北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の感想

 今井監督は苦手だから今年はなぁ……けど川村元気が抜けたからあるいは……などと期待と不安と入り交じった今年の『ドラえもん』でしたが、相当良かった。いや、総合的な出来で言ったら過去2作の方が良いかもしれませんが、あちらは物語における中核の部分がかなり気持ち悪いので「良いとこはとにかく良い」だった『交響楽』の方が好きです。

途中までは不安、クライマックスで大逆転

 中盤まではかなり退屈というか中だるみが酷くて、シリーズでもワーストクラスの珍作になるのではないかと心配になりました。旅の目的がはっきりしないというか、のび太たちに目的意識があまりなく、それでいて危機感がないのでマジでぼんやりしてるんですよね。この「どこに向かってるの?」というぼんやり感を十倍くらい濃縮すると『緑の巨人伝』になります。さすがにあそこまでの惨事ではないですが、少しだけ比較対照として頭をよぎってしまった。よぎっただけでも相当ダメです。
 からのクライマックス。これが本当に素晴らしかった。音楽をメインテーマにした『ドラえもん』映画として理想的な仕上がりだったと思う。地球で人類が意識的、無意識的に奏でる無数の音楽が侵略者を撃退し……というのを映像としてスムーズに繋げてみせたのも見事。編集によって音楽を奏でてるので、本作という映画自体が音楽だったと言える。
 逆転直前、劇場が沈黙に包まれるという絶望演出も良い。本作に限らないけど、映画館で無音になるってかなり異質な瞬間ですよね。そこから逆転の音楽が鳴り響くのも当然ながら効果的。映画らしい、映画館らしい仕掛けだったと思います。

 悪意がない。というか人格がない。『南極カチコチ』のブリザーガ(CV.平原綾香)を思い出すタイプの悪役像ですが、あの作品は美術や映像の美しさ、そして物語に圧倒的な冒険感があるんですよね。本作にはそういう良さはあまりなかったので、敵としての魅力のなさが中盤までのかったるさの一因だったと思います。まぁ、中盤までのつまらなさはそういう単純な話じゃないと思いますが。
 ただ、やはりクライマックス。シリーズでは珍しくクライマックスで戦わない。一応戦闘のような展開にはなるが、のび太たちは演奏するだけ。空気砲は無意味。音楽というテーマから逆算して作られた悪役像なのでしょうね。そこは良かった。クライマックスは本当に良かったんや……。

一時帰宅

 これも良くない。ただでさえ緊張感がなく、淡々とエリアを解放していくだけの中盤において帰宅。中盤のつまらなさの大きな一因だと思う。
 ただ、ここものび太が独りでリコーダーの練習をしたり、ミッカたちが地球観光したり、と良い場面はあったんですよね……。それをやるために一時帰宅したのは分かるけど……複雑。
 あと、のび太がほぼ自力でのみ宿題をやり遂げたのも何気に偉業ですね。あれはおそらくミッカという妹属性のキャラがいる手前、のび太が張り切ったんだと思います。夜中に起きたのび太が外に行くとゲストキャラがいて2人きりの語らい……というシリーズ定番の展開がなく、のび太が独りで笛の練習をする、というのも本作独自の良さで、ミッカの良さでもあったと思います。自然と「風呂」を持ってきたのも見事でしたね。しずかちゃんのギャグを使わなかったのも偉い(ギャグを伏線にするのも好きですがw)。

ミッカ

 そんなミッカ。良い。めちゃくちゃ良い。とにかく可愛いじゃないですか。ありそうでなかったタイプの魅力だったと思います。基本的にわさドラ映画のゲストキャラって少年に偏ってたと思うので。
 ただ少女というだけでなく、のび太よりも年下の少女。ここが良かった。最後の最後で妹属性だったと明らかになるんですが、ゲストキャラの造形としてかなり新鮮で本作の魅力になってたと思います。去年の『空の理想郷』はゲストキャラがまさかのドラえもんとの掛け算を担当していて驚いたんですが、今年は別の意味で驚きました。ドラ映画の歴史に名を刻む名ゲストキャラだったと思います。
 「はやくっ♪ はやくっ♪」のくだりとか本当に可愛くて最高でしたよね。あそこだけエンドレスリピートしたいレベル。なので、2回やってくれて嬉しい。チャペックも可愛かったです。正直キャラが2人いるのあまり効果的じゃなかった気もするんですが、可愛いは可愛い。
 ただ、個人的なゲストキャラの理想像は『月面探査記』におけるルカくんであり、ルカくんとのドライブデートからの車修理で不意に密着……みたいなのび太との友情(やややりすぎも感じる友情描写)なので、そういうイチャイチャ感がないのが物足りない。とはいえ、ミッカにそういうのを求めるのも間違いだと思うので、これは完全に私のわがまま。ミッカはミッカで最高でした。

