映画『ウソから始まる恋と仕事の成功術』を観ました。劇場未公開作ですね。
映画評論家の町山智浩が推してた作品ということで有名なのではないでしょうか。
観る気を失せさせる素晴らしい邦題と違って原題は『The Invention of Lying』とシンプル。「ウソの発明」という意味ですね。
あらすじ
ウソのない世界
ブサイクな主人公はモテない
仕事も失い、金もない
そんな中、ひょんなことから人類で初めてウソを発明する
本当でないことを口にするだけで世界を自由自在に操れるようになるのだが・・・・
「ウソのない世界」というよりは「ウソという概念のない世界」という方が正しい。たしか劇中でも「ウソ」という単語は出てこなかったんじゃないかな。主人公が人に説明する時も「本当でないこと」としか言わない。
ウソのない世界だからコカコーラのCMで「健康に害しかないけど有名だから飲んで下さい」って言ってたりしてる。ペプシに至っては、「コカコーラがない時に是非!」という始末。また、この映画の中では「ウソだろ?」とか「マジで?」という言葉も一切ない。「ウソがない世界」という設定がシンプルながら掘り下げが見事なので、前半部は笑いの連続になってます。
その後、主人公は「本当でないこと」を口にすることを覚える。初めての「ウソの発明」。すると、主人公は銀行でウソの残高を言って小金を引き出したりしてる。「ウソ」という概念のない世界だから、人の言葉を疑うという発想がないから誰も文句を言わない。自分の言ったことを誰もが信じる。世界を自由自在に操れるようになり、主人公はちょっとした神様気分。
すると、自殺願望を持つ青年に出会う。仕事もなく、ブサイクで人から嫌われている青年。それまでは自らも煙たがっていたのだがここでとある発明を思いつく。
「大丈夫、今にきっと良いことが起こる」
それを聞いた自殺願望の青年は驚愕。「僕はこれから幸せになれるのか? こんな僕でも?」 と生きる希望を見いだした青年は救われる。根拠はない、ただのデタラメに過ぎない主人公の「本当でないこと」によって1人の命が救われた。そして、「今にきっと良いことが起こる」という魔法の言葉を武器に主人公は、町を歩いて回る。不幸せな人を見かける度に魔法の言葉を投げかけ、人々を救っていく。主人公が通ると、人々は幸せに満たされ、浮かない顔は輝き出す。主人公はますます神々しさを増していく。
主演で監督も兼ねてるリッキー ジャーヴェイスは毒舌のコメディアンと有名な人。こないだのゴールデングローブ賞受賞式で司会を務めるも、賞の八百長疑惑に触れることをしゃべって話題になったような人。
本作の中でも毒は利いていて、観ていてドキッとするようなシーンがいくつかあります。
オープニングからしてスゴイ。映画って始まったらオープニングクレジットが流れるじゃないですか。製作会社とかの名前が流れるんだけど、画面にクレジットが流れ始めると、ナレーション。
「クレジットが流れてるけど、こんなの誰も見てないだろ? 「お金出すから名前出して〜」って言われたから出してるだけなんだ」
とか言い出す。いきなりメタ視点ぶっこんでくる。一応、「ウソのない世界」という設定に基づいてる、という逃げ道まで完備。
映画が中盤に差し掛かると、ドキッとする表現がピークを迎える。この「ウソのない世界」には宗教が存在しないんですよね。誰も死後の世界について知らない。まぁ、つまり、宗教、神様、死後の世界について語ってる人はウソだということですね。ワタクシは日本人で、特定の神様を信仰してるワケではないんだけど、それでも充分ハラハラする。
主人公の母親は病気持ち。ある日、医者に今晩がヤマだと告げられる。主人公は心配して、母に話しかけると母は恐怖に震えている。
「永遠の無の世界に行ってしまうのよ。すべてを失い、誰にも会えない」
死後の世界を誰も知らない世界では、「死=永遠の無」なのである。なんだか『デスノート』じみてきたな。
そこで、主人公は大発明を思いつく。現実世界の人間史においておそらく最大の「ウソ」の1つ。
「母さん、聞いてくれ。死んだら人は永遠の無になんてならない。死んだら、好きなとこに住み、好きなものを食べ、好きな人と会い、永遠に幸せに暮らすんだよ」
それを聞き、信じた母は安らかな顔で生を終える。母との別れに主人公が涙していると、医者たちが現れ、「い、今の話は本当か・・・・・!? 死んでも永遠の無にはならないのか?」と聞く。ここでの医者(ジェイソン ベイトマン)があまりにのんきな顔をしていて笑える。
そして、世界中の注目を得ることになった主人公。人類史上初めて死後の世界について知る人間になってしまった。
死後の世界について聞かれる主人公は、空の上にはすべてを見通す人がいて、その人がすべてを管理している、と答える。こうして、世界に「空の上の人」という全知全能の存在が生まれる。世界で唯一主人公だけが「空の上の人」の言葉を聞くことができ、死んだ後幸せになりたかったら、生前に善行を重ねなさいと説く。
ちなみに、このシーンで主人公は人々の質問責めにあい、説明するするだけで数時間要する。「ウソのない世界」の住人は抽象的な表現を嫌い、具体的な表現を好むから。現実世界のお説教とかで聞くような抽象的な説明では、人々は納得せず、その度に主人公は即興の設定を加えていく。宗教史が早回しで再現されるようなこのシーンはかなり笑える。それと同時に、これをアメリカで普通に公開していたと思うとハラハラする。コメディーを観て笑いに来た敬虔なクリスチャンの人もいただろうよ。
こうして、法王のような存在になった主人公は金も名誉も得る。しかし生活は堕落していって、うちの中で毎日ゴロゴロ。ヒゲは伸び放題、髪も伸びきってボサボサ。その姿はまるでイエス様そのもの・・・・・・・・・ってオイ!!!
