動機
ひたすら私怨で動いてた1作目はいいんですが、個人的に『デッドプール2』は「急に良い子になってどうした?」という印象が強い。恋人の死とか、父親になる覚悟と不安、そこで出会った極悪クソガキという要素としては分かるんだけど、ちょっと急だったというか、オープニングの『007』パロディに爆笑してたのに「あっ マジで落ち込む話なのね……」ってなった。ギャグとシリアスの連結が私の中でうまく行かなかったというか。あと2作目でいきなりヒロイン殺す話あまり好きじゃないのよ。なのでエンドクレジット以降で大暴れしてくれて良かった。あれですべて盛り返した印象。……基本的には『2』も好きですよ。
んで、本作。本作も世界を救うヒーローになる話なのだが、ここの動機付けがとても良かった。ヒロインにフられ、中年の危機に陥り、アベンジャーズにも入れず、それでも友人に囲まれ幸せな日々を暮らしてたときに訪れるTVA。そこで告げられる世界の崩壊。手元にはみんなとの写真。そりゃ頑張るでしょ。俺ちゃん頑張って世界救おうとするよ。納得であった。ここで再びやる気を出した俺ちゃんがマルチバースに繰り出して大暴れ、と感情の盛り上がりとギャグ(やアクション)の盛り上がりが一致してるのも良い。
そしてその「世界を救う」がいろんな作品の「世界」へと拡張していく物語構造になってるのがマジでお見事でした。
ジーザスと神
個人的にドラマシリーズ『ロキ』が大好きでして、なので本作にTVAが出てきたのがすごく嬉しい。もちろんMCUへの越境として設定が便利だったからというのが大きいだろうけど。
『ロキ』が好きすぎるので、正直俺ちゃんはメビウスと合流して一緒にロキを救う旅に出てほしかったくらいだし、『アベンジャーズ』の5、6作目もロキをどうにかする話にしてほしい。そんなロキの現状。神なんですよね。『ソー』シリーズにおける上位種族的な神ではなく、まじもんの「物語の神」。ほとんど『まどマギ』における最後のまどか、それがロキ(しかしロキはほむらも兼ねる)。
時間とマルチバースを移動し、ジーザスを名乗る俺ちゃんと、文字通りの神であるロキ。ロキは当然本作には登場しないんですが、俺ちゃんの大暴れもロキは見守ってくれてるんだ……という感慨に浸れます(MCU全作)。
俺ちゃんはキリストなので下の世界に降りてきて自己犠牲してくれる神の子。ロキと似てるようで、競合してるようで意外と棲み分けができてるし、名前がその通りなので良かった。『ローガン』の墓荒らしよりも「神はロキなんだがぁ??」ってなるので。
ドラマ作品ネタだと、他にK.E.V.I.N.という神と呼びたくなる存在もいるけど、まぁそれはそれだ。本作でケヴィン・ファイギネタがなかったのはひょっとすると『シーハルク』に気を使ったのかもしれない。
虚無
『ロキ』で生まれた設定ですが、この扱いがめちゃくちゃうまかった。終了になった映画シリーズの住人たちが送られる地獄。たしかに『ロキ』で語られた設定とも矛盾しないし、それでいて新しい解釈でありながら、俺ちゃんの物語として完璧。本作、MCUの映画作品の中では一番マルチバースをうまく扱えたと思うんですが、勝因は直接越境するのではなく「虚無に集まってる」とした点だと思う。あの虚無へと剪定された人の悲哀、というのがドラマ要素として重要。
スパゲッティ
『ロキ』好きとしては、クライマックスにおける「世界の崩壊」を示すスパゲッティの映像にテンション上がったんですが、思えば『ザ・フラッシュ』でもスパゲッティはマルチバースを象徴させるアイテムになってましたね。宇宙はスパゲッティで出来ている。
無数のサプライズ
火の人がアレを叫んだ瞬間から完全に予想外で、「あっ 負けたわ……」と白旗振ってました。『X-MEN』シリーズでいろんな小ネタを持ってくると身構えてたので、まさかあっちから引っ張ってくるとは。中の人ネタとして、かなり定番だとは思うんだけど、それでも完全に予想外だったから幸せな鑑賞体験です。
あとはエレクトラにもブレイドにもひっくり返ったけど、やはりド級はガンビット(チャニング・テイタム)。元ネタの映画がそもそも存在しないってのは『ザ・フラッシュ』におけるニコラス・ケイジのスーパーマンでもあったけど、本作のガンビットは「生まれたときから虚無で……」と話が続くので泣ける。『チップとデールの大作戦 レスキューレンジャーズ』におけるアグリーソニックが立ち位置としては近いと思うんですが、あれはまだ「あの映画は降板になったけど地道に頑張ってるよ」という感じだったじゃないですか。それに比べるとテイタムガンビットは生まれたときから地獄で本当に泣ける。
そんなガンビット。一応『X-MEN ZERO ウルヴァリン』案件ということで、デッドプール、ウルヴァリンと非常に因縁が深い存在とも言えますね。ここらへんも絶妙なネタだったなぁ。あとは、主演監督が同じ『フリーガイ』案件でもありますね。思えばクリス・エヴァンスも。重要作だ……。
ちなみに、本作に登場したキャラクターたち、ほぼすべては鑑賞済みだったんですが、『エレクトラ』だけ観てなかった。『デアデビル』一作目はそこそこ好きなんだけど、完全に忘れてました。てか何であの2人離婚したんだ……。
エンドクレジットまで忘れてた人たち
