北区の帰宅部の意訳

映画の感想を書きます(希望)

『リバー、流れないでよ』の感想

 ここしばらく観たい大作がないなぁ、という期間なのでツイッターでちょくちょく名前を見かけてたこの作品。面白かったです。平日なのにかなり混んでて人気の広がりを実感した。

ワンカット無限ループ

 不条理に襲ってきた2分間のループを延々と繰り返すのですが、それをワンカットで撮ったのが何より素晴らしい。企画色というか、その方法自体が目的化してそうな印象も最初はあったんだけど、観てるとその効果を実感。登場人物たちと時間を共有するのが何より重要だし、「あー また初期位置かよ」とうんざりする感覚もリアル。そして、場所ですね。位置関係や距離、移動の面倒くささが映画とは思えないほど直感的に伝わってくる。脳内にあの旅館のマップが広がってくるようなレベルの把握。移動の面倒くささは感じるけど、言うても2分なのでサクサク、というバランスも絶妙だったと思います。
 映画が終わるとあの旅館のことが大好きになってしまうんだよなぁ……とか思ってたんですが、鑑賞後に本作のこと調べてたらあの旅館が主演の方の実家だと知り驚愕。

オチ

 理系くんが「そういうのは関係ないんです」とエモに浸ってる一同を一蹴してくるのには笑ったけど、いくら何でもドラマと関係ないところで解決しすぎだと思う。デウス・エクス・マキナかよ。まぁ、実際に機械から神(未来人)が出てくる話なので、そこは意識的なんだろうな。
 たしかに、「祈ったら通じたんです」じゃ理屈は弱い。それは分かる。分かるけど、ドラマは乗っかる。タイムマシンの方が理屈は強い。強いが、ドラマが乗っからない。二者択一。そういう意味では「ドラマ的な感動は祈りのくだりで満足してね!」という話なのかもしれない。マルチエンドを両方描いた、みたいな。

集団ループ

 場所は戻るが、みんなでループする。なので情報共有することで選択肢が無数に広がっていく。このワクワク感、そして連帯することの頼もしさ。最初は「2分じゃ何にもできないよ!」だったのに。この感覚が絶品。最終的に旅館も好きになるけど、みんなのことも好きになるというか、愛着のようなものが湧いてしまう。
 せっかくなので最後に無駄に何周かしてみんなで打ち上げとかしたら? とか考えてしまう。それくらい名残惜しい。まぁ、初期位置に戻るので無理かw
 集団でループするので、途中参加するキャラを作れないはずなんだけど、それを「語学学習の音声をループ再生して寝てた」という理屈でクリアするくだりとか、アイディアが中盤になっても新鮮で、出オチになってもおかしくない設定なのに噛めば噛むほど味がする。

ワンカット主人公

 ずっと彼女に寄り添い続けるので自然と応援したくなるんですよね(たまに他人に移るけど)。我々観客はあの旅館視点で娘の活躍を固唾をのんで見守ってる感じ……という感想はあそこが実家という知識を得てから浮かんだものです。
 序盤はキャラクターとしての我が弱いというか、滅私に近い存在で、オモシロ設定の器という感じ。それが中盤、「ループの原因は私かもしれない」と観客が知らないことを吐露してから、一気に彼女が主体的に動き出すグルーヴ感。彼女が悩みや弱み、恨み、ストレスを吐き出すようになり、どんどん物語が動き出し、超ミニマムな『ローマの休日』を再現するようになるくだりとかも微笑ましくて良いんだよなぁ。あそこらへんを含め、アイドル感もあるのだが、それより近いのはやはり娘を見守る親視点だと思う。つまり実家視点。

天気

 「世界線がアレするので天候は変わります」という説明はまったく分からないので笑ってしまった。撮影上の都合!! まぁ、実際は雪を降らせる方が難しいと思うので、「あまりに美しいので撮っちゃおう」みたいな感じだろうか。あの設定は即興で生み出したんじゃないかしら(そのくらい雑w)。
 ただ、雪のありなしを見せることで映像にメリハリも生まれたと思うし、旅館のプロモーション効果も高まったと思うw

ループが終わって変わるもの

 たかが2分じゃ大したことは変わらないのだが、各人の心の中には大きな変化が生まれる……というドラマが良かった。それと、単純に交通事故の人はループのおかげで助かったよ、という即物的なポジティブ効果が生まれてる、と直接は描かない程度に示されたのも良い話でしたね。まぁ、どう考えてもタイムパトロール案件だと思うんだけどw

一瞬『タイラー・レイク』

 長回しとしての技術的な革新性みたいなものを誇示するタイプの作品ではない。むしろ「後ろにカメラマン立って追っかけてんなぁ」と強く意識させられるので、正直そこはよろしくない。マイナスの効果の方が最初は強い。ただ、この「後ろに立ってる」感はその場に居合わせてる感覚にもなって、最終的に本作の魅力を底上げしてるとも思う。最後の1人の登場人物としてのカメラ(であり我々観客)。
 とはいえ、何度か長回しならではのワクワクもあって、個人的にテンション上がったのは『ローマの休日』的逃避行をしてるフェイズにあった、2人に車に乗り込むシーン。「長回しなのにそのまま車内に入ってそのまま発進しただと~~??」というワクワクは『タイラー・レイク』で感じたそれに近いものがあったな。最近観たから思っただけなんですが、「今カメラどこ通った!?」とちょっと考え込みたくなってしまう楽しさ。タクくんが乗る、カメラが入る、後部座席に隠れてたカメラマンが受け取る、ミコトちゃんが乗る、発進……みたいな感じだろうか。あそこだけ急にアクション的なワクワクがあるんですよね。


 終わり。こじんまりとした場所の中でこじんまりとした時間を描く作品なんだけど、だからこその身近さ、親密さが感じられる作品だったと思います。映画の「聖地」としての強度がこんなにも高い作品って珍しいと思います。