北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の感想

 アニメシリーズはそれほど熱心に追いかけてきたわけではないんですが(全部観たけど)、漫画の方は比較的熱心な方だったと思います。というか、ジャンプの感想ブログを始めたのが『ハイキュー』開始ちょっと前くらいのタイミングなので、必然的に熱心に追いかけることになる(毎週感想を書く)。ブログやってきた中で好きな作品はたくさんあるけど、一番「良く出来てる」「レベルが高い」「全方位的に面白い」みたいな意味では『ハイキュー』だと思ってます。「1番面白い漫画どれ?」って訊かれるたびに『ハイキュー』って答えてる……(以下略)

4期『TO THE TOP』の復習とラストプレー

 復習したんですよ。公開2週前くらいからかな。放送当時も思ったことなんですが、正直出来がイマイチ……(それまでのに比べると)。特に試合シーンがとてもいまいち。クレジットを見ると監督が変わったのでそれが大きいんですかね。ただ、当時はコロナの打撃もあっただろうから、そういう不幸もありそう。
 しかし、1-3期の満仲監督が『ゴミ捨て場の決戦』では帰還。今までどこ行ってたんだよ~! という感じですが、調べてみたら『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』でした。ぐうの音も出ない傑作……!
 結果的に言えば直前に4期を見て「やっぱイマイチだよな……」となったのは良かったと思う。失礼な話ですが、映画の前フリ、噛ませドッグ。ただ、稲荷戦のラストプレーの演出はめちゃくちゃ面白かった。アニメ『ハイキュー』におけるラストプレーオモシロ演出大喜利の歴史にちゃんと名を連ねてたと思います。あと、個人的にミカちゃん(スグミカ)が好きなので、ひょっとしたら一番好きなシーズンと言えるかもしれない……(ほんとはツッキーも好きなので3期)。
 まぁ、そんなラストプレー大喜利、そしてスグミカ、という意味において『ゴミ決』は圧倒的に上回ってきました。さすが満仲監督、3期のラストプレーでバレットタイムする男……!
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85分

 観る前はいくらなんでも短すぎると思いました。テレビシリーズなら4話くらい? 稲荷戦どんだけやったと思ってんだ(間延びも感じる)。
 実際に観たら、85分がベスト。マジで英断。さすが満仲監督……の選択なのかは知りませんが。85分のコンセプトは明らかで、実際のバレーの試合の時間に寄せたのでしょう。4期に限らず、この手の漫画アニメの欠点とも言えるけど、スポーツの試合にドラマを盛り込もうとすると、とにかくプレーが止まって回想、プレーが止まってモノローグやナレーションが増えるんですよね。『THE FIRST SLAM DUNK』もそうでした(怒られそう)。そもそも原作『ハイキュー』もそうじゃないとは言えない(怒られそう)。
 もちろん本作にも回想は挟まる。回数も多いし、長かったりするので、そこを嫌う人はいると思う。ただ、その点への配慮があるというか、工夫は間違いなくあった。バレーはバスケ同様、もしくはバスケ以上にボールが止まらないスポーツ。止まったら(落ちたら)失点。なので、プレー中は基本的には回想とかスローにならない。正確にはなるとこもあが、セットポイントとかの超決めシーンとかに限られる。この点『THE FIRST SLAM DUNK』よりも超良く出来てたと思うんですが、どうでしょうか(怒られそう)。『THE FIRST SLAM DUNK』も、プレーが、ボールが止まらないシーンが最高に熱い映画でしたが、『ゴミ決』も同路線として成功してる。回想多すぎの批判あり得ると思いますが、『THE FIRST SLAM DUNK』よりはマシだよ!(怒られそう) あの映画だって、回想で話止まっても、トータルでは超面白かったわけじゃないですか。
 基本的にちょっとした回想は点と点の切れ目で入り、長めの回想はセットの切れ目で入る。さらに第3セットではその回想を踏まえた激エモ開幕を迎える。第1セットは事前説明が最低限で始まるんですよね。代わりにファーストプレーが長いラリーになるので、それがご挨拶。
 春高が舞台になると『ハイキュー』で特徴的になるのが、客席に濃いキャラ揃いすぎ問題(問題ではない)。本作でも当然客席のシーンは増えるんですが、客席でいろいろ語ったり思い出に浸ってる間も、画面の外で、もしくは画面の奥はプレーは続いてる。このプレーの止まらなさ、リアルタイム進行感。一番顕著だったのは天童が中継の画面を見ずに、うろうろ歩きながら実況の至らなさを指摘する場面。あの刻一刻と試合が進み続ける感覚、どんなにドラマチックでも常に試合が終わりに近づいてる感覚。高揚感と寂しさ。ここまで試合を観ないのは極端だけど、こういうプレーから離れた語りを入れながらも試合が止まらない感じ、容赦のないスピード感。「観戦」感としてもそうだし、映画というパッケージとしても見事にハマってたと思います。

