北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『猿の惑星 キングダム』の感想

 『猿の惑星』シリーズが大好きでして、オリジナル五部作がそもそも好きで、特に『新』が好き。そして何よりサーキス版シーザー三部作が大好き、というかあれは誰がどう観てもアホみたいな完成度の三部作で近年稀に見るレベル……を通り越して近年の中で断トツの三部作なんじゃないかと思ってます。実際はそこまで評価されてない気もしてやきもきするんですが。
 そんなこんなで『キングダム』。結論から言っちゃえば、前三部作には並ばないが全然面白い! という感じ。『創世記』以降の好き度を野暮を承知で点数化するなら120点、100点、100点、80点みたいな。

予想以上に続編

 もっと「新シリーズ始動!」みたいな感じかと思ったら、300年経ってるだけでしっかり続編。まぁ前三部作が好きなので嬉しいっちゃ嬉しいが、「もうちょっと冒険してくれても良かったのよ?」みたいな気持ちもなきにしもあらず。穏当。まぁ、本作がヒットしたのでおそらく続編もあるだろうから、そしたら多少は我が出てくると思うので期待。今までありそうでなかった「宇宙」に目を向ける要素が多くてめっちゃワクワクしました。楽しみです。

神話的英雄譚

 ヒーローズジャーニー、もしくは行きて帰りし物語。今時珍しいくらいストレートにやってるので面白かったです。村が焼かれた時点で「マジで?」となったんですが、師匠と出会ってそのあと師匠が死ぬので「本気か!!?」となった。
 猿になっても神話は繰り返す、みたいなノリはそれこそ前三部作でもあったので、その正当継承感ありますね。こんなにも続編だとは思わなかった。オリジナルへの目配せも豊富だし、シリーズファン的にも楽しいですね。

嘘と殺し

 進化を続ける猿が人間に近づくとともに発生する罪。それが嘘と殺し。これも前三部作からの継承ですね。主に『新世紀』以降で共通するテーマ。シーザーも嘘(コバは猿じゃない)と殺しに至ったわけですが、それが本作でも印象的に繰り返される。それも各所で。
 一番面白かったのは人間キャラのメイ(ノヴァ)。真相が明らかになってからどんどん彼女が主人公ばりに大いなる計画のために奔走することになるんだけど、そもそも「喋れないフリ」が嘘ですよね。『新世紀』でコバが知性のないフリをして人間から銃を奪ったのと同じ。そして、計画遂行のためにメイは同族である人間をも殺す。ウィリアム・H・メイシー伝統芸能みたいな諦念おじさんやってて最高だったんですが、まさか殺される、しかも人間に殺されるとは思いませんでした。直接憎んでるわけではないが、計画の邪魔になるので躊躇なく殺す、というのが知性の果てに至った殺しって感じで素晴らしかったです。
 同族殺しは悪役であるプロキシマスも平気でやってる(直接は描かれないが)のですが、彼で面白いのは嘘の方。彼が操る嘘はシーザーの教義。教義の解釈をねじ曲げて、自分の都合の良いように王国の運用に利用する。そもそも「シーザー」の名前も嘘だと思うし、シーザーへの冒涜感にまみれてて最高の悪役。ただ、(後の)教義の恣意的な解釈による変更というのは『新世紀』でシーザーが言った「コバは猿じゃない」と同じと言えば同じ……。こうして考えるとやっぱ『新世紀』最高だなw
 逆に考えると、本作でノアが最後の決闘でプロキシマスを殺したのはちょっと余計だったと思う。英雄譚の結末としては全然分かるんだけど、教義と嘘の話が続いてたので「ノアも殺しちゃうの!?」となった。鳥イニシエーションの着地としてはめちゃくちゃ気持ちよかった場面ですが、ちょっと。因縁ゴリラとの決着は「殺さないけど相手は死ぬ」というギリギリのラインを見事に攻めてて良かったのですが。

鳥と宇宙

 おそらく本作で一番革新的な要素が鳥だと思う。鳥イニシエーションのくだりは『アバター』的だと思うんですが、父の愛鳥を(一時的とはいえ)引き継ぐドラマとか最高でしたし、「空」が身近な民族だからこそ、自然と「宇宙」へと目線が向けられることになる、という次作への布石みたいなくだりも素晴らしかった。
 人類が人工衛星に希望を見出してるのも良かったですね。文明、科学力としての格の違いを痛感するし、そもそも宇宙船から始まったシリーズなので宇宙の話が出てくるとやはりワクワクしてしまう。てか、何なら貯蔵庫の中に宇宙船があったりして……とか思ってたくらいです。コバルト爆弾とかタイムマシンでもいい。「人類に言葉を与えるもの」が絵本だったのはちょっとシンプルすぎて拍子抜けだったかも。まぁ、人工衛星による通信が「人間に言葉を与える」という考えもできるか。
 ちょっと関係のない鳥イニシエーションの話ですが、冒頭の場面で「3つの卵から導かれたものを選べ」のくだりは、ちょっと『ポケモン』のオーキド博士を連想してしまった……。


 終わり。『聖戦記』が公開されて比較的すぐに「また新作やるよ」みたいなニュースが入ったときは「シーザー死んだのに正気か?」とか思ったものですが、まさかここまで順調な新作になるとは思いませんでした。今後も頼みます。そろそろ宇宙進出かコバルト爆弾が来そう……。個人的には『新』が大好きなので、ノアくんにはタイムスリップしてもらいたい気持ちもあります。まぁ、過去作にないまったくの新機軸でもいいんだけど。