北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の感想

 観ました。原作最終章があんな感じの終わり方なので、たぶん映画も今回が最後なのでしょう。まさかの日常モノとかやってほしいけどね。終盤ずっと暗かったので。その点、映画は適度に暗くなくて良かったです。

ラスボス戦

 いきなりラスボスの話するのもどうかと思うけど、映画シリーズを連続して観た上で一番嬉しかった点。映画過去3作のラスボス戦、どれも派手は派手だけど、割と気合いと根性で押し通す展開で、その割に結構長いので正直あまり好みではなかったんですよね……。3作目『ワールドヒーローズミッション』は最悪で、デクが効果のない反射壁に打撃をひたすら繰り返すだけで本当にだれた。ブツブツ考えながらいろんな考えを巡らせるのもデクの良さだと思うので結構深刻。あれがなかったら映画で一番出来が良いとすら思うレベルなんですが。せめて黒鞭を試してほしかった。
 そんなラスボス戦。今回は良かったぞ。いや、巨大化してからはいつものノリでバイブス偏重になるんだけど、あれは黙って動き出す3人がかっこよかったのと、言うて1ターンで終わるイベントバトルみたいなもんなので全然許容範囲。派手すぎて「かめはめ波でも撃ったのか?」となる感じとか笑いながらも好きです。デクは基本殴る蹴る扱いが難しいんだろうな……。
 今回のラスボス戦には展開、ロジック、攻防、主張など盛り沢山。要するに単調じゃないってのが何よりです。同時にジュリオの話も進むし、途中で爆轟の2人も参加するし、オールマイト解釈論争みたいな言い争いもする。3人の連携で勝つ話だったのも良かったし、攻撃の派手さで劣るデクが連打でフィニッシュするのも良かった(後に巨大化ですが)。あのデクの連打、やりすぎ感あって好きなんですが、ちょっと『ONE PIECE』サンジのフルコース蹴りみたいな雰囲気ありましたね。技名が長いのでサンジよりもおかしさが出てたとは思う。
 ラスボス戦が良かったって話。要するに監督交代の影響が大きいのではないかと思う。オープニングが初めて入ったのもおそらく新監督のこだわりなんでしょうね。いや、オープニングは「Vaundyくんが2曲もくれたぞ!」という大人の事情が絡むかもしれないけど。

ダークマイト

 オールマイトの勝手な継承者というテーマ、何言ってるか分からないものの、個人的にはかなり面白そうだった。面白そう、だった。面白そうなだけだった。ヒーローに対する厄介ファンみたいなテーマに踏み込むならかなり興味深いと思ったんですが、正直最後まで何が言ってるのかよく分からないまま終わった印象。普通に「イタリアのマフィアが世界征服しに来たぞ!!」くらいでも全然成立した話だったのではないか。今の世界で一番厄介な存在はオールマイトの継承者であるデクだからそこを狙った、みたいな感じで。ぶっちゃけデクたちがオールマイトの見た目の人と戦う画が欲しかっただけなのかなぁ、とか。あとは声優の演じ分けが楽しい、とか。
 一応デクたちがオールマイト愛をキレながらぶつけるくだりは良かった。それぞれがオールマイト論を主張し、ぶつか合うのがバトル漫画っぽくて好きです。ただ、個人的には轟の「オールマイトは奪う者ではなく与える者」という主張がOFAという個性の本質を捉えてて一番好きです。あの3人の中で最もOFAとの関わりが薄い轟がなぜ……。
 そもそも映画の悪役ってどれもパッとしない……可能性はある。けど『ヒーローズライジング』のキメラは好きだよ!!(ラスボスではない)
 そんなダークマイトの良かった点。錬金の個性で超絶バトルするのは画的に楽しかった。あの能力の使い方、かなりグリーンランタンっぽいと思ったんですが、あまりグリーンランタンのこと詳しくない(複雑すぎる)のでちょっと自信ないです。ツイート検索とかしても見つからないので不安。

