意地張ってる、がんばってる娘は大変かわいかった(滑舌がちょい悪なのも高ポイント)
『さや侍』観てきました。松本人志の監督3作目ですね。初めて出演せずに監督に専念したという作品。
今回のスタンスの説明を少々。
『大日本人』は嫌い。『しんぼる』は未見。松本人志は特別好きでもなければ嫌いでもない。野見さんも初めて知りました。
あらすじ
主人公は刀を持たず、さやのみを持つさや侍
脱藩の罪で追われている
娘を連れている
捕まる
三十日の業に処せられる
三十日の間、1日1芸を披露し、感情をなくしてしまった殿の息子を笑わせることができたなら無罪放免、失敗したら切腹
あらすじの通り、「娘」と「笑い」という部分が松本人志監督作として気になるところ。
まず、娘について。これは、正直松本人志監督作としても、ただの映画としてもガッカリでした。だって、ただのかわいい娘なんだもん。「こんな娘欲しいなぁ〜」程度にしか思えなかった。
この娘、最初は主人公に対して「はよ死ねや!」って言ってるんですよ(・・・侍として自害しろって意味だけど)。そこまで嫌っていた娘が父のことを、お笑いのことを認めるまでの過程が雑だった。
そもそも、この娘は、父がお笑いを始める前から「はよ死ねや!」と言っているので、「侍VSお笑い」という構図にあまりなってない。
次に、お笑いについて。笑いとは無関係だった主人公が、人を笑わせることを始める、という物語ですから、お笑いについて、お笑い史について描く話だと思ってたんだけど。そーでもなかった。お笑いに関してまったくのゼロだった主人公の芸にやがて客が集まるようになって、町の人気者になり、ついには殿様まで魅了していく、という過程はおもしろいんですよ。ただ、やってることが全然笑えない。ていうか、そもそもお笑いって感じじゃない。「殿の息子を笑わせろ」って命令だけど、主人公たちが目指してる笑いってのは、ラフじゃなくてスマイルの方なんですよね。笑わせるというか笑顔にする。楽しくて微笑んじゃう、みたいな感じ。なので松本人志の笑い、お笑いを期待すると激しい肩すかし。
だから、客ができて、ファンができて、って過程はお笑い史についてではない。どちらかというと、テレビ史、テレビのバラエティー史のような感じでした。
そのくせ、見張り番が作家のような仕事をしたり、(劇中の)観客が大笑いしたりして、お笑いっぽいような描き方をしてて、あまり好きじゃない。てか、劇中のギャグで劇中の客が爆笑してる描写ってクソ寒いからやめて下さい。映画観てて、笑えたのってほとんど前半の、作品世界で主人公が大スベリしてるシーンだからね。
そして、お笑いっぽく描くんだったら、最後の芸が風車ってのはおかしい。若君が風車が好きっていうんで、最後の芸として巨大風車回しをするんだけど、一般の客(映画観てる人も)はそんなの観てもなんにも笑えないからね。てか、あの風車は強風でたまたま回っただけだからなんの感動もない。そもそも、若君が風車が好きってことを知るキッカケも酷い。せっかく娘と若君の交流を描いたんだから、娘が情報仕入れてきたとかでいいのに。
「さや侍」について。戦うことをやめた男の侍としての最後の意地、見栄が「さや」ってのはイイんだけど。そもそも刀を捨てる理由が弱すぎる。嫁さんが病死しちゃったからってなんで刀を捨てるのよ。戦いに生きると愛する人に危機が迫る、っていう『スパイダーマン』的な発想だと思ってた。
さやを下に向けると、刀が落ちてしまう、って描かれ方はされてたから物理的な理由はわかるけど、主人公の心理がわからない。だから、さや侍となった主人公が常にさやに手を添えて上に向けてるっていうのもよくわからない。
さや侍っていうのは娘が父を嫌いになる理由であり、「はよ死ねや!」と言い始めるキッカケなんだから、そこは理由がハッキリしないと、もうなにがなんだか。
そもそも、本作の主人公はなにを考えてるのかわからないような描かれ方をしてるんだから、根底がわからなかったらすべてがわからない。
本作最大の泣かせどころとして手紙の朗読シーンがあるんだけど。切腹してしまった主人公が娘に残した手紙を読んでると、突然歌い出すんですね。これは勝手な理由かもしれないけど、日常の中で人が突然歌い出すと笑いそうになっちゃうんですよ。特に日本語の歌だと。だからミュージカルって苦手なんだよね。ミュージカルだったら割り切れるからまだマシ。本作はシリアスなシーンで突然歌い出すから笑ってしまう。
さらに、勝手な話なんだけど、ゆっくりとした曲で字余り字足らずが多い歌詞ってあんま好きじゃないんですよ。だから本作の曲にもあまり乗れなかった。
てか、そもそもですよ、泣かせ演出としての手紙朗読シーンってどうなのかね? 『ウチくる!?』かよ、って感じ。安易なお涙頂戴で萎える。
(歌自体はとてもイイ曲だとは思うんですが、乗れないし、そんな好きではない)
エンドクレジット後(途中)で、現在に残った主人公の墓の描写。あれって主人公の名前は後世に語り継がれていますよ、みたいな意味だと思うんですが、主人公の功績というよりは「娘が若君に嫁いだんじゃね?」とか考えてしまった。だって、主人公は語り継がれるようなことはしてないし。
それと、劇中あった若君にカステラを届ける芸のシーン。障子を破っていくって芸なんだけど、障子の配置がおかしい。若君からは主人公の姿がまったく見えない。劇中の観客からしか見えない。だから、あのシーンは、主人公が若君より観客を笑わせることが目的になってるって意味なのかと思った。けど、最後の芸は風車でしょ? ワケワカメ。
・・・と、悪口ばっかりでしたけど、『大日本人』よりは全然好きですよ。普通の映画になってたと思います。まぁ、松本人志の映画が普通の映画に着地してしまった、っていうのはファンからしたら落胆ポイントかもしれないですけど。ワタクシは特別なファンではないですし。とはいえ、松本人志だから「父娘」「笑い」というテーマに過度な期待をしてしまったという側面は否めないんですが。
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