そんな『絵世界物語』なんですが、驚くほどに良くてですね、「ひょっとして八鍬も越えて歴代ベストじゃね……?」と軽く困惑してます。どこを偏愛するかにもよるのですが、少なくともドラ映画としての出来、完成度という意味では歴代最高だったと言えるんじゃないかしら。恐ろしいまでの傑作。
とにかく脚本が良い
『ひみつ道具博物館』以来の寺本監督ということで楽しみにしてたんですが、本作で一番感動したのは脚本。マジでめちゃくちゃ良く出来てる。伊藤公志。注目してなくてごめんよ……。
クレアの風呂嫌いが絵の住人であることの伏線なんですが、それを風呂嫌いを信じられないしずかのギャグでカモフラージュするのとか最高でしたよね。そして、「『不思議の国のアリス』ちゃんかな?」のくだりは露骨に「はいここテストに出まーす!」というくらい強調されてたし、あとから振り返ったりもしたんですが、風呂のくだりは特に答え合わせもないまま終わってるのがスマート。気づかなかったら別に何の違和感もなく過ぎていくし、気がつく人だけあとでニヤつく。それでいて、名探偵しずかの推理ショーのくだりで風呂の件をリマインドされるので、自然と「あのときの風呂嫌いってそういうことか」となりやすい。丁寧に導線が引かれてる。あとはクレアが流しそうめんを避けてたのも同様ですかね。飲食もダメだとさすがにバレそうな気もするのでここらへんを追求するのは悪手かもしれませんが。
オチを知った上で振り返ると、パルがマイロの将来を買っていたのも未来人だからですね。迂闊すぎるぞ、タイムパトロール。
伏線みたいな分かりやすい良さもあるんですが、話の展開をスムーズに飲み込みませるために必要な説明を事前に済ます、というのもとても良かった。迷いの森の端で「作者の想像力の限界」というはいりこみライトの機能の詳細を詰めるような話が出てきましたけど、それを踏まえて考えると、絵のクレアがどれほどの愛情を注がれて描かれたものかが伝わってきますよね。そしてクライマックスの「へたっぴドラ」にも同様のことが言えて、笑えるキャラだけど同時にめちゃくちゃ泣ける。ラストのパパ評もそうですが、あのへたっぴドラに感動できるところが本作の物語の核心だったと思います。
映画では定番ののび太の夜間頻尿(ゲストとのサシトーク)ですが、あそこで絵の具作りを描いたのもラストの水溶性に向けたフリとして丁寧だったと思います。直接「クレヨンと違って水に弱いんだけどね」みたいなセリフはないけど、あの作り方を見たら、自然と、何となくイメージできるようになってる。とにかく事前の、説明臭くないさりげない説明が絶妙で、そのおかげで終盤の展開がスムーズに飲み込めて、テンションがどんどん上がっていたのだと思います。ほとんど怪獣映画みたいになってるのも良かったですよね。
とにかく脚本が屈指の良さだったと思うんですが、これがゲスト脚本家みたいな人ではなく、長年『ドラえもん』に携わってる伊藤公志の初映画、というところもすごく良い。単純に良い話というのもあるし、今後の活躍も期待できそうなのが嬉しい。川村元気はもう来なくてええんやで(あの2作は苦手)。
子供向けと大人向け
先ほどの伏線の話もそうなんですが、子供でも分かるようにしっかり説明する伏線と、気がついた人だけがニヤつく大人向けの伏線。この子供向けと大人向けのバランスがめちゃくちゃ良かった。個人的に『ドラえもん』が大人向けに傾きすぎるのはあまり好きじゃないんですが(『宝島』の親視点とか嫌い)、本作はどちらとしてもおいしい。
先日『ひみつ道具博物館』を観たときにも感じたんですが、寺本作品は子供向けギャグ、それこそズッコケとか変顔が多いのが良いですよね。あとは、『新鉄人兵団』も思わせる「絵の中に入ったら天地が逆」という場面における、ジャイアンキャッチの天丼、からの頭から飛び込んだクレアのオチ。映像とリズムが本当に気持ちよくて好きです。ああいうのが当たり前にポンポンと出てくるから強い。