主役は研磨

 研磨が好きだから、とかそういう意味ではなく、これは誰が見てもそう感じることだと思います。あの試合を85分にまとめるにあたって、研磨を中心に描く。本作の英断その2。そもそも研磨はみんな見守られるキャラなので、そこにフォーカスすることで、自然と映画全体が俯瞰寄りの「観戦」になるんですよね。黒尾は研磨にバレーを好きになってもらいたいし、日向は研磨に本気になってもらいたい。つまり本作はどっちが勝つかの話ではなく、研磨がバレーに対する考えを改める話だったと言える。研磨の成長譚だし、それを見守る一同にとってもご褒美のような瞬間。試合後、黒尾が泣く場面がありますが、本作の物語において一番大事なのはあそこでしょうね。研磨の成長と、研磨を見守るドラマがあそこに着地する。人にバレーの面白さを教える、という意味で黒尾がバレーにハマった瞬間。

ラストプレー

 85分のリアルタイム感、そして研磨。その2つのテーマが完璧な形で結実するのが最後の最後、第3セット烏野マッチポイント。研磨の主観視点。最初は単にカメラが選手と同じ高さで烏野コートを映してるだけだと思ったんですが、そこから反転、サーブと同時に音駒コートを映し出す。あまりの衝撃に「研磨視点ってこと!?」と驚きつつ笑ったんですが、そっからの主観映像がひたすら長い。両チームともにめちゃくちゃしつこく、そのしつこさが「終わらないでくれ」という感情へとシンクロする。ワンプレーを省略なしに見せる、なんて数え切れないほど繰り返してきたことだけど、このワンプレーのリアルタイム感は過去最高でしたね……と思ったらリアルタイムではなくなる。主観のまま回想突入。そう来たかぁ~!! 圧縮された時間感覚、ドラマを背負いながらもプレーに集中する選手の感覚の追体験として極上レベルだったと思います。そして、その主観ワンカットのまま現在に戻り、プレーが続くが、終わる。あまりにあっけなく終わる。試合が長く、ラリーが長かったからこそ全選手のプレーの蓄積、披露の蓄積が汗という形で具現化し、研磨のミス(事故)を起こす。このあっけなさ、「えっ 終わり……?」という感覚こそ、本作の肝だったのでしょうね。因縁の試合が一瞬終わってしまうあっけなさ。それが次への渇望へ繋がる。
 3期白鳥沢戦のラストプレー、バレットタイムが印象的ですが、その前の「ウシワカに押し潰される」イメージのくだりは正直味が濃すぎると思う……少なくとも映画だとしたら濃すぎ。総集編映画では当然ある場面なんですが、最初から映画用に作られた本作では逆にものすごく静かな演出を持ってくる。このあたりに満仲監督の確かな手腕を感じる。
 間違いなく本作で一番の名場面だと思うんですが、回想のくだり、スローで合宿の一同を見回す際、めちゃくちゃカクカクしてましたね。普通に顔を識別できない人もいるレベルだったんですが、おま環でしょうか……。モアレが大量発生してる漫画を読んでるときに「これは本作の非と言っていいのか?」とモヤモヤする感じに似てる。

ポストクレジット(本作以後のネタバレ含む)

 キャストに星海(炭治郎)がいたので、はいはいポスクレで次回予告ね……と確信したんですが、実際に待っていたのはスーパースグミカタイムなので泣いた。やっぱ私は『ハイキュー』の中でスグミカが一番好きかもしれない……。コート上だとツッキー。ツッキーの愛され感、見守られ感は研磨と被るので本作ではちょっと損ですね。充分でしたけど。
 その後で当然炭治郎も出てくる。絶対「『劇場版ハイキュー!! 小さな巨人』鋭意制作中」的な告知が出ると思ったんですが、なかったですね。タイトルも焦らす意味がないと思うのですが。
 ただ、気になるのはアニメシリーズがどう終わるのか。鴎に負けて終わるのもあり得ますけど、普通に漫画をなぞると思うんですよね。そっちは映画よりテレビシリーズになるのかなぁ、なんて。そんでそこでの最後の試合を大増量してほぼアニメオリジナルの試合を映画に……とか。何はともあれですね、満仲監督、『ハイキュー』と心中してぇ~!!(一緒に終わる必要はない)


 終わり。おそらく「回想多すぎ」と言う人も、「エピソード飛ばしすぎ」という熱心な原作ファンもいると思いますが、私としては……最適解!! 85分より面白くなる『ゴミ決』はあり得ないで証明終了。そんな気分です。

追記(2024/02/27)


 映画が良すぎて結局TVシリーズを最初から観てるわけですが、1期のクライマックス、青城に負けた直後、日向の主観ショットがちょっとだけあって震えた。下を向く日向と研磨の対比。何もかもが腑に落ちる……