北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『サイボーグ009 太平洋の亡霊』5話の感想

championcross.jp
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 最終回です。素晴らしい作品でした。
gohomeclub.hatenablog.com

ACT.5

 009、002、004の3人で平博士と対峙。アメリカ人煽りで002が早々に気絶……までは原作通りだが、ここからが本作のオリジナル、004オンステージ。アメリカ人が倒れ、敗戦国である日本人とドイツ人が残る。何とも示唆的。さらにそのドイツ人の身体には「忌まわしき爆弾」があると来る。ちょっと元からこの話じゃないのが不思議に思えるくらい見事な改変ですよね。前話の時点で004の存在にめちゃくちゃワクワクしてたわけですが、本話の内容がその期待を越えてくる面白さ。
 ファン的にはね、004が原爆ちらつかせて自爆宣言するのとか割と定番ではあるんですが、そもそも定番のように何度も扱ってきたことに問題がある……とはまでは言わないまでも、改良する余地はあったのではないか。そんなことまで考えてしまう今回の004。当たり前ですが『太平洋の亡霊』はとにかく原爆の意味が重く、さらには004の自爆は「特攻」と言い換えることも可能なのがまた……。
 そんな004に対して002が “オレの国のためにキミを犠牲にするわけにはいかない!!” と駆け寄るのもゼロゼロナンバー同士の友情が感じられて良い。本作の002はとにかく情に厚い(罪の意識も感じる)。しかし004の一喝で彼を掴む手からチカラが抜けてしまう。002の葛藤が非常に味わい深いんですが、ここで002に対して004が一勝したことが今後の009の出番に向けたフリとしても機能してくる。
 そして、その004がここまで感情的になってる理由の一つとして、平博士の息子が絡んでくるのも最高。話としては尺の関係で割とサクサクと平博士が自壊していくことになるんですが、本作の004周りの改変だと、その布石として004の語りが利いてくる。いや本当にすごい。最初からこういう話だったとした思えない(何度目だ)。
 そんな004を止めようとする009。そこに本作冒頭(初回)、ゼロ戦を撃てなかった009という場面がかかってくる。初読時はただアクションシーンだから尺を増やしただけだと思ってましたが、ちゃんとクライマックスに関わってくる重要な場面だったのですね。結局009は004を止めるのですが、そこにサイボーグという基本中の基本設定を絡めてくるのも良い。
 002と004が退場。 “次はなにを見せてくれるのかな…” と挑発する平博士に対して “なにもないさ…” と答えるのはミュートス編の「あとは勇気だけだ」オマージュ。ここらへんは本家の新作ではなく、次世代作家による二次創作らしいファンサービス。と同時に作り手自身のファン心も感じられるかも。平博士が補足的に「勇気」について言及してくれるのとか丁寧でニコニコしちゃいます。

 平博士の語り。観たことなくても存在くらいは知ってる憲法9条の有名な場面に繋がるんですが、これが敗戦後の日本が掲げた慰霊の宣言として紹介されてるのが感動的。奇しくも……というか完全に計算でしょうが、タイムリーなタイミング(8月)でのチャンピオンクロスでの公開、かつ単行本の発売。さらに言うと2024年は長崎の平和祈念式典でガザへの虐殺を続けるイスラエルに対する処遇を巡ってある種の政治問題化した件もめちゃくちゃ刺さってくる。原爆ドームの上を戦闘機が飛ぶコマの持つ象徴性がちょっとあり得ないほど強く感じます。
 何話か前の感想で『ゴジラ-1.0』との類似みたいな話しましたが、あの映画は戦争についてちょっと被害者の立場に徹しすぎてるきらいがあると思うんですよ。一方『太平洋亡霊』での平和憲法の場面は徹底して加害性についての反省になってるのが素晴らしい。まぁ憲法って日本政府を縛るためのものなので当たり前っちゃ当たり前なんですが。今見てもフレッシュな輝きを放つ……というよりは「最近被害者語りが多すぎて忘れがちじゃない?」とハッとさせられる場面でした。
 からの003登場。前回結構唐突な退場をしたのでここで戻ってくるのがちょっと不自然でもあるんですが、おそらく先ほどの場面で009、002、004のスリーショットをやりたかったんだと思います。そして、ここからのクライマックスで009と003の2人を配置しておきたかったのでしょう。002がただ気絶してるのではなく、004を連れて出て行った、というのも大事そう。
 平博士が息子を幻視することになるんですが、そこで “アタシの目でもなにもみえないわ” と003に言わせたのも良い。ただ、無い物ねだりにはなりますが、003再登場のタイミングの関係で、平博士が新たにゼロ戦を甦らせる際に003が顔をおおう場面がなくなってしまったのは少し残念ではある。すべてを見通す003が目を塞ぐというのがなかなか良い場面なので。まぁこれはアニメ版の無料公開を楽しみに待ちます。
 009の説得。原作通りのくだりも感動的なんですが、本作ではそこにサイボーグ兵士(戦士ではなく兵士)としての境遇を特攻隊に重ねる語りが加わっててこれまた白眉。先ほどの004の特攻でも描かれた通りですね。さらにサンフランシスコの新たな被害者の声ではなく、009が直接 “息子さんの声に耳を傾けてくれ” と問いかけることで、平博士による息子召喚という展開にちょっとだけ009の戦略のようなものも感じられるようになる。先ほど書いたように003が “アタシの目でもなにもみえないわ” となるのですが、それを受ける009の表情は動揺の困惑ではなく、平博士が何を見てるのかハッキリと分かっているようでもある。
 息子の登場、そしてそれに伴う平博士の自壊は彼の持つ超能力の暴走であり、彼の自責の念の現れだと思うし、その点においては原作も本作も同じだと思うのですが、本作だとその暴走を009が誘発したようなニュアンスが多くなってると思います。ただの説得では終わらない009のちょっとした戦略性、1%の可能性に賭けたかのような一手がかなり面白い。尺を伸ばせるからこその改変ですね。というか、そもそもテレビアニメのたった1話でやるにはちょっとボリューミーすぎると思えてしまう……のは時代のギャップもあるのかもしれません。
 息子に導かれるように平博士が去る。003のスピーディーすぎる死亡確認が面白かったんですが、ここでの死亡確認は「聞く」。そして直後、後悔の念を抱える009を励ますように告げる “平博士の表情を見て…” と今後は「見る」に繋がるのが地味に良い。原作、本作共にクライマックスにおいて003が何か具体的な活躍をするわけではないんですが、この最後の「聞く」と「見る」は003が隣にいてくれて良かったなぁ、と強く感じる良い場面。


 ということで終わり。めちゃくちゃ良かった。元のアニメ未見の状態なので元の作品の良さを堪能できたという側面もありますが、チャンピオンRED付録の台本と見比べながら、改変部を味わっていくと本作の丁寧かつ真摯な姿勢が強く感じられ、改良だったと確信できます。特に後半、クライマックスに004が参加してからの細やかな改変、及び場面や描写の増量がとにかく的確。序盤から面白かったですけど、今回わざわざリメイクした意義はここにあったのだな、とページをめくりながら強く感じました。
 マジで超良かったです。全方位的にありがとうございます。という気持ちと共にアニメ版無料公開を待ちたいと思います。そして単行本もすぐに発売!!(早すぎですごい)