北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『沈黙のパレード』の感想

 面白かった!! けどシリーズベストは『真夏の方程式』な!! という立場。ただ、映画全作に共通するテーマが見えたのと、上映トラブルの愚痴を書いておきたいのと、ずんの飯尾。
 テレビスペシャル『禁断の魔術』は未見。明日観ると思う。

劇場版を復習したら超面白かった

 マジ最高のシリーズなのでは。邦画で、しかもテレビ局映画で、売れ線ど真ん中でこのクオリティは破格でしょ。『真夏の方程式』は初見時に度肝抜かれた覚えがあるんですが、『容疑者Xの献身』も今観たら普通に傑作でしたよ。フジテレビの凋落によって私の中のフジテレビ観が大きく変わった、というのもあるかもしれない。まぁ、未だにこんだけの映画作れるなら凋落というのは変な話かもしれない。ヒットもしそうなくらいのスタートダッシュだったらしいし。


 そんなこんなで復習時のツイート。湯川は「献身自首逃げ」に翻弄される運命にある、と共通項を拾って面白がってたんですが、『沈黙のパレード』がまさにそのことをメインテーマに扱った作品だとは思いも知らなかった……(原作既読者からしたら当たり前の話なんでしょうが)

自白至上主義と戦う湯川

 『容疑者X』も『真夏』も、湯川が真実にたどり着きそうになると犯人たちは自白によって真実に蓋をし、逃げ切ろうとする。湯川の探偵としてのスタイルは「仮説を実証して真実にたどり着く」なので、自白至上主義とも言える日本の司法とは食い合わせが悪い。犯人たちはそこをついてくる。
 そして、本作『沈黙のパレード』の犯人(であり超憎まれ役)は自白至上主義の裏をかき、徹底的な沈黙で無罪を勝ち取ったモンスター。さすがに警察が無能すぎるじゃろ……とか思ったんですが、まぁテーマとして面白いのでワクワクしたのは事実。
 その後も別の犯人が自白によって真実に蓋をしようとするのだが、湯川の中では自白で隠された真実を暴いても誰も幸せにならないという過去がトゲとして残る。これは『容疑者X』の石神のことなんでしょうね。直接名前を出しはしないものの、ハッキリと過去作に言及するのは珍しいので驚きました。『真夏』ファンとしてはそっちとも結びつけてほしかった気持ちもあるw(勝手に妄想するのでいいです)
 要するに、完全無欠の湯川が今日も難事件を解決する、という単純な話ではなく、『容疑者X』から続くキャラクターアークが描かれている。自白によって蓋をされた真実にたどり着き、それで人の幸せも考慮するようになる。探偵としての成長、ネクストレベルと言える物語。もちろん湯川の精神的成長という意味では『真夏』での疑似父子ドラマも重要だよね!(しつけーよ)

湯川の動機

 『容疑者X』は大学時代の友人である石神(犯人)、『真夏』は子供(犯人に利用される)、そして『沈黙のパレード』は草薙でしょうね。草薙との友情。本作はシリーズの中でも異例なほど草薙に比重が置かれた作品で北村一輝が渋すぎて最高。事件が難航すればするほどヒゲが伸び、偽犯人が用意した自白のシナリオに乗っかっる際にはヒゲをそる。ヒゲでキャラクターを語るのは湯川にも各相棒にもできないアプローチになってて素晴らしかったです。北村一輝の発する色気が映画のバランスを崩すほどの存在だった気もするが、まぁそれもよし。念願の準主役(実質主役)という感じでしょうか。
 『真夏』は限りなく湯川個人で動く作品だったから好きというのもあるんですが、今回は草薙との友情。それもはっきりと表立って主張するのではなく……というバランスが素晴らしい。石神の件も踏まえつつ、今回草薙のために真実へたどり着こうとする姿が珍しいタイプのエモさ。

柴咲コウ復活

 内海。『容疑者X』にはあった「ラブコメの予感」みたいな要素がほとんどなく、湯川とデコボコながらツーカーでもある相棒という感じで非常に良かった。てか、今回は草薙が私情マックスで、湯川はその草薙に対してクソデカ感情なので、実は内海こそが最も中立な立場から真実にたどり着こうとする存在だったと言えたのではないか。大人のいち刑事という感じでかなり良かったです。
 けど、『真夏』派としては吉高由里子の冷めた距離感も好きだよ。目化粧の濃さに時代を感じたよ。

