北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の感想

 櫻井脚本回が好きなんですが、去年の『ハロウィン』が文句のつけようがない傑作でぐぬぬ……からの今年も大傑作であった。両脚本家がコツを掴んだのか、波に乗ってきたのか知らんが、どんどん洗練されているのをハッキリと感じられる2本。この2人のローテーションが今後も続くようなら、コナン映画、盤石すぎて怖い。『ドラえもん』とか(個人的に)アレな人が数年に一度やってくるんだぞ。しかもそれが来年。

 ネタバレ気をつけてね。

「キミがいれば」今年も来ましたわぁ~!!

 菅野祐吾ありがとう。これによってコナン映画がまた新たなフェイズに入った、という感じありますね。
 単に流れるだけでもブチアゲなんですが、今年は「キミがいれば」をコナンと灰原の曲として再解釈してるのが素敵すぎる。今までは単なる盛り上げ曲という感じだったのに……。バラードから始まって、転調してガラッと変わる流れも最高だったぜ。

オープニングも最高

 これも菅野祐吾時代というのを感じる。もちろんアニメーションには関わってないんだけど、節目として。曲もかっこよかったし、多すぎるキャラクターの整理としても有能、からの灰原フィーチャーも素晴らしい。
 今の『ドラえもん』映画にはちゃんとしたオープニングがないんですが、マジで悔やまれる……。誰だよオープニングなくしたの。それが来年担当する今井監督だ(たぶん)。

『相棒』「神の憂鬱」もしくは『天国へのカウントダウン

 本作のパシフィックブイが『ワイルドスピード』のゴッドアイに思えてならない、とツイートしたら『相棒』ファンの方に「こっちはもっと前にやってる」という旨のリプライをもらったので観た……と以前記事にも書いた通り、こちとら「神の憂鬱」バッチコイ! というつもりで映画館に向かったのですが、いざ映画館で待っていたのでは「老若認証を追加したよ!」。コナンたちをピンポイントで殺すシステムのような気もするんですが、実際の捜査でも重宝しそう(実現しそう)な雰囲気もあって見事なアイディアだったと思います。櫻井武晴が「神の憂鬱」をアップデートしてきた感。
 が、そんな老若認証(老若画像変換)、『天国』でもあったネタですね。あのときはもっとオモチャみたいな機能でしたが、コナン映画に初めて灰原が登場した作品なので、この一致にはドラマチックなものを感じてしまう。というか、単純に櫻井武晴が過去作を復習した際に「これや!」となった可能性も疑ってしまう。(追記2023/04/20:灰原初登場は『世紀末の魔術師』でした。記憶違い申し訳ない。灰原メイン回の初が『天国』ということで一つ……)
 前述の「神の憂鬱」記事に書いたことなんですが、この顔認証システム、悪として扱われると思ったんですよ。映画『ダークナイト』でも似たようなものが悪だったので疑わなかったんですが、本作では割と未来の希望みたいな感じのままで終わりましたね。ここらへんは時代の変化というか、実際に似た技術が使われ出してるのでそうも言ってられない、みたいな事情かもしれない。
 ただ、「神の憂鬱」のFRSと同じく、最終的に海外流出してハッピーエンドでしたね。技術自体は廃れないけど、当面の『コナン』には関わりません、という穏当な決着だったのでしょう。

映画オリジナル組織キャラ、ピンガ

 アイリッシュキュラソーに続く組織の映画オリキャラ。どちらもキャラ立ってたし、アイリッシュは超有能、キュラソーはコナン映画の中でも屈指の泣かせキャラなのでピンガへのハードル高まりすぎてたと思うんですが、それなりに良かったと思う。
 キュラソーを越える名キャラ! とまでは言わないが、過去2人と方向性の違う組織キャラとして独自の魅力を放ってたのは間違いない。ちょっとチンピラっぽい雰囲気もあったけど、しっかり新一の真実に辿り着いてたのでバカにすることもできない。そういう意味ではアイリッシュと同じ。ジンという共通の敵展開も同じだが、ピンガは最後までコナンの脅威として存在し続ける。ここが良かった。
 さらにはメインの事件(殺人事件)の犯人も兼ねる。ここがシリーズ的に斬新、というかシンプルに組織キャラが犯人役を演じるのは初ですね。事件の謎解き、組織との対決、アクション、サスペンスが一直線に繋がっていくのが本作の優れた点だと思います。灰原の危機を救うために謎を解いて犯人(ピンガ)を見つけ出す、という流れが美しすぎるんですよね。過去のコナン映画だと事件とクライマックスのド派手アクションが全然関係なくて、こちらのエモーションが一度途切れる、という問題があったと思うんですが、最近の作品ではその点が見事にクリアされてて、シリーズとしての成長を感じる。

