『エブエブ』『フェイブルマンズ』と注目作の公開が重なった大変な週なんですが、最初に観るのは『ドラえもん』。これが川村元気脚本だったら後回しでした(毎年こんな書き出しにするのもどうかと思うが)。
オープニング
あるよ! あるけど、歌はナシ。「ドラえも~ん!」のシャウトからのオープニングになるが、かなり短め。ただ、人類と空の歴史、という感じのモンタージュになっててなかなか感動的ではありました。アプローチとしては『月面探査記』のオープニングを短くして歌をなくした感じ。『月面探査記』のオープニング、マジで傑作なんですよね。人類の文化史における月もしくはウサギモチーフの釣瓶打ち。
ひみつ道具が少ない
出てくる道具がかなり少なかったと思う。映画用の道具以外は基礎的な道具のみ、という感じ。
「また点検してんのかよ!」と映画お馴染みの設定に思わず笑みがこぼれたんですが、そこで出てくる「四次元ゴミ袋」が本作最大の重要アイテム。伏線の面白さであると同時に、本作のテーマと直結するアイテムですよね。世間では出来損ないと評価されるようなものにこそ人間の価値(そしてロボットの心)がある、という話なので。ゴミ袋の変わった使い方で一矢報いるのが象徴的。
ひみつ道具の購入
が描かれたのも珍しかったし、書いたてのアイテムなので使い方が分からなくて、マニュアル読んで把握して……という行程があるのがとても楽しかった。例の点検設定によって道具が限定的になるんだけど、その中で使えるものの使い方をしっかり把握する。ゴミ袋も新聞もそうだけど、少ないひみつ道具をどう使うのか、という部分が凝ってて『ドラえもん』らしい楽しさに満ちていたと思います。
山里ロボットも良かったですよ。演技力が心配だったけど、方言とロボットというフィルターが加わるのでハマってたと思う。
それはさておき、ツェッペリン号のローンはどうなったのだろうか……。
イケボ猫型ロボット
グループが分離し、ジャニーズに残留すると『ドラえもん』の声優に起用される、という法則が生まれてしまったな! とかふざけたこと考えてたんですが、ソーニャの声も良かった。声かっこいいのにたまに舌足らずになるのが可愛いですな。それが「元は出来損ないだった」という設定の現れなのかもしれない、と思うとエモい。たぶん違うけど。
映画館の帰り道、小学生か中学生の女子がいかにも女性オタク然としたノリで「めっちゃイケボなんだけど」と興奮してて微笑ましたかったです。たしかにイケボでした。キムタクより好きだな。そもそもあれは映画が良くない(しつこい)。
ゲストキャラとの友情
当然ソーニャなんですが、彼との友情をはぐくむのが、主にドラえもん!! ここが意外で、すげぇ良かった。大体のび太と仲良くなると思ってたんですが、猫型ロボット同士、分かり合えるものがあり、さらには「ロボットに心はあるのか」という本格SFみたいなテーマにまで踏み込むので最高。ソーニャがドラえもんのことを撃てない(が命令で撃ってしまう)くだりもエモが炸裂してたし、クライマックスでソーニャが自身の四次元ポケットを取り戻すくだりでも泣く。
自己犠牲オチはあまり見たくないかな
ソーニャのことが予想以上に好きになってしまったせいもあるんですが、ラストの自己犠牲展開はちょっといらなかったというか、『ドラえもん』では見たくなかった。まぁ、バギーちゃんとか過去にもあるけどね。
あと、空で爆発ということで、頭の片隅で「どうせペルは死なないんでしょう?」とか雑念も湧きました。
ディストピア学園
アバンでタイムパトロールが出てきたので明らかではあったんですが、「ユートピアはディストピアだった!」という中盤のビックリ展開はやはり楽しい。ちょっと『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』と被るところはありましたね。管理&監視社会。そして主人公は出来損ないだからこそヒーローになり得る、という話。被ってはいるけど、『しんちゃん』で学園モノをやるのがイレギュラーすぎる話であって、本来は『ドラえもん』の方が親和性の高いテーマなのだと思う。のび太の0点の答案オチというのも完璧にハマってましたし。ただのギャグではなく、テーマと直結する本作を象徴する着地。ダメなところも好きになる。
のび太があまりに馬鹿なので洗脳教育ビームが利かない。そのことに対して悪役が「興味深い存在だ……」とか真面目にリアクションしてるのが面白かったです。悪役に一目おかれる馬鹿。
