北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『バービー』の感想

 ユナイテッドシネマ浦和に行くついでに、1階でやってたモルカーのポップアップショップに行ったら抱っこぬいぐるみが1,000円(定価3,500円)で売っててたまげました。映画を観た帰りに購入ッ!!

ケン

 とにかくケンが良かった。面白かったし、ひたすら笑ったのもケン。とにかくケン。ライアン・ゴズリング最高~!! と感想がケン一辺倒になると、それこそ本作が皮肉ってるような話になりそうなので罠。アカデミー賞とかでゴズリングだけが評価されたら笑うしかない。マーゴット・ロビーアメリカ・フェレーラあたりも入れてほしい。あとは脚本、美術、衣装、歌曲あたりもつよつよだな。
 序盤、バービーランドの中のケンは、あの世界における性的な客体として空虚な存在。つまりは現実世界の女性のメタファーなのでしょう。そんなケンが劇中の現実世界に行くと、そこにはびこる男性中心的な価値観をインストールしてしまい、あっという間に有害な男性性の権化へと変貌。めちゃくちゃややこしい文章になってるのは自覚してます。そんなケンの変貌ぶりと、ケンの救済が本当におかしく、感動的であった。ともすればもっと悪役一辺倒になってもおかしくないのに……。

コブラ会』

 男性社会を目の当たりにして「目覚めて」しまったケンの姿が笑えるんですが、そこでのケンの姿、及びケンがもたらす世界ってのがほとんど『コブラ会』で描かれてるものなんですよね。マッチョな価値観に囚われた空虚な男性の姿としてここまで似通うのはなかなか興味深い。
 ただ、『コブラ会』は古い男性性と、世代間のギャップ(価値観のアップデート)をテーマにしてるのでマッチョ男性の救い方が少し違う。ケンもモージョードージョーカサハウスで弟子を取れば救済される可能性もあったのですが、バービーランド(ケンダム)には下の世代が存在しないので無理ですね。仮にケンが性器を取得したら余計にどうしようもない存在になってしまいそうで怖いw

馬信仰

 ケンダムがおける異様なまでの馬信仰がちょっと違和感というか、ピンとこないものがあった。『コブラ会』のジョニーはコブラとかイーグルとか「かっこいい」動物に憧れててそこは分かりやすいんですが。
 おそらく西部開拓時代(西部劇)における馬のイメージが強くて、そこから男らしさと密接に結びついてる……のだろうと想像。今でも「車は男の趣味」みたいな価値観あってバカらしいですが、その車がそっくり馬へとスライドしたんだろうな。ちなみに、『コブラ会』のジョニー(てかあのシリーズ全体)も車大好きですね。

クソダサMV

 空虚な男らしさギャグとして最高に笑えたのが、男たちの戦争からシームレスに始まるクソダサMV。その前のビーチでの弾き語りも含め、男性がナルシスティックかつマゾヒスティックに自らの悲哀を歌うことのおかしさって何なんでしょうね。『アナと雪の女王2』におけるクリストフにも同様のクソダサMVシーンがあったけど、彼にも「女性主人公作品における性的客体としての男性キャラ」という共通点がある。さらにディズニーは「フェミニズムを50年後退させた」とか言われがちな過去を持ってたりするので、この一致は笑えるが必然でもあったんだと思う。
 『アナ雪2』と違って自覚的ではないと思うけど、今年の実写版『リトルマーメイド』における王子もクソダサMV的な歌唱シーンありましたね。

選挙で勝つ

 ケンダムへの逆転として女性たちが連帯して投票する、という行動が描かれてたのが見事だと思うんですが、そこらへんを真面目に考えると、政治的に対立する相手の投票妨害をしてることになるので、ちょっと……とはなる。男女の反転で意趣返しだから別にいいってのは分かるけど、わざわざ同じ低さまで降りて戦わなくても……というのはある。

グロリア

 「ケンがすごいぞ」というのは事前の評判でも聞いてたんですが、それと同様にグロリアも良かった。てか、実質本作のもう1人の主人公と言えそうなレベル。現実の女性の生きづらさを知りつつ、バービーへの愛が深く、そして母親。本作のテーマを象徴したキャラクターというか、もうほとんど本作そのものという存在だったと思う。
 ヒスパニック系(演じるアメリカ・フェレーラはホンジュラス系)で、彼女が英語以外の言語を持っているので家族がそれに寄り添う、という要素も出てきて、本当に最近のハリウッド大作では頻出するトピックだと思った。『フラッシュ』『アクロスザスパイダーバース』『マイエレメント』などなど。大作じゃないけど『エブエブ』も。てか、そもそも本作(のキャスト)は驚くほどにアメリカ人が少ないですね。

ガル・ガドット版『バービー』

 元はガル・ガドット主演を想定してたが、スケジュールが合わなかったのでマーゴット・ロビーが主演することになったらしいが、ハーレイ・クイン役で大ブレイクした彼女が『バービー』の主演ってことでまた味わいが増したので結果オーライだったと思います。ジョーカー(プリンちゃん!)の添え物だったハーレイとワンダーウーマンじゃ前者の方が『バービー』感ある。

ラスト

 婦人科エンドというのが非常にアメリカ的というか、日本だとちょっとピンときづらい部分ではあったと思う。知識として何となくこういうことかな、とは分かるけども、日本の作品でああいう婦人科の場面が出てきたら「妊娠した」の意味になるのがほとんどだと思う。「自分の体は自分のもの」という価値観の象徴として婦人科が最終的に描かれたのは面白かった。生(死)のある世界(人生)の入口としての婦人科。まぁ、「勝手に面白がってんじゃねぇよ」という射程を持った作品なのが恐ろしいところですが。
 「女性の体は女性のもの」というメッセージの一貫として「男は女のメガネを外したがる」というギャグが出てきたのも最高でした。『くもりときどきミートボール』『ドリーム』あたりに続く女性メガネシーンの傑作と言えそう。

字幕

 「コメディ映画用にふざけてみました」というノリが全開でかなりきつかった。特に「つるぺた」「メンヘラ」あたりは、よりによって本作に使うなよ……という気分。「ポリコレ」も「コンプラ」でよかったよね。会社の話だったし。まぁ、バカが使いがちな単語という意味では案外正しいのかもしれない。あの男性ばかりの重役会議シーンは爆笑でしたね。笑ったけど他人事じゃねぇのよ……。

日本のバービー

 関係ないけど、2023年の「バッビッ」は日本にもあるんだぜ、ということで「Bad Bitch 美学」をよろしくお願いします。バービーランド奪還のくだり、「荷物を重そうに持ったAIがケンの前に現れる」を自然に入れれると思います。

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 終わり。『マイエレメント』に続いて、寓意を考えてたら終始頭フル回転でめっちゃ疲れる系の作品でしたね。いや、本作は全編ギャグのコメディ作品というのが偉大な点だと思いますが。