北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

映画『アニマル・キングダム』の感想


またもシャンテにて鑑賞。イイ映画館とは思うんですけどね・・・・・


 最近すっかり筆無精でして、『アニマル キングダム』観たのも随分と昔であります。こんなに書くのが遅れてしまうと読む価値があるのか不安になる次第です。まぁ、元々読む価値なんてないんですけどねー。

 現在はすっかりオスカーシーズンなのですが、去年だか一昨年のオスカーで話題になったのがオーストラリア映画の『アニマル キングダム』。助演女優賞にノミネートされたオバチャンを見て「誰やねんコイツ」と思ったのも懐かしいものであります。
 あとは、タランティーノが年間ベスト3に選んだ作品ということでも有名ですね。
 当然、ワタクシが観たキッカケというのもこの2つであります。

 アメリカのディズニーワールドに「アニマル キングダム」って動物園(的なもの)がありますけど、当然本作と関係はないですよ。こんなところに『アバター』のアトラクションなんて一生出来ないです。
 主人公が巻き込まれる犯罪一家のことを「野生の王国」という風に例えてるんですよね。

 あらすじ
母が死んだ
バーサンに引き取られる
バーサン率いる犯罪一家へようこそ

 観る前から気になっていたのが、やはりバーサン。オスカーノミネートですからね。簡単に言うと悪役なんだけど、あんまり悪行に勤しむシーンはない。それに前半部はほとんど活躍もしない。ところが後半になるにつれドンドンと前に出てきまして、バーサンの恐ろしさが伝わってくる。心底いやぁ〜なバーサンでしたね。ラストの抱擁とか、絶対されたくねぇ〜〜。
 そんなバーサン率いる犯罪一家というのがおもしろくて。仲の良い家族なんですよ。「そんなに悪い人なの?」って印象。ところが、仲が良すぎてなにかがおかしい。わかりやすいのがバーサンが息子たちに「キスしなさい」って言うシーンがあって、「まぁ 英語圏だとフツーかな」なんて思ってると、バーサンと息子がマウストゥーマウスでぶっちゅぅーっ。「えええぇぇぇっっ!!!」って感じでしたよ。驚愕しましたね。頬とかじゃねぇんだ。仲良いとかを通り越して狂気にしか見えないっていう。バーサンの存在が揺るぎなさすぎて息子たちが大人になりきってないんですよね。家族の中で。主人公は「なんかやっべぇトコ来ちゃったよ・・・・」って感じで死んだ目なんですよね。
 またさ、このバーサンの役名がスマーフとか言うんだよ。名前だけやけにかわいらしいってのが笑えない。


↑オーストラリアのスマーフと、ベルギーのスマーフをハリウッドが映画化したもの

 役者で言うと気になったのがジョエル エドガートン。最近ハリウッドで引っ張りだこになってる人だけど、本作がキッカケなのかな? 『ウォリアー』が早く観たいです。
 調べてみたらこの人、『スターウォーズ エピソード2』と『エピソード3』でオーウェン ラーズ演じてるんだってね。アナキンの親戚だね。よく覚えてないけど、後のルークの育ての親だっけ? どっかで見覚えある顔だなぁと思ったら『スターウォーズ』シリーズだったんですね。いやはや、通りで。オーウェン ラーズは超弱そうだけど、本作のジョエル エドガートンは超強そうですからね。ストームトルーパーなんかに殺されそうにない。