大人向けで分かりやすいネタとしては、やはり『T・Pぼん』のタイムボートでしょうか。『ぼん』ネタは『新日本誕生』にもあって、あれは一部のガチ勢から「仕事内容が違うだろ」と怒られがちだと思うんですが、本作はかなり良かったんじゃない? デザインの違いとか突っかかる余地はあるかもしれませんが。とにかく、そんなタイムボートを使ってしっかりアクションまでするので個人的に大興奮でした。去年はネットフリックスで『ぼん』がアニメ化されたので、その影響もあるんですかね。怪しい大人が実はタイムパトロール、というのは『新恐竜』のキムタクも同じなんですが、あの何倍もビックリしたし、心躍りました。てか、『新恐竜』ではチェックカードが『ぼん』ネタでしたね。『ぼん』ネタを入れたがる歴史もあるのか。
ゲスト少女
去年の『地球交響楽』のミッカは予想を遙かに越える魅力で、何ならあの映画で一番好きな要素というのまであったんですが、今年のクレアも良かった……。のび太から見て年下の少女というのは同様ですが、年下であることにドラマがあり、さらにはゲスト少年とのラブコメ、それも時空すれ違いラブコメが描かれたのが超良かった。『君の名は』より好きです。最後に我々が本編で見てきたミッカそのものがマイロの愛の結晶だった、と分かるのが本当に最高ですよね。へたっぴドラも布石として利いてるというか、あれのプロ版。
前述ののび太の夜間頻尿。クレアじゃなかったのは意外なんですが、あれもよく考えたらクレアは作り物だからですね。心の交流という意味ではやはり生身の人間が勝るというか、あの場面でマイロが語ったことの物理的証拠があのクレアだった、というわけで。
絵世界
予告が出た時点で『スパイダーバース』だと思ってたんですが、マジでそうでした。それぞれの世界が、それぞれの画風を反映した絵になってて目が楽しすぎる。オープニングであちこち回るのも手数が多くて最高……というか、「夢をかなえてドラえもん」復活が熱すぎる。やはり寺本監督は信頼できるぜ。
そんなオープニング。あれこれ名画の世界を回るのも楽しすぎるんですが、ぶっちゃけ観客の多くが行ってみたい絵の世界って漫画だと思うんですよ。『ドラえもん』が好きなので。そんな漫画の世界が最後に出てきて、ドラえもんたちが漫画から飛び出て、画面に向かってはいりこみライトを照射。良すぎる。完璧なオープニング……。
本編でも冒険の始まりである「迷いの森」の絵の世界、背景が筆のタッチを感じられるようになっててマジで感動しました。問題としては、すぐに絵世界から出てしまう点。あれを全編やるのは大変すぎたという大人の事情もあるのでは……とか余計なことも考えちゃう。ちなみに同時期に公開中の『野生の島のロズ』はあれを全編やってる作品と言えそうなのでオススメです。
まぁ、私のベスト候補である『月面探査記』もクライマックスは月じゃなくてカグヤ星でしたので、「タイトル嘘やないかい!」というのはご愛敬。
とはいえ、本当の舞台が「13世紀のヨーロッパに実在していたかもしれない未知の国」というのは歴史ロマンに溢れてて超好きな設定でした。発見されてないポンペイ、みたいなイメージですかね。
歴史的大敗
クライマックスがめちゃくちゃ楽しかったんですが、負けっぷりがかなり容赦なくてビビりました。のび太とマイロ以外全員死亡(仮)。まぁ、『ドラえもん』で「仲間をかばって死ぬ」みたいな描写はあまり好きじゃない気持ちもあるんですが、その疑似的な死を「色を失う」で描写したのはとても良かった。寺本監督だと『新魔界大冒険』の石像を思い出したりもしますが、絵に魂を宿らせるのがアニメーションだとしたら、その絵から魂が抜けたと感じられる描写としての白く動かなくなったキャラ。シンプルながら効果的だったと思います。とても怖い。