とにかく役者が良い

 『容疑者X』も『真夏』も役者の演技だけで魅了されてしまう作品だったのですが、今回は関係者(容疑者)が多いということもあり、演技による魅力の比重がいつもよりも大きい。さらには草薙がほぼ主役になってることもあり、とにかく演技。あっちもこっちも演技が良い。
 容疑者たちは実力者揃いなので納得なんですが、その中にいて見劣りしない……どころか最優秀助演だった疑惑すらあるほど輝いていたのが、ずんの飯尾。飯尾もすごいし、飯尾の演技を引き出したのもすごいんだけど、そもそもこのクソシリアスな役に飯尾をキャスティングしたのがすごい。その見込みもすごいし、決める度胸w マジで本作を機に飯尾の役者業、忙しくなっちゃうんじゃないかしら。正直未だに『内村プロデュース』の印象が強い……(古すぎるが変わらない良さ)

さすがに『真夏』は硬派すぎた疑惑

 本作には劇中テーマ曲が流れるし、湯川が決めゼリフ言ったりするので、『真夏』ファンとしてはちょっと残念だったんですが、まぁ久々のシリーズ新作ということで「ガリレオといえばコレやで!」という記号を入れたかった、予告で使えるようにしたかった、という事情があったのかもしれません。『真夏』の、湯川のセリフを何も知らない田中哲司に言わせるのがオシャレで好きだったんや……。
 とはいえ、計算式ズサーッがなかったのは西谷監督に良心が残っていた証拠だと思います。あれは良く言えばポップ、悪く言えば軽薄。

毎度傑作を予感させるオープニング

 過去2作も良かったけど、今回はまた特別良かった。人物の多い本作において事件の関係者を恐ろしいほどの手際で紹介していく冒頭5分。からの内海ナレーションで事件の紹介だったと発覚してタイトルずどん。最強かよ。(いや、タイトルの謎演舞は正直よく分からなかった)
 あの人数の多さは本作の特徴であり、魅力でしたね。みんなが彼女を愛していて、だからこそアイツのことを憎んでいる……という『オリエント急行殺人事件』かな? とドキドキさせるような構図からのもう一捻り加わっての結末。


 以上で感想としては終わり。マジ面白かったので、未だにテレビシリーズのイメージで腐してる人がいるのを見かけると悲しくなってしまう。
 以下、鑑賞時の話。

上映トラブル

 9/18、台風で大変な日でした。関東はまだまだ大したことないのですが、それでもいろいろと影響はあって、停電がありました。
 イオンシネマ川口。上映前の予告が流れてる際、ストップ。暗転。場内パニック……というほどではないがザワザワと動揺するのが伝わってくる。スマホで確認したら停電らしい。上映を再開するかの判断を映画館が悩んでいるのだろう、と心穏やかに待つ。幸い、映画の後に時間の決まった予定はない。
 上映再開。結構時間が経ったのだが、なぜか予告も途中から漏らさず上映。そこはカットしていいのよ。次の上映どうするつもりなんや。
 さっきも書いた通り、オープニングから魅了され、「おいおい今回は自白がテーマかよ……」とかワクワクしてると、暗転。ガストで血と涙の話をしたあとくらいだったかな。思えばその前にも画面の色調がおかしくなってて、イヤな予感はしてました。暖色の出力が大幅に減少したような印象。「キタノブルーみたいでかっこいいのでヨシ!」と自分を騙しながら観てたんですが、さすがに中断されると困る。
 ひたすら待ち。係の人は大変そうだった。映写室に入ったり出たり。かと思ったら扇風機を持ってまた映写室に入ったり。停電とその後の再始動で何かがオーバーヒートしたとかそんな感じだろうか。そんなことするなら中断して詫び石くれればいいのに……とか思ってると、「上映を再開します」。
 せっかくの没入が阻害されちゃったものの、再開されると夢中。チョロい。そしてまたキタノブルー。そして中断。詫び石持ってこいコラ。
 待ち。扇風機。上映再開。なぜそこまで完走にこだわるのだろうか……。途中で抜けたら大人しく詫び石もらえたのだろうか。揉めるのがイヤだし、揉めてる人を見るのもイヤなので席で待ってた。
 今度はさすがに最後まで完走。ただ、途中で、一瞬画面が暗転して場面転換する箇所があり、劇場内から「まただよw」とざわめきが生じてました。普通に映画が続くのでみんな揃って気まずい。いや、これはさすがに映画館が悪い。
 ということで、上映終了。時間を確認したら予定の終了時間から1時間ほど遅れてました。膀胱がやばかったわけだぜ。俺の膀胱が『沈黙のパレード』。
 帰り道では係の人が謝りながら詫び石(無料鑑賞券)をくれた。くれるならさっさと中止でも良かったよ。通しで観たい気持ちもあったし。

 結論。台風の日は大人しく家で映画観ましょう。

 今回初めて韓国版『容疑者X』を観たんですが、フジテレビ版で謎だった「なぜ雪山」「なぜダンカン」という点をあまりにもキレイに改変してるので面白いです。雪山は本作『沈黙』のエンドクレジットでも振り返ってて笑いそうになりました。

追記(2022/09/19)

 『禁断の魔術』も観たよ!