全員集合、全員活躍

 おそらく最後の映画ということで、この点はかなり頑張ってたと思うし、見事だったと思う。『ワールドヒーローズミッション』はデクとロディの2人に絞ったのが映画としては勝因だと思うんですが、今回はいろんなキャラが出て、それぞれちゃんと活躍する。さすがに細かくチェックしたら物足りない人もいるけど、それでもプロヒーローも出てきて、ちゃんと戦い、サプライズ枠でミリオまで出てくるので大したもんですよ。
 A組。全員であった。ただし時系列の問題で青山は不在。『ヒーローズライジング』のときは「唯一活躍してないから内通者だろ」と可哀想な疑惑をぶつけられた葉隠ちゃん、本作でもこれといった活躍はなかったですね。単純に短い出番で(バトル的な)活躍をさせるのが難しいキャラだった可能性……。青山がいればコンボ決められるんですが。まぁ、『ヒーローズライジング』は意図的にミスリードを狙った説を信じたい気持ちもある。

冒頭の世紀末

 A組の活躍として何気に良かった、本筋と関係ないけど良かったのが冒頭。原作だとすぐに最終決戦の話になっちゃうのであまりなかった、世紀末状態で、かつデクと和解した最強状態のA組の日常的なヒーロー業。「見たかったやつや!!」という感じでホント良かった。世紀末感も画として嬉しい。謎の『マッドマックス』カー生成個性のヴィランも好きです。あいつの個性名知りたい。
 OFAがほぼ完成したデクが、A組のみんなと秘密を共有した上で連携してるのとかファンサービスとしての純度めちゃくちゃ高かったと思います。

 A組の出番で一番おいしかったのはココではないでしょうか。催眠みたいな個性で見せられる夢の世界。轟とか分かりやすくトラウマの反転で良かったし、小さく描かれる葉隠ちゃんの独りファッションショーとかも泣ける。障子は「最終章のやつぅ!!」って感じでファンサービス的にかなり良かった要素。
 そんな中でも、一番良かったの梅雨ちゃんじゃない? てか個人的に映画全体の中でもベストシーンなんですけど。梅雨ちゃんの夢が急にしょうもないというか、マジで当たり前な小さな幸せすぎて急に脳天打ち抜かれた気分。ちょっと精神的に彼女が大人すぎる、という見方もできるかもしれませんね。逆に言うと、悩みがないから原作最終章で活躍を描きにくい。紆余曲折を経たヒーローが引退時に「あのときが一番幸せじゃった……」と回想するやつだよ。

