行きやすい映画館、どこも字幕版の上映がなくて、「今回はそんなに期待してないから妥協やむなし」と吹替版を選択。そしたら、めちゃくちゃ面白いのでマジ後悔。吹替版が悪いとは言わないが、途中で原語の曲がかかるのはやめてほしい。しかも一番大事な場面(悪いと言ってる)。
『ミラベルと魔法だらけの家』
何度目だリン・マニュエル・ミランダ。来年のオスカー歌曲賞のノミネート、全部彼でもおかしくないレベル。配信作品含めるとマジでノミネート全部埋めれそう。
結構ナメた態度だったので、予告もそれほど真面目に観てなくてですね、本編鑑賞で初めて「主人公メガネじゃん!」と驚きました。めちゃくちゃ良いメガネ映画でしたな……。
魔法を授からなかった者の象徴ですよね、メガネ。足りてないから矯正器具を付けてる、みたいな。かと思えば、知の追求みたいな定番のニュアンスもあって大好物。一家にとって不都合な真実を追求する科学者のようにも見えました。そして、その問題から目をそらしたい人から主人公は迫害される。アメリカ人(に限らないけど)の環境問題に対する意識も反映している……なんて思ったりも。
とにかく、問題を抱えてるのに誰もがその問題から目をそらし、そらすことで何とか成立させる(成立してることにする)社会の話。そんな家族。まさに地獄。
昨今のスーパーヒーロー映画みたいな雰囲気のある怪力のルイーサ。マッチョながら、マッチョだからこその悩みを抱えているのがめちゃくちゃ面白かった。スーパーヒーロー映画全盛の今だから響くテーマだったと思う。そして、主人公のミラベルは彼女の悩みを聞き、彼女の弱音を引き出すことで救済する。しかし、弱音をさらすことは自身が抱える問題の直視であり、直視すれば当然無視できなくなる。心のバランスを崩した人が病院に行くと治療が必要と判定され、会社は休まざるを得ない。そうすると会社は困るから病院に行きづらい、行くと困ったことになる、という話に見えて仕方なかった。しかも、それが家族。地獄。イヤな話ですねぇ(めちゃくちゃ面白い)。
花を咲かせるイサベラについても同じ。彼女は結婚を望んでいないが、家族のため(主にバーサンのため)に結婚やむなしと考えていて、それがミラベルの起こす騒動によって破綻。ミラベルとのケンカによって結婚を望んでいないことが露わになる。誰にも言えなかった秘密を明かすことで救済を得る……が社会からの評価は最悪。その原因となったミラベルは迫害される。クソみたいな話をカラフルで美しい映像と歌で彩られてるのが面白い。真っ黒だったイサベラの髪が解放されたあとはカラフルに染まるんですが、ちょっとレインボーフラッグ的なことも連想しました。
家族にとって不都合な事実を告げ、迫害されるのは主人公だけではない。物語が始まった時点では既に追放されてるブルーノおじさん。予知という形で問題を指摘すると「お前のせいだ」と迫害される。だが、家族は見捨てられないと秘密裏に家族を文字通り裏から支える隠遁生活。泣けるぜ、ブルーノおじさん。彼の予言がガラスに印刷されるんですが、これはミラベルのメガネと対応する存在……とか何でもメガネに結びつけてしまうのが悪い癖。
物語の最後、「実はブルーノおじさん知ってたよ」とあるキャラが言うんですが、「やっぱり家族は優しい」みたいな扱いになってたけど、どう考えても「なんで黙ってたんじゃボケェ!!」ですよね。この目をそらすことで現状を維持しようとするクソ思考が本家族の最大の問題……。その問題を「見る」ことでミラベルは真の英雄となるのであった、という実にメガネらしい物語でした。
同時上映『ツリーから離れて』
短編。親に意地悪なことされたと思ってたけど、自分が親になったらあのときの親の気持ちが分かる……的な話かと思ったら、全然違うのでたまげた。尊敬してる旧世代が必ずしも正しいとは限らない、というのは『ミラベル』と同様のテーマでしたね。その経験を踏まえ、自分の世代ではアップデートしなくてはならない。そんな主人公の子育てっぷりが感動的であり、テーマも素晴らしく、同時に『ミラベル』への助走としてもバッチリな内容だったと思います。
細かい部分だと、鳥が集まってて楽しそうだと思ったら死肉を漁ってて、鳥たちと一緒に肉を漁ってたのは……という展開が意外性がありながら納得度が高くて好き。鳥たちが飛び立つとヤツの姿が現れる……というアニメーション展開も定番ながら激アツ。
ということで、マジでナメてたごめんなさい!! という土下座案件。字幕版も観に行きたいけど、今週から観たい映画が渋滞してるので行ける自信はないです。とはいえ、マジで面白かった。今年のディズニー映画の中で、MCUを除けば断トツで好きです(狭い)。