北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『8マンVSサイボーグ009』最終話の感想

 10話ですね。だよね?(毎月買ってるわけじゃないので読み飛ばしがないか少しだけ心配)

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最終話「幽霊は滅びる」

 まさかの少年鑑別所始まり。つまり、009が捕まって改造手術を受けることになる「あの日」。ここまでガッツリ過去(原作の範疇)を描くとは意外でした。
 前から本作はちょっと『サイボーグ009』に寄りすぎてると思ってたけど、最終話のオープニングが完全に『009』でいいのか……からのクロスオーバーがエピローグにて語られる。最高でしたね。どちらの原作も改変することなく、「実はすれ違ってたかもよ?」という隙間を埋める形でクロスオーバーさせる。本作のクオリティの高さを改めて感じさせる最終話オープニングだったと思います。

 からのデーモン博士の光堕ちの真相。結構ノリノリというか、スカールに対する敵意がむき出しなので笑う。『8マン』未読なのでデーモン博士については全然詳しくないんだけど、めちゃくちゃ魅力的で普通に惹かれる。我が子への溺愛ぶりには可愛い印象すら湧いてくるレベル。
 てか、本作が始まったときには「VSとか言ってどうせ共闘するんでしょ?」とか思ってたし、実際そのような話だったけど、2対2だと思ってたら最終的に3対1になってしまった。ちょっとスカールに同情してしまうなw いや、この大舞台で単身ヴィランを演じられるというのは逆に光栄と言えるか。

 002。「地下帝国ヨミ編」後日譚とも言える本作の最終話なので「どこ落ち」にも期待してしまうんですが、さすがにナシ。ちなみに『サイボーグ009vsデビルマン』では002が関わらない形で「どこ落ち」(のようなもの)が出てきます。
 「どこ落ち」はなかったけど、非常に重要な役割を担っていた002。 “急げ8マン! 弾丸よりも速く!!” というセリフ。有名なのと、小さい場面の割にはやけに強調されてるので私にも分かりましたが、『8マン』の主題歌の一節ですね。調べたら曲では「走れエイトマン」が正しいんだけど、たしかにこの状況では「急げ」のが自然。

 スカール。四面楚歌とはこのことか、というレベルで窮地に立たされるんですが、それだけではなく彼自身の正体についても衝撃の事実が明らかになる。サイボーグではなくバックアップとして用意されたロボットだった。サイボーグとロボットという2作の違いを語る上で不可避のテーマをここでも持ってきたのが見事ですし、まさしくアイデンティティクライシスに陥るスカール様にはマジで同情してしまった。困惑、絶望するスカールに対してこんなにも寄り添う心理になる日が来るとは思わなかった……。自らの手で部下を殺し、ロボットであることを証明してしまう場面は本話で一番好きな場面。ロボットの悲哀として秀逸だし、それを「幽霊」と称したのがうますぎるんだよな。

 対決。最終対決が009vsスカールという完全に『サイボーグ009』メンツでいいのか、と『009』ファン的に心配にもなるけど、形勢が逆転したのは完全にデーモン博士の裏切りのおかげだし、彼のテクノロジーの前では魔神像のセキュリティは役に立たない、となったのでバランスは取れてると言えそう。ヒーローサイドの活躍(出番)は『009』のがおいしいけど、ヴィランサイドは『8マン』。それに8マンは例のセリフがあったので十分おいしい、とも言える。
 スカール敗北のロジックがまさに「彼はロボットだから」となるのもうまい。本作は徹頭徹尾その話のみをしていた、と言えるレベル。ただのロボットではなく、作り手による愛情の有無という違いが出てきて、誰にも愛されず、ただの捨て駒に過ぎなかったからスカールは負けた、という悲しい結末。ロジックも見事なんですが、アクションとしてやってることが009とスカールの「スピード対決」なのも最高ですね。009が単にスピードで勝つ話になっちゃうとプロトタイプである基本設定と矛盾しちゃうんだけど、そこにワンロジックを加えて「最高速度に耐えられる」とし、だから勝つ。

 そんなスピード対決を003なら見守れる、というのも良い。最後の対決場面は完全に003の視点で進行する。さらには、003だからこそスカールの正体を見破れた、という話が加わってくる。『8マン』陣営との絡みにおいてもそうだけど、『サイボーグ009』陣営におけるMVPはひょっとしたら003なのかもしれない。
 ちなみに『8マン』陣営のMVPはデーモン博士だと思う。ただ、個人的に一番好きなキャラはスカール(ロボット)です。今回のスカールは泣かせる……。

 エピローグ。ここでも003がグッジョブすぎる。何度も書いてきた感想だと思うんですが、クロスオーバー作品にしては『サイボーグ009』が土台として強すぎる。そう思ってたんですが、最終話においてそもそも舞台となる黒い幽霊団(及び魔神像)は無から生まれた空虚な存在だと明らかになり、最終的には『8マン』サイドの物語が大きく動く形で本作が締められる。
 基本的に『サイボーグ009』の世界に『8マン』がお邪魔する形の作品だったと思いますが、本作のストーリーが始まる前(つまり原作の最終時点)と終わった後では『サイボーグ009』側では何の変化がないんですよね。逆に『8マン』サイドは大きな変化、まさに成長とも呼べる感動的な変化が語られて本作は終結を迎える。あまりに『サイボーグ009』に偏った内容でファンとして少し心配にもなったんですが、気づけばゼロゼロナンバーと黒い幽霊団によって『8マン』側の物語を補完するかのような関係に落ち着いていた。本作の内容自体が先輩に対するお膳立てになってて素晴らしい。『サイボーグ009vsデビルマン』だったらやはり『サイボーグ009』を立てる形になるし、『名探偵コナンvsルパン三世』(急に出てきた例)だったら『ルパン三世』を立てる形になるのが自然ですし、そうあるべきですよね。


 終わり。前話以前も相当面白かったですが、この最終話で本作への評価がさらに爆上がりする、そんな最終話だったと思います。私は『8マン』という作品については語れませんが、『サイボーグ009』の後日譚兼番外編としても十二分に楽しめたし、クロスオーバー作品独自の面白さもバカみたいにレベルが高い。2作の共通点と違いを踏まえたテーマであり、2作のバランスという意味でも隙のないすごい作品だったと思います。
 『サイボーグ009vsデビルマン』も傑作だったと思うんですが、『サイボーグ009』はクロスオーバーさせやすい理由でもあるのだろうか。2作ともここまでレベルの作品になるとは正直思ってませんでした。

 7/20に単行本上下巻が出るらしいよ!