ジュリオ

 映画『ヒロアカ』はゲストキャラが鉄板ですが、今回はまたすごかった。テーマや物語的に良かったとか、デクとの関係性が良かったとかそういうのはさておき、キャラクター単体で全方位的にぶち殺すという殺意の波動がすごい。ひたすら「こういうの君たち好きでしょ!?」という要素がアホみたいな量詰め込まれてる。正気の状態で漫画アニメを観てたら「眼帯に泣きぼくろって顔面が渋滞してるよ!」とツッコミ入れたくなるんですが、ジュリオの場合はマジで氷山の一角なので笑えてくる。あのキャラにギザ歯持ってくるのもすごいし、メタルアーム(変型機構)にメタルレッグ(飛ぶ)と急に小学生をワクワクさせる要素まで出てくるので笑う。いや、笑ってた。最初は笑ってたんです。「毒舌執事とか狙いがあざといなぁw」とか。笑ってたのに、あまりの情報量に次第に飲み込まれたというか、最終的には「えっちなのでは……?」と無事完堕ち。メタルアーム大活躍のくだりでもう若干腰に来てたんですが、個人的に身なりのキレイな執事がボロボロになりながら次第に機械の体が出てきて泥臭く戦うのがすげぇ良かった……。全編を通じて変化し続けるキャラだったと思うんですが、着替えるチャンスとかない話なんで当然不可逆的な変化、つまりズタボロになるしかないんですよね。それが物語の進行度合いとマッチしてて本当に良かった。何なら本作はジュリオの変化を巡る旅、と言えるレベル。執事然として紅茶入れてたジュリオの行きて帰りし物語。最後にたどり着くのが執事、ではなく執事よりも原初的なアンナとの関係性だったのとか感動的でしたね。正直な話、ジュリオが映画を食い過ぎて映画としてのバランス悪いのではないかと心配になってくるレベル。
 他に好きな要素でいうと、やはりバイク。荒廃した都市を『AKIRA』の金田風バイクで颯爽と走るのとか好きに決まってますよね。金田風バイク自体はかなりベタだと思うんですが、まさかバイクが自爆してその中から別のバイクが……。金田バイクほど露骨ではないけど、たぶん『ダークナイト』のバットポッドを狙ったんじゃないかしら。空飛ぶヒーロー3人の下で現実的なバイクで併走してる絵面も超好みでした。「イケモブ」の評価もやむなし。あれ、顔面的な評価なのか男子心くすぐられたのか、ちょっと判断に迷いますが、後者だと思う(両方ではあるものの)。
 あとは、義腕、義足を駆使しながらとはいえ、実質無個性でラスボス戦まで同行したのが何気にすごいというか、ロマンを感じる。変型メタルアームだけでなく、左手でただの銃を使うのもかっこよかったぜ……。眼帯が外れて義眼で催眠メタも熱い。もうジュリオが主人公でいいよ本作。
 あとはアンナとの「いざと言うときは私を殺して」とかもオタクが好きな定番のやつって感じですよね。口調や呼称が変化するのもそう。こういうのが単体でドヤ感を伴って描かれたら「あざとい!!」となって終わりだと思うんですが、そういう正気を保たせないレベルで要素が連続していくので気づいたら死んでました。第一印象は決して良くなかったはずなんですが……。
 ジュリオは変化し続けるのが魅力だと思うんですが、映画のゲストキャラの変化というと、やはり1作目『2人の英雄』のメリッサが思い出させる。突如として消失したメガネである。エヴァに乗ったシンジくんが「メガネを返せ!」と暴走し、無事サードインパクトが始まるレベルの事件だったと思うのですが、今になって思えばあのメガネがショックだったのはメリッサの属性が少ないからですよね。本作のジュリオを見て執事服や眼帯の消失を嘆く人はいない……少なくともメリッサのメガネと比較すれば相当少ないと思われます。ジュリオは要素が多すぎるんや。次々にわくわく(えちえち)な情報がぶっ込まれ続けるのでそれどころじゃない。
 映画4作を振り返ると、それぞれのゲストキャラが魅力的で良いよね……。魅力の方向性がまるで別物なのがすごい。稀有な映画シリーズだったと思います。

個性消失系個性

 蛇足ですが、個性を消す個性が多すぎないかとは思う。理屈はややこしいがジュリオもそうだし、敵の、かなりどうでもいい幹部にも出てくる始末。「二度のミスは許さん」みたいな感じで粛正されてたけど、あの雑な発動条件の個性消失、超強くない? 超便利じゃない? 普通に温存しとくべきだった思う。原作の最終決戦で相澤物真が連携してやっと常時個性の否定してるというのに、あんな簡単に個性消せるんだよ。洞窟の中で映画を観てたAFOも「こいつ雄英にいなくてよかった……」と安心してたんじゃないかな。てか、あいつから逃げたギンジがすごかったのか?


 終わり。とにかくジュリオが良かった。良かったというかすごかった。堀越先生、連載が最終章になると新キャラ出す余地がなかったから新キャラ欲が溜まってんじゃないかしら。そんで映画もおそらく最後だから好きな要素全部入れた、みたいな。ただ、バイクのくだりは堀越先生もびっくりらしいので(インタビュー)、ジュリオはみんなで作り上げた総合芸術。
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