ものすごくキレイな「やったか……?(やってない)」があったのも楽しかったんですが、その後ドラえもんが色奪い光線をひらりマントで防御……のはずが乱反射してしまい世界のすべてから色が失われる。映画では頼りになるひらりマントの新しい使い方としてフレッシュでしたし、命辛々防御した次の瞬間、世界の終わりを目の当たりにする、というインパクトが素晴らしかったです。
そこからの逆転のくだりも良かったのは前述の通りですが、ドラえもんが失敗に終わったモーゼステッキ作戦を水路として再利用するアイディアも見事すぎて唸りました。まぁ、謎の発光で何の道具を出したのか隠す演出はちょっとやりすぎだと思いますが……(バラエティ番組みたい)。あそこは「のび太の絵が下手なので見ても何の道具か分からない」くらいの扱いでも成立した気がします。
歴代の映画でも『緑の巨人伝』とか『新恐竜』の世界の終わりを見せつけられる場面はものすごく好きなので、本作でもそれが見れて本当に良かったです。ちなみに、世界の終わり描写が好きなだけであって、この2本はあまり好きな作品とは言えないです……(しつこい)。
あいみょん
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ぶっちゃけ主題歌は毎年良いし、どのアーティストもドラえもんネタの入れ方とかうまくて感心するんですが、今年は2曲もあって、2曲ともすごく良い。正直なところ、普段あいみょんとか全然聴かないのですが、『窓ぎわのトットちゃん』の主題歌には爆泣きさせられたので信頼しかない。強い。八鍬監督と寺本監督を網羅してるの強すぎる……。
ざっくりとした印象として、挿入歌の方は『ドラえもん』総論、主題歌は『絵世界物語』の各論、というイメージ。挿入歌は「夢をかなえてドラえもん」に対するドラからのアンサーとも取れる視点になっててすごく好きです。帰ってから曲をすべて聴いたり歌詞を見たりするとひみつ道具ネタが豊富で楽しい。そんな挿入歌が、映画ではお馴染みの城作りの場面のモンタージュに使われてたのも本当にぴったり。完成した城を提供するのではなく、子供たちに作らせる、というのが味噌ですよね。それこそ「夢をかなえてドラえもん」に出てくる「(夢を)かなえさせてね」のイズム。そんな「夢をかなえてドラえもん」が久しぶりに復活したのも最高でしたね……(しつこい)。去年の『地球交響楽』に一節だけメロディが出たのにも感動しましたが、その後すぐに「普通にオープニングで流してくれればよくない?」となったので。
あいみょんの挿入歌。『ドラえもん』総論として良かったと書いたんですが、総論として優れていると困るのは星野源パターンで今後テレビシリーズのオープニングに起用される可能性。その兼ね合いで「夢をかなえてドラえもん」が映画で使いにくくなるのパターン。それは勘弁してくれよ……。
主題歌。『絵世界物語』各論というイメージでこれまた良かったんですが、サビの激エモなくだりに「あたたかい目」ネタがあるので笑いました。わさドラ初期にやたら擦られてた鉄板ギャグ。一応原作にもあるネタですが、きっとわさドラのイメージなんでしょうね。などと思って調べてみたら、わさドラが始まった2005年、あいみょんはちょうど10歳で、のび太らへんの年齢でした。懐古老人のスイッチが入りそうで怖い。
魔女っ子しずちゃん