蘭vsピンガ

 『漆黒の追跡者』で蘭がアイリッシュと戦ったときには「越えてはいけない一線を越えてしまった……」とかマジで思いました。警官数人を瞬殺(気を失わせる)するようなアイリッシュに対して高校生が空手でそこそこ良い勝負を見せる、というのはいくら何でも無理がある。そう思った。
 んで、今回のピンガ戦。今回も良い戦いをしたんですが、事前にピンガの戦闘能力を示す描写がないのでアイリッシュのときほど「それはダメだろ」とはならない。ギリギリだけど。
 さらには蘭の活躍がフーダニット謎解きのトドメとなる連結にも唸った。リターンマッチにも「待ってました!」的な盛り上がりを感じる。さすがに蘭が強すぎると問題があるので、最終的に黒田兵衛に修正点を指摘される、という落とし所も見事だったと思いますね。
 蘭に格闘させるのはファンサービスだと思いますが、雑にやりすぎると便利なゴリラ扱いしてるみたいで個人的にあまり好きじゃない(『業火』とか……)。そんな中、同じ櫻井脚本ですが蘭の扱い方もレベルアップしてるのを感じますね。
 黒田兵衛といえば、安室(降谷)とのホットライン匂わせが『ゼロ』のときよりもスマートになってて、これまた「うまくなってやがる……!」と感動しました。これは監督と脚本どちらも共通してますね。

安室はほぼバーボン

 連続登板ではあるものの、決してメインではない扱いなので良かった。というかバーボンとしての活躍が描かれるのも映画だと珍しい。
 安室が最前線で活躍しないから、本作はコナン映画にしてはトンデモアクションが控えめになってたと思います。もちろんあの手この手で見せ場を提供してくるので感覚が麻痺しますが。
 それでいて、クライマックスではコナンと赤井との共闘という『純黒』みたいな活躍が待っているからすごい。いろんな方面に要素が多い作品である。それで2時間切っちゃうとは……。

個人的な推しはウォッカ

 『ゼロ』と『ハロウィン』だと(ボロボロになる)風見が好きなんですが、さすがに本作は出番が少なすぎた。代わりにウォッカが驚くほどに活躍。裏も思惑もないピュアな悪役として活躍していて魅力的でした。その裏のなさが本シリーズにおいてはどこか癒やしのような印象を醸ち出し、「ウォッカ可愛い」とかいう混乱した感想が発生してしまうのでしょう。ただ、本作は可愛いだけでなく、しっかり怖いのも良かった。組織キャラもみんな魅力的でしたよね。
 ジンはほとんど活躍しない……どころかジンのおかげで本作はハッピーエンドになったとすら言えるレベルなんですが、「ジンが到着したら終わり」というタイムリミットサスペンスとして機能していて、ジンのキャラクターとしての格はしっかり描かれてたと思います。出番は少ないが、しっかりキャラは立ってる。

ドラマとしてはキールがベスト

 不憫で可哀想(可愛い)という意味では風見と通じるところがあるかもしれない……。が、本作はとにかくキールが良かった。メインプロットに関わるわけではないんですが、スパイとしての葛藤が丁寧に描かれ、本作で最も感動的なキャラクターはキールだったと言って間違いないのではないでしょうか。
 灰原と直美の会話を聞いたキールが、灰原に盗聴されてると知りながらウォッカから必要な情報を引き出す場面は間違いなく本作のハイライト。安室赤井登場以降、大人の男性キャラが充実した弊害として女性キャラが隅に追いやられることもあったんですが(『純黒』とか)、本作は女性キャラが活躍し、しかもその活躍が「ラブコメ要員」ではない。マジで感動しました。
 さらにはこの女性たちの密かな(一方的な)連帯にベルモットが加わる、という展開まで来るからすごい。ベルモットが灰原と繋がるポストクレジットのくだりが門外漢ファンとしてはいまいち理解しきれなかったんですが、まぁ何か因縁とか思い出があるんでしょうね、くらいは察しました。
 そんなキール。回想の場面で父親が出てきて、「小五郎じゃん!」となった。原作知らないので。後で調べてみたら、先にキールパパがジャックバウアーとして登場してたところ、その後に小五郎がジャックバウアー化した、という経緯らしい。本作、小五郎の活躍は少なかったけど、思わぬところでドラマが見れました(聞けました)ね。