この後、映画は驚くことに普通の恋愛パートに突入する。宗教に対して「ウソ」と言いつけるすげぇ展開の後に、よくある恋愛の話になる。温度差がスゴイ。
「ウソのない世界」において、女性が男性に対して求めるのは優れた遺伝子、すなわち容姿のみ。つまりイケメンがすべてを持っていくイヤァ〜な世界。人を内面ではなく外面でしか判断しないんですね、恋愛、結婚においては。遺伝子だけは偽りのない事実だから。つまり、愛という気持ちすら「ウソ」扱いしている。ひでぇ話だ。
主人公には、一連の騒動の間そばにいてくれた女性がいる。最初は彼女の外見に魅了されていた主人公だが、共に過ごすうちに彼女の内面にも魅了されるようになる。彼女への気持ちが本物になっていく。
彼女も主人公に対して、好意を持っているのだが、ブサイクなため恋愛には発展しない。主人公が、
「君は、母を亡くした男のため一晩中そばにいてくれるような優しい女性だ」
と内面に引かれていることを説明しても、
「私は美人で、モテるのはわかるんだけど、あなたは太っていて、ブタっ鼻だし・・・。あなたと結婚して子供を産んだらブサイクな子供が産まれちゃうわ」
と現実世界だったら人間失格なセリフを吐く。そして、
「もしかして、生前に善行を重ねたら、遺伝子は改訂されたりするのかしら? 「空の上の人」と話せるあなたなら知ってるんじゃない?」
ここで、いつものウソをつけば大好きな彼女と結ばれる。けど、ここでイエスとは答えない。世界で唯一「本当でないこと」を口にできる主人公だけど、彼女に対してだけは本当の気持ちをぶつける。
徹底的な見た目重視の世界故に、彼女は老いに対して大きな恐怖を感じる。
「誰もが羨む美人な私だけど、年を取ったら醜くなって誰からも嫌われるんだわ」
シリアスな場面なのに、余計なことを言うヒロインがそろそろかわいく思えてくる。それに対して主人公は、
「醜くなんてならないよ。僕にとって君は永遠に世界一の女性なんだ」
現実世界だったら臭すぎるセリフ。しかし、それは主人公の紛れもない気持ち。もうね、ブサイクな男の真摯な愛の言葉にぼかぁ弱いんですよ・・・・・・・。やってることは典型的な「美女と野獣」の話なんだけど、ブスな男の美しすぎる愛の言葉に、泣けてくるんですね・・・・・・。毒の利いたコメディーを観ていたはずがいつの間にか涙腺に大ダメージを喰らうはめに。
その後は、『卒業』のような展開(『シュレック』のような展開という方が近い)に落ち着いていく。彼女に主人公の思いは届くのか?っていうね。
ふむ、今回はちょっとネタバレが過ぎた。脚本がおもしろすぎて、それの紹介になってしまった。最後の恋愛パートは個人的に大ハマリだったものの、人によっては「平凡な話に落ち着きやがったなコノヤロー」、って感じるかもしれません。だとしても、中盤の宗教の誕生を描くシーンは必見ですよ。原題の『The Invention of Lying』、「ウソの発明」という言葉が急に深い意味を持ち始めるあたり、超おもしろいです。劇場未公開ながら、必見のコメディーとなっていると思います。
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