ジョシュ・トランク版『ファンタスティックフォー』のみなさん。マジで忘れた。本当にごめん。エンドクレジットとはいえ、ちゃんと拾ってくれてありがとう。ただ、あの映画における最大のスターであり、今見ても普通に華のあるマイケルBジョーダンを持ってくるのは少しずるかったと思う。まぁヒューマントーチネタという意味もあるんだろうけど。
覚えてたけど出なかった人たち
『ニューミュータント』。これもディズニーによる買収の被害者だと思うので、ちょっと救ってあげてほしかった。なぜか『マッドマックス 怒りのデスロード』及び『フュリオサ』ネタが充実してたけど、フュリオサ出せば俺ちゃんも喜んだと思う。
ずっと期待してた人たち
ロキはさておき、『X-MEN』本陣の方々にはもっと出てきてほしかった気がする。それこそ黄色コスチュームで登場したら今回のウルヴァリン的に感動的だし、そうじゃないX-MENでも過去作でハブられ続けてきた俺ちゃんのシリーズ展開として感動的だったと思うんですよね。まぁ、『X-MEN』本シリーズは計7作も作られてるわけでして、おまけに『フューチャー&パスト』で似たような「大人の事情からの救済」ネタはやってるので、避けられたのかな。ただ、本シリーズでも割と不遇続きだったサイクロップスは本作の救済の対象になってもいいのでは……。
あと、キャストが2人ずついてどっちを出しても角が立つ、という別の大人の事情があったのかもしれない。
新登場のウルヴァリン
ヒュー・ジャックマンの演技も素晴らしかったんですが、「チームの誘いを断ったウルヴァリンの末路」という設定が良かった。超良かった。チームを求める俺ちゃんとの呼応という意味でもそうですし、『X-MEN ファーストジェネレーション』で2人の誘いを断ってたウルヴァリン(別人だが)なので、「たしかにこういう未来があっても不思議ではない」という説得力があり、ポッと出の新キャラ(一応)ながら超魅力的でした。コスチュームをチームへの後悔の象徴とし、同時に「ヒーローになる」物語として扱ってて本当にうまい。
ドラッグは禁止
禁止と言及し続けることで回避し続けるネタには笑ったんですが、今になって思うとウルヴァリンは普通に禁煙してるので、何でも自由というわけではないんだよね。コカインよりも葉巻がアウトという判定も不思議なもんだが、葉巻(タバコ)は現物が入手できない状況だった、という言い訳が成立するのかな。
「神聖時間軸」
『ロキ』に出てきたときも「偉そうな名前」という感じだったが、言うてあの主人公のロキは神聖時間軸出身なわけで、神聖ではない時間軸出身の俺ちゃん視点で聞かされる「神聖時間軸」という単語、反吐が出るほどのキモさでしたね。ディズニーによる買収、それに伴った映画シリーズの終了(世界の崩壊)をうまく物語に落とし込んでて本当に素晴らしい。
そして、神聖じゃない時間軸のことを救済してくれる俺ちゃんはマジジーザスだし、ロキはマジ神。
サプライズキャラ登場で話が展開しすぎ
だとは思った。ディズニーによる買収という大人の事情をうまく物語に落とし込んだとは思うが、とはいえ「まさかのキャラ登場でサプライズ!」で次の場面、停滞したらまたサプライズ……と延々続くのはどうかと思った。『アベンジャーズ インフィニティウォー』も似たような連続だったと思うが、あの映画はそれとは別にサノスの石集めというシンプル極まりないストーリーラインが主軸にあるのが見事でしたね。
エレベーターの俺ちゃん
エレベーターのドアが開くと、開脚した俺ちゃんが起きあがる……という予告にあったカット超好きなんですが、本編では違うカットになってて悲しかったぜ。あの開脚、めちゃくちゃ俺ちゃんらしさがあって、映像的な見栄えもしてすげぇ良いと思うんですが、なんでや。メタネタに頼らずとも俺ちゃんという存在を一発で提示してたと思うんですよね……。
虚無での決戦
ブレイドたちが出るだけでなくちゃんと戦ったのは偉いと思うんですが、あの決戦シーンだけ急にカメラがぶれたりして正直ちょっといまいちだった印象もある。ガンビットのトランプさばきには泣きましたが。それはそうと。あと、わちゃわちゃするけど結局主役の2人がカサンドラのところに行くのもちょっと段取り臭かったというか。
そしてカサンドラ。「絶対に勝てない人」という記号すぎて映像としてはあまり面白くなかった。絶対に勝てないキャラとしては、過去の『X-MEN』シリーズにおける(ウルヴァリンにとっての)マグニートーもそうなんですが、そっちは毎回面白かったと思うんですが、カサンドラは何か雑に強いというか、強さ表現が雑だった印象。てか、スーパーパワー描写としてはやはり『X-MEN』本シリーズの方が圧倒的に上だったとは思います。俺ちゃんは結局俺ちゃんの肉体的な要素がアクションの主軸になるので、その兼ね合いもあるのかな。
ただ、カサンドラの「スカルファック」は映像的にめちゃくちゃキモくて最高でした。それがちゃんと終盤ではパラドックスという「強くもないのに憎い奴」に使われるのもスカッとする。
終わり。いろいろ語りたいことはあるけど、とりあえず終わり。この手のファンサービス的な「マルチバース」作品としては大満足だし、それをしっかり物語や作品設定に落とし込んでて超良かった。良すぎてこういうのはもうしばらくいらないかな……という気分にすらなる、というかもう無理じゃない? DCとか『スターウォーズ』とクロスオーバーするしかないのではないか。ただ、もうMCUの世界にはフィクションとしてスーパーマンも『スターウォーズ』も存在してるのでややこしい。