灰原のラブコメ落ち

 原作シリーズを知らないからどういうリアクションをすればいいか分からないんですが、それほどコナンと灰原の関係にラブコメを期待してないので「ご褒美ですよ~!」と言わんばかりに、『14番目』オマージュとも言えるキスシーンを見せられても困惑する。あれは灰原ファンは歓喜してむせび泣く、という感じなのだろうか。正直ピンと来なかったし、最後の最後でちょっとテンションが落ち着いた。蘭への「返すわ」もちょっとね……。灰原、コナンや蘭より年上なのに、驚きのラブコメ脳してたのだな。
 最初あの人工呼吸を見て、「なるほど 灰原は人工呼吸にラブコメ的な意味を見出さないのか」とか思ったんですが、おもくそ灰原がラブコメに寄ってきたので面食らいましたね。それこそ『14番目』との差別化として面白い、とか思ってしまったんですが。
 まぁ、とはいえ、櫻井脚本回における灰原のサイドキック扱いに文句があるファンも少なくないようなので(ツイート検索してたらちょくちょく見かける)、何をやってもすべてのファンを満足させることは適わないので、いろんな作品でいろんなことを試みる、というのが適切なのではないでしょうか。それが出来るのがプログラムピクチャーの強み。

黒鉄の魚影

 去年の『ハロウィンの花嫁』を観たとき、「タイトルが犯人のネタバレかよ!」と笑ったんですが、本作の『黒鉄の魚影』の意味が明らかになるクライマックスも素晴らしかったです。本作は全体的に画面が暗かったり、黒くて、海の黒さが物語の不気味さを醸ち出してたと思うのですが、最後の最後にシチュエーションを最大限面白く見せる仕掛けが待っていた。コナンの花火ボールに頼りすぎる展開には正直少し飽きてたんですが、今回の使い方はめちゃくちゃフレッシュ。感動してしまった。赤井スナイプの補助という意味では『純黒』のセルフオマージュとも言えそうですが、私は『純黒』大好きなのでそういう意味でも嬉しかったですね。未だに『純黒』がコナン映画のベストだと思うなぁ。黒の組織という『コナン』で最もハードな面と、子供たちという最もソフトな面が混ざり合うのが本作独自の美しさを生んでいる。

エンドクレジット

 エンドクレジットに小ネタを挟むのはいいが、「実は生きてました」という超重要情報まで入れると、テレビ放送のときに支障が生じちゃいますね。マリオ・アルジェント議員はテレビ放送だと死んだままになってしまうw

ネクストイヤーズヒント

 服部とキッド、そして舞台は函館でしょうか。ローテーションが続くなら大倉脚本。『から紅』の服部、『紺青』のキッド、と大倉アベンジャーズみたいな話で今から楽しみです。もはや大倉脚本に外れはない、と信頼してるので安心感たっぷり。櫻井回のが好きですが、平均点では大倉回が高いと思ってます。
 そして函館。『紺青』『ハロウィン』に続くリアル地名を生かした内容になる予感もしますね。これまた楽しみ……なんですが、函館って『銀翼』でも出てきたよね。あれもキッドだし、どういうことなんだ。


 終わり。困った、面白すぎる……と謎の感覚に陥った傑作回でした。櫻井コナンのファンとしては嬉しいが、『ドラえもん』ファンとしては悲しい。来年の『ドラえもん』は今井監督がほぼ確定で個人的には負けが濃厚なんだよなぁ。とてもつらい。
 とにかくコナン映画は盤石の状態に入ったと言えそうですね。調子が良すぎてもはや怖くなってくる。このレベルのエンタメ大作が毎年公開されるとかマジで信じられない。『ワイスピ』が毎年公開するようなもんですよ。

gohomeclub.hatenablog.com
gohomeclub.hatenablog.com

 数える際の指の立て方がキッカケで正体がバレる、というのは『イングロリアス・バスターズ』でもやってた。あそこ良い場面だったよね。