがね……。ライブパフォーマンスとしての映像が見たいというか、映画としてはそっちにしか勝機がないと思うんですよ。まぁ、「いやこれウタはどういうアクションをしてるんだよ」と思ってたら「全部夢の中だよーん」とオチがつくので一応ロジックは通るんだけど。
 一部、少しだけど、ライブパフォーマンスとして描かれてるとこもあって、そこは普通に良かった。ちゃんと『ONE PIECE』世界ならではのギミックというか舞台装置を使ってたりして面白かったです。それを最後までやり通してほしかった……。まぁ、最初はマジのライブパフォーマンス(現実)で、徐々に非現実的なMV映像(夢)というグラデーションをやりたかったのかもしれませんね。もっかい観たらそこらへんも確かめたいけど、テレビでやっても観るか怪しいレベル。
 Adoの歌声が多彩で、後半キャラクターの闇を隠さないようになっていくくだりとかAdoのイメージにもハマってて良かったと思う。歌自体は良かったんだけど、歌声が多彩であればあるほどセリフパートとの乖離が大きくなってしまう。歌パートだけ「なんか別の始まった」となるくらい映像含め雰囲気が一変するんですが、声も違うから余計に感じてしまう。変な話、テレビ放送時に「またCMかよ」となるくらいの中断感。これは単純に映画としての出来の問題だと思う。別に劇中で1曲フルで歌う映画とか珍しくないですし。それまでのドラマと歌唱スタートの間に連続性を感じない。
 無い物ねだりにはなるが、Adoに演技させるか、歌える声優連れてくるの方が良かったんじゃないかと。まぁ、Adoありきの企画なのだとしたら知らん。『竜とそばかすの姫』は普通に嫌いな映画ですけど、中村佳穂が演技して、そのままの声で歌ってたから、ああいう説得力には劣ってしまうよなぁ。まぁ、映画としての嫌い度でいったら全然あっちのが……。

ウタ

 予告で、「ライブやるのか……これは困った……」とばかり考えてたので、ウタの正体については普通に驚いてしまった。我ながらチョロい。普通に超面白かったし、闇モードがあることでウタというキャラクターの魅力も増したと思う。さっきも書いたけどAdoのイメージに近づくという気持ちよさもある。
 無限列車とか人類補完計画とか脳裏をよぎったんだけど、そこまでは全然アリ。ファンとの関わりが歪んだ形で結実してしまった悲劇、というのも普通に面白い話だったと思う。ただ、その決着がちょっとぼんやりしてた(特にファンとの関係)のと、あとやっぱり魔王が酷い。やはりこの映画の癌は魔王……。困ったことに今後『ONE PIECE』の連載を読む上でも「この世界には魔王がいるのか」となってしまう呪い。最終章で盛り上がってきたのにつれぇわ。
 予告段階でネット上で、ウタの設定が夢女子みたいだと指摘されてて個人的に爆笑したんですが、蓋を開けてみたら人を夢に引きずり込む能力なのでまた笑いました。まぁ、歌で陶酔させるみたいなイメージ自体はそれほど捻ったものではないので、この能力の正体は必然で夢一致は偶然だろうけど、出来過ぎた話。
 ただ、ウタが結局シャンクスの実子ではなかったのは「日和りやがったな」という印象。別にどうでもよくないか? ダメなの? 今後シャンクスの家族関係について掘り下げる予定でもあるのかしら。

シャンクス

 出し惜しみ。『ヒロアカ ワールドヒーローズミッション』の目玉が国際ヒーローの存在だと思ったら出オチみたいなキャラでしか出なくてガッカリしてたら、その後の原作でアメリカNo.1ヒーローが出てきて「あの映画は前座かよ!!」となったのと近い。あんなぼんやりした扱いでしか出せないなら別にシャンクス出さなくてもよかったよ。そりゃ出てきたら、出てきただけでそれなりにテンションは上がるし、「えっ シャンクスたちが戦うの!?」とか前のめりにもなったんですが、なんかぼんやりしたまま終わってしまったなぁ。そもそも隻腕で気の利いたアクションを思いついてなかったような印象すらある。結局のところ「覇気がすげェ!」くらいしか分からん。
 ただ、ヤソップは良かった。ウソップと再会はしないけど、見聞色を通じて軽いコンタクトは取る、という大人の事情を感じさせるギリギリのラインw ウソップが親に置いて行かれたことについて吐露する場面もあって、ここも意外な良さ。ナイス掘り下げ。

意外なキャラ

 個人的にはバルトロメオ。好きなのでめっちゃ出番あって嬉しい。ファンボーイというキャラクターも今回の世界的歌姫という話と親和性ありましたね。
 あと、サプライズとしてはサニー。一瞬マジで意味分かんなくて混乱したんですがサニーが普通に出てきて、普通に喋って、最後まで同行してるのでビビる。なぜかブルーノとサニーが同列のマスコットキャラになってるのも謎すぎて好き。
 ブルック。そもそもルフィがあんなにも「海賊といったら音楽家」とこだわっていたのはウタとの思い出があったから、という後出しジャンケンは見事で感心しきりだったんですが、だったらブルックにもっと活躍させてほしかった。あんな戦闘員Aみたいな出番で終わるのはもったいない。ウタと直接絡むのは難しかったとしても、ルフィに助言するとか音楽家ならではの個性を発揮する余地はあったんじゃないでしょうか。

脳裏をよぎる『オマツリ男爵』

 また細田守かよ、と我ながら思うんですが、関連作として最も頻出するのは『オマツリ男爵』なのではないでしょうか。麦わらの一味がとある島を訪れ、そこで開催されるエンタメを楽しんでいると、島の主が抱える心の闇が島全体を覆い尽くす。『オマツリ男爵』は、『ハウルの動く城』を降板になった細田守のバッドモードを反映した私小説的な側面のある内容なんですが、「それを『ONE PIECE』でやらないでくれ」というのが素直な感想。細田守を語る上ではかなりの重要作になったので歴史的な価値はどんどん増すばかりだと思うが、まぁ単体で言ったら普通に嫌い。ただ、超ド級の変化球なのでゲテモノ的な趣味で楽しむ人がいるのは想像に難くない。
 んで、『オマツリ男爵』の尾田版リメイクとも言えそうな(コジツケだよ)『FILM RED』。『オマツリ男爵』の怨念が晴れたと見ることもできるかもしれないが、個人的には「普通に王道の奴で勝負してくれ……」。まぁ、これは『STRONG WORLD』以降、尾田ガッツリ監修の映画を何本も観ることでファンとして甘やかされてきたという面もあるのかもしれない。『FILM RED』が『STRONG WORLD』以前の作品だったら、「ああ東映がAdo使って集客できそうな企画立てたのねファック」くらいで終わってたかもしれないし、たぶん観てない。大人の事情が入り交じったゲテモノとして考えたら良く出来た作品だし、後年「アレ観てないの? 意外と良いよ」となってたかもしれない。ちなみに『オマツリ男爵』も後年観ました。我々ファン(てか私)が甘やかされ、良くも悪くも期待しすぎてしまったんや。「シャンクスの娘が歌姫でAdo? 何その企画……」くらいの気持ちで向き合うのが適切だったと思う。


 終わり。結局『FILM Z』が至高なんだよなぁ、強敵とシンプルに殴り合うアクションがめちゃくちゃかっこいいのよ……という気持ちなんですが、もうじき老害の仲間入りかもしれない。いやけど、魔王って何だよ。マジで。ふざけんなよ。