本作、しずかの活躍には目を見張るものがありました。寺本監督の映画だと『新魔界大冒険』と『新鉄人兵団』でもしずかは非常においしい役なのですが、あれはあくまでも「女の子」としての役割だったじゃないですか。本作だとそういうのを乗り越えて「ただ単に超有能」という域に達してるので末恐ろしい。というか、超活躍はするものの物語の本筋に大きく関わるかというとそんなこともないんですよね。とにかく「しずかにスペアポケットを預けときゃ間違いない」という有能ぶり。言われてみればたしかに、あの4人の中だと一番頭も良いだろうし、今までそういう活躍が少なかったのが意外ですね。よく「出木杉が旅に同行したらイージーモドすぎて映画にならない」みたいなファンセオリーが語られがちですが、今回のシズシズホイ無双にはそれにも近い頼もしさを感じました。ヘビースモーカーズフォレスト!!(とりあえず言っておきたい出木杉の代表作)
というか、スペアポケット自体がわさドラ映画では珍しかったんじゃないですかね。詳細な記憶はないのでイメージですが、のぶドラだとかなりの頻度でスペアポケットが出てきて、軽くインフレも感じる。今回の魔女っ子しずちゃんパートは「のび太より頼りになる人に預ける」という別方向のインフレの予感。今後もしずかとスペアポケットの出番に注目していきたいと思います。
アートリアブルーに輝く湖
にアートリアブルーの鉱石が隠されてるのは当たり前というか、だから光り輝いてただけじゃないの……? 論理的に筋が通ってると見るべきなのかもしれないけど、逆さまな気がする。
とはいえ、モーゼステッキで水を割ったら底からお宝が現れる、という絵面にはロマンを感じて好きです。
おまけ映像
つまりは来年の映画。監督は矢嶋哲生(おまけ映像のクレジットの左上が監督という通例)。『ドラえもん』の映画は初で、よそだと『ポケットモンスター ココ』をやってて結構評判が良さそう。さっきツイート検索したら、ポケモンファンの人が「矢嶋監督の新作まだ?」みたいなこと書いてて少し申し訳ない気持ちになりました。とはいえ、かなり期待できそうなので何より。今度『ココ』も観てみようと思います。
追記(2025/03/10 21:04:矢嶋哲生の映画監督作として『ポケットモンスター みんなの物語』が抜けてました。申し訳ない。そちらも来年までの宿題にしたいと思います。
ちなみに、内容は海。初監督だとリメイクで様子見するイメージも強いので、「いつまで経ってもなぜかリメイクされない」でお馴染みの『海底鬼岩城』が怪しいんですが、おまけ映像ってもっと露骨に見せてくれるイメージなので、素直にバギーちゃんとか見せると思うんですよね。だとするとオリジナルですかね。つまり、「映画ドラえもん のび太の海物語」でゲストはマリンちゃんとサムで決まり。
真面目に考えると、「メインテーマは露骨に見せてくれる」の法則を信じるならば、海洋生物あたりでしょうか。『ドラえもん』がサメ映画に参戦する確率も高そう。わさドラ映画20作目の節目なので(今年も節目でしたが)、少し新しい挑戦をするタイプの作品になるかもしれません。
去年の予想で『夢幻三剣士』リメイク説を信じかけてしまったので、今年こそはおまけ映像の内容をそのまま信じようと思います。『海底鬼岩城』ではない。
終わり。結局歴代ベストは『月面探査記』なのか『絵世界物語』なのかの結論が出てないんですが、トータルのベストは『絵世界』で、ベストシーンは『月面』の気球での出発、偏愛キャラはルカくん、ということで。
少なくとも私の中で『ひみつ道具博物館』は越えました。のびドラの観点でも本作のへたっぴドラで勝てる。というか、好きの度合いでいったら『博物館』より『新鉄人兵団』のが好きなんですよね……。プロットホールみたいな落ち度は多いと思うので出来でいったら断然『博物館』ですが。そんな出来で『絵世界』は圧倒してきた、という話。欲を言うならば、寺本監督&伊藤脚本コンビでまた新作が観たいです。
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