 もう1人、強烈なキャラだったのが犯罪一家の犯罪王ポープ。教皇っていう二つ名なんだけど、この人が素晴らしく怖かったですね。
 見た目がね、全然怖くないんですよ。体もちっちゃくてケンカも弱そう。だけど、なにやらおかしい雰囲気を常に醸ち出してるんですよね。「この人・・・・なんかヤバイ」って。表情から思考が全然読み取れないから、いきなりとんでもないことを言ってるように感じてしまう。
 警察に家族を殺された時に、「意外と落ち着いてるな・・・」なんて思ってると、突然「なんですぐに復讐に行かないんだ」とか物騒なことを真顔で言ってくる。当たり前のように警官殺しに向かっちゃう。ちょーこわいよー。
 本作で描かれるポープの犯罪シーンとして、主人公のカノジョを殺すシーンがあるんですが。ここもまた強烈。ゆ〜っくりと殺すんですよね。なに考えてるかわからない顔してるから助かるのか否か、殺される直前までわからない。殺す直前まで相手の顔に近づいてガン見しちゃってさ。殺す相手の顔ガン見する人って怖いよね。虫けらみたく殺すんじゃなくて、じっくりと死ぬ課程が明確にわかるように、生と死の境を探るかのように殺す。オーストラリアからやってきたまったく新しい概念「スローキリング」ですね。

 そんなトンデモ犯罪一家に引き取られる残念としか言いようのないのが主人公。この主人公が、終始死んだ目。無表情というよりは、無表情から少しネガティブな方に安定してる感じ。まったく表情が動かない。
 これね、主人公がバーサンの家に引き取れてると同時に死んだ目スタートっていうならわかるんですが、違うんですよ。映画冒頭から目が死んでる。映画冒頭は母の死体の横でクイズ番組を観てるシーンなんだけど、この時から主人公はすべてを諦めたような顔をしてる。その後異常としか形容しがたい地獄体験をするんだけど、その際も終始死んだ目。映画が進むに連れ、「あれっ こいつもヤバイかも・・・・・」という印象が強まる作りになっててうまい。
 それに、たった1回だけ主人公の感情が爆発するシーンがありまして。トイレの中で1人悲しみに打ちひしがれるシーンなんだけど、スゴイ迫力でしたね。演技うまいんだなぁなんてのんきに思ってしまった。また、トイレの中というのがイイよね。完全なる個室空間でしか感情を表に出せないっていう。便所飯する人の気持ちが少しわかる気がしました。逆に言うと、あれくらいの境遇じゃない人は便所飯しちゃダメですよ。1人で学食行きましょう。群れなきゃ飯も食えないアニマルキングダム暮らしのヤツらを笑ってやりましょう。
 ・・・・・・話がそれました。アニマルキングダムの例えも全然うまくないです。

 最後に、本作における個人的ベストシーンを。一家の警官殺しのキッカケとなる、スーパー駐車場での長男が殺されるシーン。警官はポープを追ってると思い、警官に終われるも余裕の態度を見せる長男、その直後「今日はお前に用があるんだよ・・・・・・・オイ! こいつ銃持ってるぞ!!(嘘)」でドーン!殺しちゃう。
 完全に不意打ち喰らいました。まったく想定してないタイミングで殺されちゃったもんだから観ててビクッ&ポカーン。スーパーで警察に見つかった瞬間は「こんなとこに警察が!」って焦るんですよ。が、ポープと分かれて警察が長男の方を追ってくるから「ポープがいなけりゃ警察はなにも出来ないだろう・・・」と安堵した瞬間にドーン! 警察がこんなにヤクザ化してるのかっていう驚きもあって、ひたすらに驚いた。
 長男が殺されたことが一家の警官殺しに繋がるワケで、この長男殺しの瞬間に映画が一気に動き出すんですよね。その一瞬を有り余るインパクトと共に描いたのは本作の白眉だと思いました。


 観る前から意外だったんだけど、本作ってPG-12なんですよね。絶対R-15だと思ってたんですが。観てみたら納得で、直接的な暴力描写はほとんどない。『ドラゴンタトゥーの女』(R-15)と違ってレイプもセックスもないし。それなのにあの異常なまでの緊張感ですよ。緊張し疲れるレベルでしたね。ひたすらパワフルな映画でした。魅力的なキャラも多くて、オーストラリアすごいっすね。
 70点。