人類最古の笛

 音楽の授業が活きてくる展開も良かったし、あれがあるおかげで本作の扱う音楽が「のび太たち」から「人類史全体」へと拡張された。まさに『地球交響楽』へと繋がる重要イベント。『新恐竜』では序盤の恐竜博士が終盤になっても特に意味がないまま終わってモヤモヤするんですが、その点本作はうまく出来ていた。川村元気の落ち度なのか、今井監督のリベンジなのかは知りませんが。
 そして、そんな笛を求めて上野の博物館へ。まさかの歴史ミステリー、そしてハイストムービーみたいな展開になるので驚きました。ドラ映画で見たことないタイプの展開だったと思いますが、リアルキッズが「上野行ってみたい」となる可能性もあるので良いギミックだと思います。まぁ、『ドラえもん』レベルのビッグタイトルになると逆に東京偏重みたいな問題も出てきそうではある。
 その後、本物の笛を手に入れるくだりがあまりに簡素……なのは別に良かったのですが、笛の下の端が欠けてたら、最後の音だけでなく全部の音が出ないと思うの。そこで「の」の音が活きてくるのもちょっと強引だった気もするな。本作は普通にのび太が成長して、普通に笛を吹けるようになる、でも全然良かった。

「夢をかなえてドラえもん

 映画から「夢をかなえてドラえもん」が使われなくなったのは『宝島』以降徐々に大きくなった潮流で、諸悪の根源はやはり今井監督なのでは……と憎々しく思うことも多かったのですが、出た! 出ましたね、今回。ワンフレーズだけ、メロディで流すのがオシャレで「ニクいことするじゃねぇの~!!」と大興奮でした。
 ただ、冷静になって考えると「普通にオープニングやればよくね?」という話ではあるので複雑ですw

オープニング

 今年も歌ナシで、映画のテーマにあわせたもの。去年の『空の理想郷』で確立した新しいオープニングの形式って感じですかね。クライマックスにも大きく関わってくるし、正直かなり良かったんですが、それでも「普通にオープニングやってよ……」という気持ちにもなってしまう。「ドラえも~ん!」のシャウトをやるんだったら、そこで普通にオープニングをやれば、普通に「夢をかなえてドラえもん」を流せばいいんじゃないの。
 最後にオープニングで「夢をかなえてドラえもん」が流れたのは5年前、4作前の『月面探査記』。やはり八鍬監督しか勝たんのや……。しかし八鍬監督は『ドラえもん』を離れた立派な映画監督になっていくと思う。それほどまでに『窓ぎわのトットちゃん』が素晴らしかった。

来年

 つまりは「おまけ映像」のクレジット。あれはつまり寺本監督が来るってことですよね? おそらくファンの人気が最も高い傑作『ひみつ道具博物館』から12年、寺本監督が帰ってくる、はず!! 楽しみ~!! オープニングで「夢をかなえてドラえもん」やって~!!!
 ちなみに、おまけ映像の中身は絵を描くドラえもんと西洋の城。ドイツですかね? おそらくオリジナルになるんだと思います。寺本監督だと仮定すると「リメイク→リメイク→オリジナル」と来てるので、これでまたリメイクに戻るのは可能性が低いのではないか。てか、過去にオリジナルを担当した後にリメイクを担当した例がない。
 個人的に八鍬監督の次に寺本監督が好きなのでね、八鍬監督に期待できない今では文句ナシにベストな人選。これは期待しかない。特大ホームランの予感。


 こないだのF先生特集番組に出てた川島明、山崎夢羽が番組内でお気に入り映画として挙げていたのが『新鉄人兵団』と『ひみつ道具博物館』。寺本監督カムバックの匂わせだったのかもしれない……(違うと思うよ)。


 終わり。総合的に傑作という感じではなかったですが、良いとこの魅力が文句ナシなのでなかなか思い出深い作品になりました。今度おまけ映像に今井監督の名前が出てもあまりガッカリしないと思います。ごめんよ……。
 けどオープニングは普通にやって。
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