ジブリの新作。ジブリブランド自体に対しては別に思い入れもないのですが、観ました。
ジブリの前作『アリエッティ』は嫌いです。出来不出来とは別にとても嫌いな作品。
宮崎吾郎の前作『ゲド戦記』は世間が嫌い嫌い言うからなんとなく擁護したくなっちゃってた。実際は特に記憶に残らない作品でした。
タイトルに「の」を入れない、さらにはメインのキャストを変えないあたり、宮崎吾郎は意地を張っていると思われます。
あらすじ
東京オリンピックの直前
港町
父を亡くした主人公は学園のアイドルに恋をする
うまくいったと思ったら、兄妹であることが発覚
兄妹に関しては、ネタバレなんじゃないかと思ったんだけど、よく考えたら予告でやってました。劇中の言葉を借りるなら「安いメロドラマ」のようなあらすじですね。結局はそこがメインだもんね。
ジブリでメロドラマというと、『耳をすませば』あたりがあるんですが、まぁ、本作も似た甘酸系ですね。今年に関して言えば、『スーパーエイト』という甘酸映画があったので、本作の印象は弱いです。同じ懐古主義なら断然『スーパーエイト』です。
本作は実にジブリらしいオープニングで始まる。主人公が1人早起きして、てきぱきと朝食の準備をする。ジブリメシが炸裂。しかも、メニューは伝家の宝刀ハムエッグ。鉄板ですな。
そして、部屋に慌ただしく人が集まってきて、ワイワイガヤガヤとした朝食シーンへ。このオープニングは見事ですね。グッと心を持っていかれる。主人公の良い子ちゃんぶりも説明され、本作のキーとなる「旗を揚げる」行為も描かれ、意味深く魅力的なシーン。
そんなオープニングで現れるキャラクターは、みんな女。『ゲド戦記』と同じく本作は「父親」というのが非常に重要な要素で、当然監督自身を反映してるのだと思う。なのだとしたら、主人公が女なのはおもしろいですね。どんな心境なのだろうか。
女だらけなので、好きな女性キャラは1人くらいいるんじゃねぇの?というアイドルグループみたいな作り。個人的に、アリエッティーはジブリの歴史の中でもトップクラスのヒロインだと思っているので、それと比べると本作はちょっと弱かった。強いて挙げるなら妹ですかね。主人公は良い子ちゃんすぎてちょっと。
んで恋愛。主人公が恋するお相手というのが、学園でもファンクラブができるようなイケメンくん。原作は
少女マンガらしいですが、少女マンガって好きだねぇ、学園のアイドルと付き合う話(←偏見)。
彼は新聞部の部長。彼のファンである妹に連れられて、主人公は新聞部に訪れる。そこで、主人公にホレてる男は照れてうまく話せない。そこで、「んっ!」と席を譲る。・・・・『となりトトロ』かよ!!という名シーン。良い子ちゃんな姉が主人公、自由な妹、そして「んっ!」という男、というのは実に『トトロ』的である。『トトロ』の後日談として観たら楽しめるんじゃないだろうか。(まぁ、そうすると父親の存在がヘンなことになる)
そんな男と仲良くなっていく主人公。すべてがうまくいく2人。
中には、チャリを2人乗りして坂を下るという鉄板甘酸シーンもあってよろしい。
・・・が、ある日を境に彼が主人公に対して距離を取るようになる。2人が兄妹であることを彼が知ってしまうんですね。
んで、こっからネタバレなんですが。
主人公は男への想いを諦められずに告白するんですね。偶然、2人きりになった時に。「兄妹だとしても・・・・・・好きなの!!」って。すると、後ろからバスが走ってきて、主人公に後光が射す。ここが、すごくイイんですね。キレイで、主人公の感情が爆発してて。そしたら、男の方も「・・・・俺も好きだ」 なんて言っちゃって。甘酸っぺぇーーっ。
兄妹とか、血の繋がりとか関係ないんですね。好きなんですよ。その気持ちがすべてを超越しちゃってる。たまらんね。
・・・なんだけど。この件は実にガッカリな結末を迎える。
物語は、2人が兄妹でないことについて追求し出す。
余計なお世話なんですよ。「兄妹だろうと関係ない」って結論を主人公たちは出してるんだから。
主人公は母に尋ねる。男の父親について。
父親が戦争から帰ってくると知らない男の子を連れて帰ってきた。父曰く、死んだ仲間の子供で、かわいそうだから戸籍を自分に移し、自分の子供として育てる。しかし、貧乏だった夫婦は、子供を知り合いに預けた。