不良性こそ多様性
『謎メキ』『空の理想郷』共通のテーマであり、のび太のドラマとしてとても良かった。そして、悪役が用意した危機をゴミ袋を使って処理する、というのが気が利いてる。
2組の鏡像
ドラえもんとソーニャ。そして、のび太とレイ博士。それぞれが鏡像関係にある。出発点は同じだが、現在の立場は真逆。
ソーニャは、のび太という友達を得ることができなかったドラえもん。レイ博士も同様に、社会から出来損ないと判断され、それを内面化して逆ギレしてしまった存在。悪役が鏡像というのは『新日本誕生』のギガゾンビもそうでしたが、本作にはソーニャというもう1人の鏡像がいて、そことは和解し、協力するようになるのが熱い。やっぱソーニャ好き……。
ソーニャ最大の悲劇は体を改造されたことだと思うんですが、改造された体は作り直すことでしか救われない、というのはちょっと身も蓋もない結論だったかな。例の自己犠牲オチはソーニャの体をぶっ壊すための儀式だったと思ってますが、ちょっと乱暴すぎるというか、心(と記憶)が清ければあのままの体でもソーニャは善人になれたんじゃない? てか、なってたよ。
しずかちゃんは強情
映画のテーマ的に、子供たちにはそれぞれ欠点があるが、そここそが個性であり美点、とやりたいのは分かる。分かるけど、「しずかちゃんは強情」ってそうか? ちょっとピンとこなかったし、少なくとも本作の中では彼女が強情であることが問題と周囲から評価される場面が欲しかった。まぁ、エンドクレジットにおけるバイオリン演奏は、彼女の愛おしき欠点として象徴的で、それでちょっと納得してしまったところもあるんですが、できればそういうのが本編で欲しかった。
ドラえもんの死
クライマックス直前にある決定的な敗北、絶望。のび太の目の前でドラえもんがいなくなってしまう。ドラ映画でたまにある恐怖シーン。その後、タイムマシンを使ったトリックによって復活することも含め、『南極カチコチ大冒険』と非常に似ていたと思う。あちらの方がドラえもんがより死に近づいていて(マジで死んでる)、タイムマシンのトリックも「そもそもドラえもんとは」という話にまで広がるのでクオリティでは敵わなかった気もするんですが、ただ『南極カチコチ』はちょっとどうかしてるレベルの傑作なのでそれと比較するのも酷な話ではあると思う。わさドラ映画の中でベストと評価されても不思議じゃないと思う。
エリート小学生ジャイアン
たぶん「きれいなジャイアン」を狙った目配せだと思うんですが、個人的には不自然なほど優しい言動をしてきてずっこけてしまうジャイアンというのは『僕とロボコ』のガチゴリラを連想してしまう……。
来年の『ドラえもん』は?
『ファンジア』だ!! オーケストラを指揮するドラえもんの姿にテンション爆上がりしてしまった。来年もオリジナルってのも嬉しいですが、何よりアニメ映画において、アイコニックなキャラクターがオーケストラを指揮する、というのに感動してしまう。打倒ミッキー!! 応援するぜ!!(迷惑なファン)
あと、日本の国民的アニメ映画の、それもプログラムピクチャーにおけるオーケストラ題材という意味では『名探偵コナン 戦慄の楽譜』も連想しちゃいますね。毎年映画をやるにあたってどうしても出てきてしまう題材なんだと思いますw
そもそも空だったか?
最後に。ディストピア学園設定がめちゃくちゃ面白かった本作なんですが、それだけに空というテーマに意味はあったのか? と少し疑問。いや、結構な疑問。クライマックスの「のび太たちの町が危ない!」という危機は面白かったし、最終決戦の舞台がいつもの舞台の上空というのも素晴らしかったと思うんですが、テーマでいうとディストピア学園ほどの関連はなかったように思う。大冒険を終え、「いつもの町のことをより好きになる」という決着も素晴らしかったんですが、それはどちらかというと「理想郷」と関係する話であって、同じタイトルの「空」は
終わり。個人的に『南国カチコチ』『月面探査記』がどうかしてるレベルで好きなので、そこには劣るが全然良い!! こういうレベルが毎年観れるとか夢のよう!! みたいな感想。子供向けだからこそのストレートな説教臭さが沁みるのよ……。説教臭いだけじゃなくて0点オチで包んだのがやはり見事でしたね。
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