ここで、母親は父親に対して深く問い詰めないんですよね。「ホントはどこぞの女に子供産ませたんでしょ!!」とか言ってもおかしくないのに。けど、言わない。信頼してるから。そして、それを聞いた主人公は安心する。兄妹でないと。主人公も、母を、そして父のことを信頼しているから。
ものすごくキレイな話じゃないですか。真実は闇の中ながら、主人公の中ではハッキリする。それでいいじゃないですか。
ところが、物語はまだ真実をハッキリさせようとするんですね。急に知らないオッサンが出てきて「君たちは兄妹じゃないんだよ」って教えてくれる。えっ、これいる? いいじゃん。主人公は「兄妹だとしても・・・・・・好きなの!!」って結論を出してるんだから。苦難を乗り越えた恋だから映画観てて盛り上がるんじゃん。それがさ、最後の最後に「困難なんてなかったんだよ〜ん」って言われても・・・・・・。ガッカリ。
本作における恋愛と同じくらいの扱いとして「カルチェラタン」という建物がある。
学校の文化系の部活用の建物なんだけど。この建物、そしてこの建物の住人がすごく魅力的。本作には、運動系の部活やってる人もチラリとは映るんだけど、実にどーでもいい扱い。普通、逆だよね。メインは運動系。なんだけど、文化系の部活の人たちはこの「カルチェラタン」という建物の中で輝きを放つ。まぁ、簡単に言うと、文化系オタクの巣窟なんですよ。主人公が妹に連れられて、初めて「カルチェラタン」に訪れるシーンがとても魅力的。次々とジャンルの違うオタクが出てくるんですね。そして主人公は引いてしまう。
そして、その後、「カルチェラタン」存続のために学校中の女子を集めて大掃除が行われる。ここで、「カルチェラタン」に、その中のオタクたちに初めて女子の注目が集まるんですね。ここでのオタクたちのぎこちなさがたまらない。急にモテちゃってどうしていいかわからない、っていう。
ワタクシはね、万年帰宅部だったせいか、「部活に熱狂する人たち」描写に弱いんですよ。アコガレがあるのかもしれない。運動系だと縁がなさすぎて完全にフィクションとして見ちゃうんだけど。
それだけ魅力的な「カルチェラタン」なんだけど、気に入らない点がある。「カルチェラタン」のトップに君臨する生徒会長とその連れである新聞部部長ってのがイケメンなんだよね。学校中の女子が羨望の目を送るような2人。そんな2人が集めた女子がオタクたちに群がる、って描写がなんか素直に喜べなくて・・・・・。イケメンなのはまだしも、学園のアイドルである必要はないと思うんですよ。そんなトコで引っかかってしまったんで、魅力的な「カルチェラタン」も手放しでは楽しめない。
あと、気になった点としては、
・主人公の名前は海なんだけど、仲のいい人からは「メル」って呼ばれてる。ここになんの説明もなくて名前が2つあって混乱する。ウィキペディアを読んでみたら、海はフランス語で「ラ メール」だから「メル」があだ名になったらしいんですが・・・・・・・・・・知らんがな!!! わからねぇよ!!!!
・てか、「コクリコ坂」ってなに!!?
一度もそんな言葉出てこなかったんですけど! 『手塚治虫のブッダ 赤い砂漠よ! 美しく』における「赤い砂漠」級に謎すぎるタイトル。
・生徒会長がテライケメン。
ちょっとありえないくらいに男前なんですね。キザでさ、それがことごとく決まってて。主人公が生徒会長にホレないのが超謎。また、この生徒会長が「アイツのことが好きなんだろ、俺が背中押してやるよ」っていう恋愛モノの定番ポジションでそれがまたカッコよくて。おかげで主人公のカレの魅力が埋もれちゃったよ。
・「愛し合う2人だが、実は兄妹」って困難だけど、『崖の上のポニョ』に比べたら屁でもないよ。ガキンチョの2人がアッサリと乗り越えてたよ。
総合的には結構好きでしたよ。が、結構好きな要素はあるんだけど、その要素には必ずガッカリが潜んでいるという残念クオリティー。まぁ、残念だけど嫌いにはなれない作品でした。
70点。
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